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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-9



 モルデカイの訓練場は、野外にあった。一応前はギルドの近くにあったのだが“壊すから”って理由で、この場所に移ったらしい。誰が何を壊すと言うのか……まあ十中八九、目の前の寅娘か書類に埋もれて涙目の辰爺かどちらかだろう。

 簡素な柵とこれまた簡素な小屋。そして丸太を組んだような訓練人形。なんかこんなのオンラインゲームで見たことあるな……。レベル五まではこれを殴ってレベル上げするんだよな?


 今の状況を説明すると、訓練場の開けた所でサライが戦っている。「くっ! 意外とやるな!」とかいいながらグレイブを振り回している。「へへっ! チカゲって強かったんだな! だけど、あたしの方が強いんだぜ!」といいながら火の理術を放っている。


 当の千香華はというと、見届け役として立っている俺の真横で・・・胡坐を掻いて観戦モードだ。


「なあ? あれ何やってるんだ?」


「さぁ? 誰かと戦っているんじゃない?」


 千香華はニヤニヤしながら言った。多分、水の理術で光を屈折させて幻のように見せているんだろうけど……ああ! 【嘘と欺瞞の衣】か! 認識を操れるって言うのは、恐ろしいな……サライには実体と戦っているように見えているんだろう。

 でも傍から見ていると、一人で見えない何かと戦い、話をしている痛い子にしか見えない。別の意味でも恐ろしいな。あれを町中でやられたら、社会的に抹殺されそうだ。


「んー? そろそろいいかなー? サライの戦い振りはどう? なんか解った?」


「ああ、チグハグだな。よく今までやって来られたもんだ」


 千香華は頷いて同意を示す。


「やっぱりそう思う? 戦いの事はあまり解らないけど、理術に関しては適性が無い物ばかり使ってるよね」


「うむ、戦い方もまず武器が合っていないと思うぞ。力で制御しようとして逆に振り回されている。誰の真似なんだか……折角の速さも死んでいるしな」


 マーロウに似ているとは言ったが、戦闘センスなんかは全然似てないのか? ギルドでは本人の希望もある程度は聞くが、基本的にはその人物に合った戦い方を勧める様になっていたはずだが……俺の居ない間に変わったのか? とりあえず【看破】で見ておくか。



 名 前:サライ

 種 族:寅人

 職 業:モルデカイ冒険者ギルド支部 二段冒険者

     戦士

 生命力:中

 理 力:中

 腕 力:大

 脚 力:大

 耐久力:中

 持久力:大

 敏捷性:大

 瞬発力:大

 器用度:小

 知 力:中

 精神力:中

 技 能:剣術

     格闘術

     短剣術

     身体能力強化

     咆哮(小)

     礼儀作法

     事象干渉(理)

     看破

 状 態:疲労



 あれ? 意外に良い能力だぞ? しかしこれで二段とは……どうなってるんだ?

 技能もそれなりにあるし……礼儀作法だと! あれでか? ……ヨルグに仕込まれたのか? まあ、技能があるのと使えるのでは違うが……本当にチグハグなんだな。


「千香華……そろそろ勘弁してやってくれ」


「あいよー」


 千香華は「はい! ドーン!」と言いながらサライの足元に土理術で落とし穴を出現させて、サライを落とした。更に「頭を冷やそうねー」と水理術でその穴に水を注ぎ込む。案外酷いな千香華……。


「俺の勝ちでいいかなー? 負け認める?」


 穴の淵に捕まりながらサライが答える。


「まだあたしは負けて無い! こんな卑怯な手であたしに勝てるとお……」


「あっ、そう?」


 千香華は更に穴を広くそして深くする。ご丁寧にサライの捕まっている淵を泥に変えてだ。


「負けを認めないと、どんどん深くするよー。 負け認める?」


 泥まみれの顔でサライは叫ぶように言う。


「あたしは負けない!」


「そっかそっかー。ケイ、その辺に虫居ないかな? この中に一杯入れよー」


「ごめんなさい! あたしの負けです! 許してください……」



 最後はサライの泣きが入って勝負終了だった。そもそも最初から勝負にすらなっていないのだが……。

 サライは千香華の姿を見て目を丸くしている。彼女の中では良い勝負を繰り広げていたのだろう。実際は千香華は傷も付いていなければ汚れすら全く無い。


「ううぅ……ケイゴとはもう戦えないの? あたしは強くなりたいのに……」


 そもそも初めから戦う事は無い。なにせ俺は女を殴る事は出来ないのだ。訓練等は割り切る事も出来るが、勝負となると、まず防戦しか出来ないだろう。昔からずっとそうなのだから、これから先も変える事は難しいだろうな。

 その事はさて置いて。サライをどう扱うかだが……なんでそんなに強くなりたいんだ? この世界では強くなる事は良い事ではあるが、何か理由がありそうだな。


「サライは何故そんなに強くなりたいと思う?」


 サライは半泣きになりながらも話してくれた。

 その話を要約すると、マーロウやアドルフに憧れて、強くなりたいと思った。理術は祖母であるヨルグやイグニットのように、格好よく派手に見えるものを選んだようだ。これも一種の憧れだな。

 その人たちに比べて、自分は弱く何も出来ないのが悔しい。実戦の経験も少ない事も駄目な理由だと考え、強そうな人が居れば勝負を吹っ掛けていた。しかし、今まで戦ってみた人たちは、そこまで強くなくて参考にもならなかったらしい。つまり、周りが凄すぎてコンプレックスになっていたんだな?


「それに、あたしが強くならないと、何時までもアドルフ爺ちゃんが引退出来ないじゃないか!」


 あの爺さんは、そんな理由で引退しないんじゃ無いと思うんだが……あれは嬉々として戦いそうな人物だ。きっと座右の銘があるなら『生涯是現役』とかだろう。

 きっとマーロウ辺りも死ぬ直前までギルドの為に尽くしてくれたのだろう。それを見ているからこそ、引退して楽をさせてやりたいとか考えているんだろうな……。


「サライ……俺はお前と勝負してやることは出来ない……」


 サライは悲しそうな顔をする。


「だが、強くなりたいと言うのなら、戦い方を教えてやる」


「理術は俺が教えてやんよー」


 千香華もそれに続く。一瞬だけ大丈夫か? と思ったが、理学はヨルグに叩き込まれているだろうし、千香華もこの五十年で色んな人に教えていたようだから、過去の理術しか知らない俺が教えるよりも、良いだろうと思った。


 悲しそうだった顔を、真剣な表情に変え頭を下げるサライ。


「宜しくお願いします」


 なんだ、結構いい子じゃないか。初めの印象から面倒臭いと思っていたが……。なんだかマーロウを思い出すな。

 能力的にも悪くないし、チグハグした感じを直せば、だいぶ良くなるとは思うが、どれ位モノになるかな?

 取り敢えず、今日の所はサライも疲れているようだから、帰る事にした。



 ギルドに戻ってみると、執務室にはグッタリとしたアドルフの姿が書類の山から発見された。既に目が虚ろだ……。


「お……終わらん……。何故じゃ。普段はこんなに仕事無いじゃろう?」


「お言葉ですが……普段はエイベル様が、大半を受け持たれていらっしゃいます」


 執事に諭されるアドルフ。それにしてもエイベルはかなり優秀みたいだな? あっ! この執事ニヤニヤしてる……絶対こいつSだわ。




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