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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-6



 その後旅という名の爆走は、順調に進んだ。そりゃそうだ。追いつける魔物なんて殆どいない。しかも中央部は魔物もあまり多くは生息していないようだ。砂漠の中に入れば、そこに適応した魔物がいるようなのだが、わざわざ入る意味も無い。

 昼夜問わず走り続け、一ヶ月で未都モルデカイに到着した。



 未都モルデカイ。そこは未種族が多く住まう場所。俺は都と呼ばれる所には、足を踏み入れたことは無い。まあ、町もゲーレンしか知らないがな……その場所は独特の雰囲気がある事を肌で感じていた。


 未人は、黒い髪と白い髪の二種類居る。全員ふわふわの髪質にアモン角(巻き角)と如何にも羊のような外見だ。一番特徴的なのはその目である。水平スリット瞳孔っていうんだったか? 黒目が横に長い楕円形をしていて少し怖い。

 未獣人も二種類居るが、毛の色は白のみだった。地球でいうメリノとサフォークの特徴を持っているようだ。メリノは良く見る全身白い毛で覆われた見た目で、サフォークは顔と手足の黒い垂れ耳が特徴的な羊だ。どちらも二足歩行している。二本の足でちょこちょこ歩く姿は可愛いものがあるが……やはり目が怖い!


 だが全てを凌駕している一番の特徴がある。普段着が全て執事服なのだ。未人も未獣人も、男も女も、年寄りも子供も全てだ。ここまでなるとカオスでしかない。……もちろん千香華の悪ふざけの賜物だ。

 未種族は、『その全てが主人を見つけ付き従う執事気性』なんていうふざけた設定だ。この世界に貴族は居ない、王は居るが王族なんて者はいない……即ち死に設定に近い。

 小説に起す前のアイデアノートが元になっている世界なので、こういう事も多々起きるのだが、こいつら……不憫で仕方が無い。下手すると一生主人に出会えない者が大半になってしまう。

 その辺りどうなのか、千香華に聞いてみた。モルデカイにも来た事があるようだし、五十年以上ギルドマスターをやっているからな。


「んー? 特に問題ないよー。代用で精神的充足を得るように提案したからね」


 千香華曰く、未都支部設立の時に、当時の未王に相談されたそうだ。「ワシも誰かに仕えたい」と。この王は大丈夫か? 地球では直ぐに占領及び隷属させれそうだと思うが……未種族はそういう性分なようだ。トップに立つより誰かに仕えて、その人物を影から支える事に喜びを覚えるらしい。

 しかし、他種族を王に立てる事は出来ない。悩んだ末の相談のようだ。

 そこで千香華イグニットはこう答えたそうだ。「嫌な事を人に押し付けても仕方が無いと思います。持ち回りにでもしたらいかがでしょう?」この提案で出来たのが『主人持ち回り制度』で、主人の決まっていない未種族に限り“仮に期限を決めて仕えられる側になる”というおかしな【義務】が発生する制度が出来たらしい。

 この制度、実はかなり好評で、仕えられる側でも自分は此処が至らないとか、こういう所を見習おうとか、自己を省みる事が出来る点は良いと言われている。しかし任期が終わった時には、大体の者が本能を抑えすぎて疲れ果てているとかいないとか……。真に仕える人物が出るまでの仮措置らしいが……王すらも持ち回るとかおかしいだろ。

 兎に角、この変な性質を持った者が多数居るこの都は、全てが行き届いていて、塵一つ無いという世界一綺麗な都なのだ。



 そんなモルデカイの都入り口で、冒険者カードを提示した時の事だった。門番の何気ない一言がこのモルデカイの異常性を浮き彫りにした。


「ほう! 三段冒険者で……は? ギルド本部のお墨付き通行許可か!? ……申し訳ありません。どうぞお通り下さい」


 その言葉が出た途端、周りの未種族の視線が一斉に俺達二人に突き刺さった。横長い瞳孔で此方を値踏みするように向けられるその視線は怖かった。切実に怖かった。

 後で知ったのだが、本部特別通行許可というのは、本来では王や各町の重要人物が他の都へ会談等で行き来する時に出される物らしい。

 それが未種族から見ると“ギルド本部が認める重要人物=仕えるべき立派な主人候補”と映り、この事態である。

 突き刺さる視線、しかし誰も近くには来ない……遠巻きに見られているのだ。横長い瞳孔で……。

 千香華にチラリと視線を向けると全く気にしていない様子だった。


「とりあえず、ギルドのモルデカイ支部にいこうかー?」


「お前……この視線に何も感じないのか?」


「んー? 気にしたら負けだよ? 前もこんな感じだったしね」


「そ……そうか。イグニットは有名人だもんな?」


 イグニットという名前に反応し更に視線が強くなった。まだイグニットの訃報は此処まで届いていないだろうが、知り合いだと認識されたのだろう……。


「早くいこー。アドルフじいちゃんに会うの久しぶりだなー」


 そう言いながら俺の手を引っ張って歩こうとする千香華だったが、アドルフってどっかで聞いたな……ああ! モルデカイ支部のマスターだったか?


「そのアドルフってのはどんな奴だ?」


 アドルフという名前で更に増える視線。これじゃ話せねぇよ。


「あれ? ケイは会った事無かったんだっけ? ……んー、会えば解るよ! 多分ケイと気が合うかもねー」


 答えになって無い千香華の返答に眉を寄せるが、それよりも更に増えている視線から逃げる方が先だと思い、何も言わずに千香華と共に冒険者ギルドを目指した。



 衆人環視の元なんとかギルドに辿り着いたのだが、SAN値がおっそろしく下がった気がする。何故狼が羊に囲まれてビクビクしなきゃいけねぇんだよ! 「やはり毛並みに気品が……」とか「あの身のこなし……」とか聞こえた。褒められるのは悪くは無いが……あの目だけは駄目だ。逃げ込むようにギルドの中へ入ったのだが、千香華は全然気にしていない様子なのだ。ギルドマスターをやっていたのは伊達じゃ無いってことか……。

 そんな俺を見て千香華はニヤニヤしている。あれ? 途中から俺だけに視線が集中していたような気がするのだが……あ! やられた。こいつ自分だけ認識を逸らしていやがったな?


 ギルドの中は良く知る昔のゲーレンのギルドと同じ造りをしている。見慣れた風景に一息吐けた気がした。幾人かの冒険者達が、併設されている休憩所で寛いでいる。そこには未人の冒険者も居たが、特に視線を向けてくる事無く、仲間と談笑している。もしかしたらただの仲間ではなく主人という可能性もあるかもしれない。外で視線を向けてきた者達よりも余裕が見える。

 他にも申獣人や午人、猫人等の冒険者も居る。午人は……日本人顔で、なんとなく面長だ。首も少し長い……馬の特徴そこに現れるのかよ……。猫人の冒険者は、おっさんに猫耳だ。日本の某聖地と呼ばれる場所にいそうだな。


 テンプレなら此処で絡まれる所だが、そんな事はもちろん無い。俺が五十年前に冒険者のあるべき姿を厳しく躾けたからな。今でもきっと教育されてるに違いない。……と思っていたのにな。何事にも例外があるのだろう。


 その人物はいきなり声を掛けてきた。


「おお! でっかい兄ちゃん! アンタ強そうだな! あたしと勝負してくんねぇかな?」


 そこに居たのは、何処かで見た事があるような笑顔を浮かべた寅人の大女だった。




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