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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
3章 感じるな、考えろ!?
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幕間 残された者の生き方3


 ある冒険家の手記


 俺は冒険家、申人のシーン。

 今回の冒険は俺の冒険家人生での最大目標達成になる筈だった。それがあんな事になるとは、思いもよらなかった。


 俺とアドルフは傷を癒した後に卯都を立ち、冒険者の町と名高いゲーレンへ向う。アドルフは長い間、辰王として君臨していただけあって、恐ろしく強かった。此方としても楽な旅になり、ラッキーだったと思う……追っ手が無ければだが。その追っ手もアドルフが直ぐに追い返してしまうから、大した事は無いのだけどな。

 兎に角、旅は順調に進んだ。


 ゲーレンに後一日というところまで来た時、ゲーレンの方向で激しい戦闘音が聞こえてきた。丁度、林の中だったのもあり、前方で何が起こっているのか知る術が無かったのだが、尋常では無い破壊音が聞こえてくる。こんな激しい戦闘を繰り広げるのは人ではありえない。どうする? ここに暫く身を潜めるか? そう思った途端に戦闘音は止んでしまった。

 俺とアドルフは顔を見合わせる。どちらからともなく頷き、慎重に歩を勧めていく。

 林から出ると草原が広がっている筈だったのだが、目の前に広がる光景は異様だった。大地には所々に大きな穴が開き、此処で行われていた戦闘の激しさを物語っていた。

 突然アドルフが怒鳴るように言う。


「シーン! 伏せるんじゃ! 落ちてくるぞ!」


 俺は上を見上げた。何が落ちてくるというのか? 黒い塊? その直後、落雷など目じゃ無いほどの轟音が鳴り響き、俺は吹き飛ばされ気を失った。


 体が揺さぶられ覚醒を促される。目を開けると、凶悪な口と白い髭の恐ろしい目付きの男の顔が眼前にあった。アドルフの顔だ……気付けには最適の顔かもしれない。「あれを見るんじゃ」とアドルフが指差す先には、巨大なクレーターが出来ていた。一体何が……アドルフに聞いてみても首を横に振るばかりだった。アドルフもほんの一瞬だが前後不覚に陥り、状況の把握は出来ていないらしかった。


 俺は何故だか昔を思い出していた。あの時と同じ様な胸騒ぎ、あの二人が消えた時に感じたそれと同じような……。

 次の瞬間走り出していた。確実に危険が待っているであろうクレーターの方向へ。

 アドルフの制止も聞かず走る。あの時と同じ、子供の俺と今の俺が重なる。クレーターから黒と白のドラゴンが飛び立つのが見えた。しかし“あれが俺の目指すものではない”とそれを無視して駆ける。今思えば何故そう思ったのか、良くは解らない。兎に角、急がなくてはという気持ちだけが俺を支配していた。


 土が盛り上がり、大きな穴が穿たれた大地の淵に立った。俺はその光景に目を奪われる。そこには光に包まれる大きな黒い獣とその側で悔しそうに肩を震わせる……猫獣人? 光は更に輝きを増す。目を開けていられない……。だがこの光景は見たことがある。子供の頃……俺が冒険家を目指した理由。二人が消えた時の光だ。


 俺はまた間に合わないのか。


 光が収まり再びその場所に顔を向ける。そこには一人の猫人の女が立っていた。赤い髪のまだ若い女だ。この場所に似つかわしくないその女は、酷い顔をしていた。決して醜悪という意味では無く。どちらかというと美しい……間違いなく美しいのだが、憤怒、焦燥、悲観、そして後悔、色んな表情が混ざり合い、今にも泣き出しそうだった。

 此方に視線を向ける女、先程の表情はなんだったのか? と思える程の感情薄い瞳が睨んでいる。普段の俺なら、あんな危険そうな女には近付かないのだが、この時の俺はおかしくなっていたのかもしれない。


「おーい! アンタ一体何者だ?」


 そう声を掛けながら俺は近付いた。


「貴方こそ何者ですか?」


 俺は慌てて名乗り聞きたい事をまくし立てるように話した。失礼な事とは解っていたが止められなかった。

 女は“イグニット”と名乗った。その名前には聞き覚えがある。今回の目的のゲーレンにある冒険者ギルドのギルドマスターの名前だ。まさかこんなに若いとは思っていなかった。「何故こんな所に冒険者ギルドマスターが居るんだ?」そう問いかけると、イグニットは此処で起こった事を話してくれた。



 イグニットから聞いた話は衝撃的だった。そして悟った。俺は目的を失ったのだと……。いやもう一人居た! 銀髪の青年だ。その人の事も聞いてみたが答えは“行方不明”との事だった。完全に望みが絶たれた瞬間だった。

 しかし良く考えると、昔あの光に包まれた二人の内一人はつい先程まで此処に存在していた。俺の考えが正しいのなら、彼は死んでなんて居ないのでは無いか? そう思えた。



 今俺はゲーレンの町に居る。この町で彼……ケイゴという名前らしく、種族も戌族とは違い狼族という種族らしい。そのケイゴは、この町で知らないものが居ない程の有名人だった。冒険者ギルドの創始者の一人で、最強の冒険者として名高く、慕う者も多いようだった。その彼が死んだという話は直ぐに町中に広がり、悲しみに包まれている。


 この町でアドルフともお別れだ。彼は、この町で冒険者をやっていくらしい。「ケイゴという男と戦ってみたかったのぅ」とか空気の読めない事を言っていたが、本当に戦闘系の種族の考える事は解らないなと思った。


 俺はと言えば、数日前まで銀髪の青年を探そう! と息巻いていたのだが、落ち着いて見るとその気持ちも収まって来ていた。もう年なのかも知れないな……。

 自分の事だけではなく、後続を育てるというギルドの考え方に、影響を受けたのかもしれない。


 あの二人は特別な存在だ。俺はあの二人を神なのではないか? と思っている。その二人の謎を解くのは、俺じゃ無くてもいいのではないか? 俺の子や孫に託すというのも悪くは無い。

 俺の子だからきっと話を聞いているうちにその気になるかも知れない。駄目だった時はその時考えよう。



 この手記には、俺の人生が詰まっている。冒険家としてのノウハウも、その理念も……。

 この手記を見て何と愚かな男だと思う子孫も居るかもしれない。実際俺自身も馬鹿だなぁと少し思っている。冒険家を目指した理由が、もう一度あの二人に会って、俺はこんなに立派になったんだと伝えたかった。そしてあの時言えなかった“ありがとう”を言いたい。ただそれだけが俺の目標だったからな。

 しかし、願わくば俺の意思を継いでくれる者が現れる事を祈る。



 神を追い、世界を駆け巡った馬鹿な冒険家シーンの冒険はここで終わる。だが世界にはまだまだ神秘は溢れている。知らずにいるのも構わないが、知る事の楽しさは格別だ!



 四百九十三年著 冒険家シーンの手記 終章“世界はお前を待っている”より



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 ???視点


 なんなのよ! なんでなのよ! 私が一体何をしたって言うの? ただ愚痴を溢しただけじゃない! それがなんでこんな事になるのよ……。


 あの二人と話したいだけなのに上手くいかなくて、私は焦っていた。あの町で面白い事になっているのも知っていたし、そんな事を始めた二人にもお礼と謝罪をしたかった。

 だけど前回そこに行こうとした時に、私は迷惑をかけたと知った。会わせる顔が無いの……感情的になってバカなんて言って、魔物を呼び寄せてしまって、その後始末で大怪我をさせてしまったみたいなの……どうしたらいいの?

 周りの人が言うには、あの二人の名前はケイゴとチカゲっていうらしいの。チカゲの方はどっか行っちゃったみたいだけど……。でも変わりにイグニットって名前の人が来たみたいなの。おかしいのよ? その人も解らないの……この感じだと同じ人だと思うんだけどなぁ?


 それでね。沈んで居た私を心配してラヴァンとシャフォールに色々話したのよ。そうしたらシャフォールがこう言ったのよ。


「主様! 我にお任せください! 必ずやその憂い晴らして見せます」


 私は期待したのよ。誤解を解いてくれるのかな? もしかしたら、会える様に此処まで連れて来てくれるのかな? って思ってたの!

 それなのに! それなのにー! シャフォールはイグニットが一緒に居ると思われる人達と戦い始めたの。なんでそうなるのよ! 私は慌ててラヴァンを探したわ。あそこまで行くのには時間が掛かるの。ラヴァンもお空を飛べるからきっと間に合うのよ。


 もっと拙い事になったの……どうやら今度はケイゴと戦い始めたの。もっと急いでーお願いラヴァン!



 その場所に着いたの。そこにはボロボロになったシャフォールと、それを今にも噛み殺しそうな黒い大きな狼が居たの。あれ? ケイゴってあんなのだったかな? そんな事考えている場合じゃ無いの! 止めなきゃ! シャフォールは自業自得だけど、死んでしまったら大変な事になるのよ!


「ラヴァン! 止めるのよ!」


「畏まりました。我が主」


 そう答えるとラヴァンは急降下するの。私は精一杯叫んだのよ。


「その子を殺しては駄目!」


 ケイゴと思われる大狼は私の声を聞いて、止まったのよ。良かったと思ったのに……今度はラヴァンがケイゴに攻撃を加えたの! ケイゴはゴロゴロ転がっていった……なんでそんな事するのよ!


 ラヴァンはシャフォールを掴んでお家へ向って飛んでるの。私はラヴァンの背中をバシバシ叩きながら問い詰めたの。そうしたらラヴァンは何て言ったと思う? 「主様の命に従っただけですが……拙かったでしょうか? 今から止めをしっかり刺してきましょうか?」なんて言うのよ? なんでそうなるのよ!


「なんで殺そうとするのよ!」


「シャフォールも主様のお心を掻き乱す元凶を片付ければ、元気を出して頂けると思ったのでしょう」


 私は開いた口が塞がらないのよ……自分のした事は何も悪くないって言うの。駄目だこの子達、早くなんとかしないと……。


 シャフォールはずっとうわ言の様に「何なのだ……あれは一体何者なのだ……」と言っている。少し可哀想だけど、自業自得なの! お家に帰ったらどちらとも説教だわ!


 でもどうすればいいの? あんな目に遭わせちゃったら、もっと会いに行きにくくなるのよ。どう考えても私が命を狙ったみたいになってるじゃないの! なんでこんな事になったのよー。




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