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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-2


 暫く再開の余韻に浸っていたのだが、背後からロキの呆れ気味の声が聞こえてきた。


「はーい。はいはい。そこ迄で良いんじゃないかなぁ? 此処にぼくも居るって知ってるよねぇ?」


 視界の端でロキは、パタパタと手を振りアピールしてくる。


「あれ? 無視されてる!? ぼくは此処にいるよっ? ロキさん此処よ? おーい?」


 少し泣きが入ってきたようだ。


「……。ぼくもね……。頑張ったと思うんだ」


「ああ、ロキ居たのか?」


「ロキ? 少し五月蝿いよ? 夜中だから静かにね?」


「酷い! 圭吾ちゃんと千香華ちゃんの為に、たった五十年だけど頑張ったのにっ!」


 ロキの中で五十年はたったなのか……流石は神だな、時間感覚がおかしい。


「冗談だ……ロキ助かったよ。ありがとう」


 そう言いながら、ロキも一緒に抱きしめてやった。


「ひゃう! あれ? なんか違うよっ! ロキさんはホモォじゃないよ! ……あれ? でもなんか変な気持ちに……」


「なるな! 気色悪い!!」


 慌ててロキを突き飛ばすと、ロキはニヤリと笑う。


「甘いよっ! ぼくは女にも成れるんだよ? どっちでもオッケーさぁ」


 そういえば、こいつ雌馬に変身して、スレイプニルを生んだエピソードがあるような奴だった! ロキはシナを作りながらにじり寄ってくる。

 何時もと違う反応返したらどうなるかな? と思って行動したが、大間違いだったと気付いた。やべぇ俺ピンチか?


「二人とも冗談はそれくらいにしようか? 一応冒険者ギルドの中なんだし、ケイも長居は出来ないと思うよ?」


 へ? この立派な建物は冒険者ギルド本部なのか? 長居出来ないのは何故なんだ? と疑問を口にしたら呆れた顔で言われた。


「私が居るんだから、ギルドに決まっているでしょ? それと……『英雄の像を傷付ける不届き者が出た』と報告が上がってるんだけど?」


「俺もしかして……お尋ね者?」


「イエース! 器物破損罪及び英雄への冒涜罪。あとギルドへ喧嘩売った事になってるねー」


 マジか……短気は損気ってこの事だな。


「それじゃあ……どうするんだ? セトに少し頼まれ事されてるんだが……」


「ん? セトから? どんな事?」


 目が爛々と輝いてますよ? 千香華さん?


「えっとな……」


 セトの頼み事と言うのは、簡単に言うと亡命の受け入れ先になってくれ、という事だった。

 俺達と同じように、現代日本から叙事詩世界神になった奴が居たようなのだが、そいつはエタ作家だったらしい。それで責任取れって事で、自らの作った世界へ派遣されたようだ。

 しかし、そいつは何を勘違いしたのか「これからこの世界は俺がルールだ」等と言い出して、好き勝手にやり始めた。

 協力し合って世界を纏める筈の、自分が創り出したその世界の神を幽閉するだけじゃ飽き足らず。一つの種族を配下に置き、その他の種族に戦争をしかけ、滅ぼしたり奴隷にしたりしながら世界を壊し続けているらしい。

 そのまま滅びてしまうなら別に構わないようなのだが、その世界の神がどうにか抜け出して、セトに嘆願して来た様だ。『私の世界の子等をどうにか逃がしてあげて欲しい。私はあの世界と共に滅びます』と……。

 見兼ねたセトは、その阿呆に付き従っている一つの種族以外の残り八種族を、他の未完成叙事詩世界に亡命出来る様にしてあげるとの事だ。そこで俺達の世界にも二種族頼めないかとオファーが来た。

 俺達の世界は五十年前の出来事から安定しているようだが、完成されていないので、受け入れる事が出来るらしい。


「それで? 受け入れる二種族って?」


 もう受け入れる事は決定なのかよ。まあ、俺も放っては置けないなと、思っていたんだけどな。


「ああ、その世界は典型的なテンプレ世界でな? 受け入れる種族は、“エルフ”と“ドワーフ”だ」


「エルフ! キター! ドワーフ! キター!! 何時来るの? 今でしょ!」


 興奮して意味の解らない事を言う千香華を宥め、ロキに話しかけた。


「しかし、そんなメジャー種族が虐げられるものなのか?」


「あー、あの世界ねぇ……。酷かったよぉ。ロキさんでも引く位には酷かった。エルフは見た目が麗しいから男女共に性奴隷。ドワーフは男が労働奴隷及び戦闘奴隷で、女は変態貴族の慰み者だったよ。あっ! ドワーフの女性は見た目少女だからねっ?」


 テンプレ奴隷チーレム世界かよ……。


「見ていて辛かったんだけど、ぼくは許可無しで勝手な事が出来ないようになっていてね? 本当に何度も子供達を放ってやろうかって考えたぐらいだ!」


 ロキが最後の方で怒りを隠しきれず、殺気が漏れていた。ロキ怖いぞ?


「まあ、そういう訳でな? 受け入れを了承するなら、準備が整ったら連絡くれって言われたんだが……」


「準備? 何がいるの?」


「住まわせる場所とか、この世界の住人との兼ね合いとか? 千香華はギルマスだし動けないだろ? 俺一人で場所探しか……」


「え? 私も行くよ?」


 千香華は当然のように答える。


「は? ギルドどうするんだ?」


「イグニットはもう年だし、私が居なくても大丈夫! 世界各町に支部も出来ているし、優秀な後継者も居るしねー」


 そうか……もう俺達が手を加える必要が無いまでになったんだな。俺が感慨深く思いを馳せていると千香華が疑問を口にした。


「あれ? 連絡ってどうするの? ロキはケイが戻ってきたら一旦帰るって言ってたでしょ?」


「うん。流石に他の仕事も貯まってるし、寂しいだろうけど行かなきゃ!」


 とりあえずロキはスルーして、連絡方法を話した。


「実はな? このセトがくれた腕輪があるだろ? これな……セトに直通の連絡が出来る機能があったんだ。しかも緊急時には、念じればセトの神殿に飛べたらしい……」


「な……んだと! そんな便利機能が……知らなかった! ……あれ? でもそれってさ? 伝言役の……」


 気付いたか? そうなんだよ。俺は意地の悪い顔でロキに目線を遣りながら言った。


「ロキいらねぇんじゃないか?」


「酷いっ! ロキさん要らない子扱いされた! 泣くぞっ! 泣いちゃうんだからねぇ」


 冗談だよとロキに言い。また何時でも来いと言うと、再びシナをつくりながらにじり寄って来た。あれ? 少し体つきが女っぽくなってるのはどういうことだ? 俺が逃げてロキが追いかけるという構図が少し続いたが、突然ロキが飽きたのか「そろそろ行くねぇ。また遊びにくるよぉ」と言いながら去っていった。去り際に何か企んでいるような顔をしていたが……嫌な予感しかしねぇわ。


 千香華がとりあえず数日待ってくれと言うので、大狼の姿になり再び町の外へ飛び出したのだが……数日? この町には居れないし……また野宿かよ!




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