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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
61/177

4-7



 いきなり「勝負をしよう」なんて言い出して来る寅人の女に訝しげな表情を向けた。女は身長が百九十センチ以上ありそうだ。黄色に近い茶髪で所々に黒い髪が見え、引き締まった体には黒い縞がうっすらと浮き出ている。

 顔はやはり日本人に近いが、その目付きは鋭く、笑っているはずなのだが口から見える牙と相成って、威嚇してきているようにも見えた。


「あっははは! そんな顔するなよ。アンタだって強そうな奴とは、戦ってみたいって思うだろ? 目がそう語っている! あたしには解る!」


 勘違いだ。そう見えるなら、お前の目は曇っている。しかし何処かで聞いた事のあるような台詞だな……。

 千香華が肩を震わせている……ツボに入ったか?


「ふふふっ。相変わらずですね。サライちゃんは……あっ!」


 言った後でしまった! って顔をする千香華。長い事イグニットやっていたから癖が出たか? 動きまでつけていたから、おねぇ系の人になってしまっているぞ……。

 危惧した通り、目の前の寅人の女、サライは微妙な表情をしている。……ん? サライ? って事は?


「なんだ? この弱そうなにぃちゃんは……おカマちゃんかよ?」


「ちょっと待て。お前がサライなのか? マーロウの孫で、ケイローの娘の……」


「お? 爺ちゃんと父ちゃんを知っているのかい? なら話が早いね! 場所は訓練場でもいいかな?」


 何故そうなるんだ!? 知り合いだと戦わなきゃいけないのか? なるほど……マーロウの孫か、下手するとマーロウよりもバトルマニアだな。面倒くせぇ。

 だが、ケイローに頼まれた手前もあり、無視する訳にもいかないだろうと困っていた所に奥から怒声が飛んできた。


「サライ! またお前か! 揉め事起すなと、あれ程言ったじゃろうがぁ!」


 その怒声にギルドの建物がビリビリと震えたような気がした。

 奥から現れたのは、白い髭を蓄えた壮年の辰獣人の男だった。二百四十センチある俺よりも更に五十センチ程高い身長をしているが、細身の体で引き締まっている。その全身を覆う鱗は翡翠色で、辰人であるヨルグの角よりも更に立派な角が生えていた。何よりもその金色に光る双眸が、この男がまだ現役であると物語っているようだった。事前にヨルグから聞いていた姿から、こいつが元辰王の現モルデカイ支部ギルドマスターのアドルフだと理解した。


 その双眸が此方に向く、そして俺を見て「ほう……」と意味有り気な言葉を吐くと此方へ歩いてきた。


「お前……名はなんと言う?」


「俺は圭吾だ。ゲーレンで冒険者をやっていた」


「ふむ? ケイゴ……英雄と同じ名で……同じ風貌か?」


 拙かったか? 良く考えたら、こいつもゲーレンに昔居たと聞いている。あんな像があれば、名前も容姿も覚えている可能性は当然のようにあるのに……迂闊だった。

 昔のようにいきなり殺気を洩らしてしまうような事は無いが、このままだと色んな意味で拙い……どうするべきか。


「あっ! 俺は千香華っていいます。貴方がアドルフさんですよね? これ本部からの紹介状です。確認していただけますか? それと……こいつの親が英雄ケイゴに憧れていて、肖って付けたみたいなんですよー。本人もその気になっちゃって似たような格好しちゃってさー」


 千香華ナイスフォロー! だけどその説明じゃ俺がただの痛い奴じゃないか……。


「ふむ。なるほど! 確かに英雄に憧れるのはおのことして当然じゃ! 中々話が解りそうじゃのう。それに実力もあるように見受ける! どれ……ワシと手合せでも願えんかのぅ?」


 アドルフ……貴様もか! なんでこう手合せだの勝負だの吹っ掛けられるんだ俺は!

 そのアドルフの発言を聞いて黙ってられずにサライが抗議の声を上げる。


「ちょっと! アドルフ爺さん! あたしの獲物だぞ! 先に見つけて勝負を挑んだのはあたしだ!」


 少し待とうか? 今お前獲物って言ったよな? こいつらクソ面倒くせぇ!


「お前じゃ勝負にならんぞ? 相手の実力も解らん様じゃまだまだじゃの!」


「五月蝿い! やってみなきゃ解んないじゃないか! 爺こそさっさと引退しろよ!」


 呆れて声も出ない……俺の意思は無視なのか? というか俺とこいつが気が合う? 千香華はニヤニヤと見ているだけだし、俺が止めないといけないのか?

 止めるか迷っていると別の所から声が掛けられる。


「アドルフ様、サライ様。差し出がましいとは思いますが、進言いたします。周りの者が迷惑しております故、場所を移すべきかと存じます」


 声のした方を見るとそこには羊……じゃなくて、執事の格好をした未獣人の男が立っていた。メリノ種に似た姿で二足歩行するその執事は、片眼鏡をかけて、背筋をピンと伸ばし完璧な姿勢で此方に向って頭を下げる。


「ケイゴ様にチカゲ様でございますね。執務室にご案内いたします。此処ではギルドの業務に支障が出てしまいますので」


 そう言われては仕方が無い。俺と千香華は、いまだに何かを言い争っているアドルフとサライと一緒に執務室に移動するのであった。



 執務室の中に入ってもまだ言い争っている二人に、執事も限界を越えたのか苦い顔をしながら二人に向かって言った。


「私はアドルフ様に仕える身なれど、失礼ながら申し上げます。お二人ともいい加減になさってください!」


「おおぅ。エイベルに怒られたわい……サライお前のせいじゃぞ」


「なんであたしのせいなんだよ! 爺が譲ればあたしも何にも言わねぇよ!」


「なんでワシが譲らないかんのじゃ? 「おほん!」……その話は後にしようかの!」


 エイベルと呼ばれた執事が、咳払いをする事でやっと二人の言い争いも収まった。この間俺達は一言も話していない。千香華は笑いを堪えているし、俺は呆れ返っている。


「それで、なんじゃったか? 紹介状を持っとるんじゃったかのぅ?」


「はい。此方です」


 そう言って、千香華が先程渡し損ねた手紙をアドルフに手渡した。アドルフはその手紙を眺め、懐かしむ様な素振りを見せた。


「ほう! イグニットの嬢ちゃんとヨルグからか! ふむふむ……」


 アドルフは手紙に目を通している。サライは「何て書いてあるんだ? あたしにも見せてくれよ!」と騒がしい。そんなサライに千香華はもう一通手紙を取り出して渡した。


「お? あたしにもあるのか? どれどれ……うげ! 父ちゃんと母ちゃんからかよ!」


 嫌そうな発言をしながらも、嬉しそうな表情だ。ニマニマしながら手紙を読んでいる。



 二人が手紙を読んでいる間に、執事のエイベルがお茶を出してくれた。醗酵が無い世界なので、紅茶などでは無い。ティーカップで出されたのだが、緑茶っぽいので違和感が凄い。普通に湯飲みでいいんじゃないか?

 飲んでみると、意外といい香りのお茶だった。微かに感じる柑橘系の香りは、地球でのアールグレイに似たような感じだった。

 二人が読み終わるまで、少しお茶を楽しむかね……。




 4-5にイデアノテの地図を追加してみました。


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