表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
55/177

4-1

新章開始です。



 あれから五十年……五十年経ったらしい。半世紀だぞ? 信じられるか? 三年寝太郎どころの話じゃ無い。何故こんなに時間が必要だったのかは、セトが説明してくれた。

 理由は二つ。一つは単純に限界を超えて力を使った為に、魂が傷付き過ぎていたらしい。そしてもう一つは、俺達二人が別々になっていた為らしい。どういう事かというと、俺達は二人で一柱の神で、神力も共有している。

 セトの神殿は神力の回復が早いという事と、有名な“医神”が診てくれている様なのだが、それはあくまで半分。俺だけに適用されている。つまり前回の二倍以上時間が掛かるのも当然という事だ。



 今俺はゲーレンを見下ろせる丘の上に居る。随分と大きくなったものだ……初めてゲーレンに来た時に比べ、面積だけなら、五倍程の広さになっているかな? まあ、五十年も経てばな……。

 ハッキリ言って久しぶりにこのイデアノテの地に降り立った時、セトがまた変な所に下ろしやがった! って思ったんだが、数日の間、地形や匂いで確認した所、此処は間違いなく冒険者の町ゲーレンだった。セト……疑ってすまん。



 時刻は夜半過ぎ、人々も寝静まってきた頃だ。俺は町を見下ろし、さてどうしたものか? と鼻の頭を前足で掻いている。


 実は一度町の中に入ろうとはしているのだ。しかし、門番が居て簡単に町の中に入る事が出来無そうだった。一人一人に身分証みたいな物を提示させている。当然の様に俺はそんな物を持ってはいない。考えあぐねた結果、勝手に入るという愚行を犯してしまうのは仕方が無い。

 果たして上手く侵入出来てしまったのだが、俺はそこで自分の目を疑う事になる。微妙に残る面影に懐かしさを覚え、周囲をキョロキョロと見回しながら歩いていたのだが……当時の町の中心部辺りに、それは圧倒的な存在感を放ち鎮座していた。


「はぁ?」


 間抜けな声が出てしまった。そこにあったのは、俺の姿をした巨大な石像が、人々を見下ろす様に建っていた。

 そこに記されているのは『偉大なる英雄ケイゴの功績を讃える』と書かれている。……馬鹿か! ばっかじゃねぇのか? 何だよこれ……嫌がらせか? はっ!

 気付いた時には遅かった。つい拳が出て、その文字が書いてある石盤を殴りつけてしまっていた。『ケイゴ』の文字が砕けて読めなくなっていた。


 周囲がざわつく。町の警備と思わしき一団が、此方に駆けて来るのが見えた。

 俺は逃げた。コートを頭から被り、全速力でその場を離れた。


 物陰に隠れて、町から出るタイミングを計っていると、いつの間にか後ろに一人の男が立っていた。男は頭からローブを目深に被り、顔は良く見えない。焦っていたとは言え俺の後ろを取るとは……などと思っていると、男は小さな声でこう言った。


「今晩、合図を送る。町が見下ろせる丘で待て」


 それだけ告げると、男の姿は霧のように掻き消えていった。



 男の正体については、大方の予想は付いている。それよりも“合図”だ。もう結構な時間此処で待っている。どういう“合図”を出すのかすら解らない。

 俺は深いため息を吐きながら町を見下ろしていた。すると町の一角から光が発せられているのに気付く。

 それは同じ感覚で明滅を繰り返す。短く三回、長く三回、そして短く三回……あれはトンツーか? 所謂モールス信号だった。意味はSOS……救難信号だ! なにかあったのか? あれはこの世界の人には、解るはずは無い。ということは、千香華なのか?

 俺は慌ててそこへ向う。光が発せられているのは、町でも一番高い建物の五階にある一室。遠目にも窓が開け放たれて居るのが見える。大きな窓でこのまま突っ込んでも問題無さそうだ。俺は屋根を伝いそのまま大きく跳躍してその窓に飛び込んだ。

 四本の足でしっかりと着地して、部屋の中を油断無く確認した。部屋の中には二人……ん? この匂いは?


「おおぅ! 派手な登場だねぃ。認識の阻害していて良かったよぉ」


 そこには、千香華と……千香華? 銀髪の青年の姿の千香華が二人居た。二人は腕を組んでグルグル回り、そしてこう言った。


「「どっちが本物でしょー?」」


 俺はため息を吐いて、本物の千香華に向って言う。


「お前だろ?」


「ええ! どうして? 何でわかるのさ? ぼくつまんなーい」


 もう一人の千香華が姿を変える。やはりそこに居たのはロキだった。


「圭吾ちゃんは乙女ゲームの主人公かっ!」


 すまんが言ってる意味が解らない。


「でも、なんで解ったの?」


 俺は前足で鼻をトントンと叩き言う。


「匂いだよ」


「ええ? ぼく臭い? 臭う?」


「逆だ」


「うん? 私が臭いの?」


 二人して自分を嗅いでいる。


「違う。ロキは知っている匂いがしないんだ。千香華は誤魔化しているけど、ロキは別物になっているんだろ?」


 俺がそう言うと、二人は「なるほどね」と言って頷いている。本当は、千香華が姿を変えて誤魔化しても何故か解るのだが、とりあえず黙っておこう。いつかリベンジ! とか言って、別の姿でやられた時にも言い当ててやる。


「それよりも……何かあったのか?」


「ん? “合図”するって言ったじゃん?」


「え?」


「え?」


 ……こいつ解って無いのか? ロキが半笑いなのだが、知っていてそのままにしてたのだろう。


「あのな? あのモールスの意味解っているのか?」


「うん? 私あれしか知らないし……」


 俺は半笑いのロキを睨みつける。


「いやいやっ! あれの方が早く来るだろうって思ってねっ? しかし本当に早かったねぇ。愛だねっ! 愛!」


 お前はもう黙れ! 俺は今日何度目かのため息を吐いた。千香華を見ると、揺れ動く俺の尻尾に目が釘付けになっている。


「ねねね? なんでその姿なの? モフって良い? 良いよね?」


 と言いつつも既に俺の尻尾に纏わり付いている。そう、俺は本来の大狼の姿で此処に居る。


「そうだ! 何だよあれ! 俺この町歩けねぇじゃねぇか!」


「……あっ!」


 あっ! じゃねぇよ! こいつ何にも考えて無かったのかよ!


「ごめん……ケイを驚かせるって事ぐらいしか考えてなかったよ。そうだよね……良く考えたら、同じ格好して歩いていたら……英雄に憧れる痛い人だよねー。あははははははっ」


「あははははっ! 千香華ちゃん旨い事言うね! 憧れて英雄コス……ぷっふー」


 こいつ等……殴られたいのかな? 俺殴っちまうよ? 全力で!

 俺は未だに尻尾に纏わり付く千香華を振り払い、獣人型に戻る。全身の骨がゴキゴキ音を立てる。筋繊維がブチブチと鳴り、変質していく。今はあまり痛みを感じない。何故だか解らないが、あの時『痛みは邪魔だ』と思ったからか? セトは思い込みと言っていたからな……まあ、何にしても良い事だ。あれは想像以上にきついからな。


 狼獣人の姿に戻った途端に千香華が抱きついてきた。


「何にしても……ケイ、お帰りなさい。寂しかったよ」


 俺は千香華の頭を撫でながら答える。


「待たせてすまないな。ただいま……千香華」


 俺と千香華は、再会の抱擁を交わす。こいつ今男の姿だけどな! ネットでたまに湧く奇怪な鳴き声の生物が出てきそうだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ