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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
3章 感じるな、考えろ!?
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幕間 残された者の生き方2



 ヨルグ視点


 私が目を覚ました時には、既に全てが終わっていた。黒いドラゴンと戦っている最中に、理力切れの頭痛がしはじめて、それを無視し理術を使い続けた結果、痛みのあまり突然意識がとんでしまったのだ。

 チカゲ様が大出力の水理術を使う時に、補助として大気中の水分子を大量に集める役目を仰せつかったのですが、その直後に意識を失ったので、術の結果は解らない。しかし、きっとお役に立てたのだろうと思う。


 理術は素晴らしい。辰人の中では大した身体能力も無く。剣士としても普通程度の私が、あんな化け物と戦う場に居られたのも、理術のお陰だ。

 その理術を創り出された、ケイゴ様が身罷られたと聞いた時は、目の前が真っ暗になりました。私はまだまだあの方に教えを請いたかった。

 正確に言うとケイゴ様は、戦いの末に消耗しすぎたお力を回復させる為に、他の神の所に身を寄せているとの事ですが、戻っていらっしゃるまでどのくらい掛かるかは解らないようです。


 だとしても、チカゲ様の御様子がおかしい様な気がするのは、何故なのでしょう? 冒険者の中には「冷酷だ」とか「薄情だ」とチカゲ様を避難するような事を言う輩も居るようですが(もちろん私自ら諌めて置きましたけど)私からすれば無理をしているように見受けられます。

 常に気を張っておられると言いますか、雰囲気が変わられたと言いますか……兎に角、ケイゴ様が側に居られた時とは、何かが違うのです。その事が気になり、失礼に当たるかも知れませんがチカゲ様に聞いてみることにしました。


「イグニットさん、大丈夫ですか? ずっと気を張っていらっしゃるように思えますよ?」


 本来の御名前はチカゲ様と言うのですが、普段話す時は、現在のお姿のイグニットで呼ぶように言われています。チカゲ様は何か驚いた様子でしたが、何かを取り繕うように言いました。


「特に問題はありません。“大丈夫ですよ”」


 その時のチカゲ様が“嘘を吐いている”のがなんとなく解りました。私の技能に【辰の瞳】というものがあります。使い方が解らない技能だったのですが、理学を学び理術を扱えるようになって初めて解りました。目に理力自体を集中する事によって、物事の真偽が見えるようになったのです。

 本来はハッキリと見えるのですが、チカゲ様は流石に神でいらっしゃるせいなのか、ぼんやりと違和感を感じる程度です。たぶん始めから疑って掛からないと、その違和感に気付く事が出来ないぐらいですが……。


 私は思い切って尋ねました。


「本当ですか? 嘘を吐いているんじゃありませんか?」


 チカゲ様は大層驚いた様子でした。そして普段絶対に見せない恐ろしい形相で言いました。


「何で! 何でそんな事言うんだよ! 何で嘘だって……」


 チカゲ様の目には涙が貯まって、今にも零れ落ちそうです。その時解りました。この方は御自分にすらも“嘘を吐いて”耐えて居たのだと。ケイゴ様が戻られるまで、頑張らなくては、強く在らなくてはと……。

 私はチカゲ様を抱きしめながら言いました。


「私には嘘が解ります。本音を隠さないでください。言いたい事があれば言ってください」


 チカゲ様は堰を切ったかのように泣きながら言いました。


「私、間に合わなかった! あんなに急いだのに! ケイの助けになれる筈だったのに……それにあんなに苦しそうにしているケイに、何もしてあげられなかった! 声を掛ける事ぐらいしか……最後ケイは私に心配かけないように笑っていたんだ! 何も役に立てなかったのに!」


 声量は大きくは無かったですが、それは魂から搾り出されるような悲痛な叫びでした。ずっと抱え込んで居たんですね……ご自分が間に合わなかった事でケイゴ様があんな目にあったのだと。


「チカゲ様! それは違いますよ? ケイゴ様は“安心して笑われた”のだと思います。チカゲ様が居てくれるならこの世界は大丈夫だと、安心して静養できると……」


「……そう……なのかな?」


「そうです。そうに決まってます!」


 私は体を離し、拳を握り締めて断言しました。


「そっか……なんかすっきりしたよー。ありがとー」


 チカゲ様が心からの笑顔を見せてくださいました。

 その後、なんで嘘って解ったのかと詰め寄られましたが、技能の事を話したら「うむむ……その技能持った人には気を付けないといけないね」と難しい顔でおっしゃっていました。




 他に目覚めて驚いた事に、このギルドに辰王アドルフ様が、所属なされるという事がありました。

 マーロウさんも元寅王ですが、その性格からとても親しみ易い王だったと“自分で”言っていました。ですが、アドルフ様は厳格な王であらせられて、その強さからも畏れられて居た王でした。


 実際に会った時、私は震えが止まりませんでした。もし不興を買えば私ごとき一瞬で吹き飛ぶ、そんな威圧感があったのです。しかし、現実は違いました。アドルフ様と呼べば「様は付けないでくれるかのぅ? 堅苦しいのは嫌いなんじゃ」とかいいますし「王なんてやるのはもう御免じゃ、この開放感が堪らないのぅ」と言いながら平気で食べ歩き等をしております。

 最近は理術と理学にはまり、私に「先生! 此処なんじゃが……」と質問の嵐なのです。しかし、その強さは相変わらず健在で、あっと言う間に段位が上がりそうです。


 マーロウさんは、あの時の怪我で一線を退きました。今はケイゴ様の後を継ぎ、戦闘技術顧問として皆に訓練をつけています。片腕、片目なのにアドルフさんですら圧倒するのです。アドルフさんは「何故じゃ! ワシの方が能力的には上なのに! 何故勝てぬ!」と悔しそうなのですが、マーロウさんは「ケイゴの教えてくれた戦い方と考え方を仕込めば、アドルフはまだまだ強くなれるぞ」と嬉しそうに言っています。

 自身がもうあまり戦えないと判ってから、後進の育成に積極的になったマーロウさんはいつも「ケイゴが戻った時に恥ずかしく無いようにしないとな」と言っています。戦いの中に身を置き続けていた人なので、少し心配だったのですが、生きがいを見つけてくれたようで安心致しました。

 最近は、私の事も考えてくれているようで、この前は食事に誘ってくれました。「今度折り入って話したい事がある」と言っていましたが、なんでしょうかね?





 色々な事があり、あれから五十年の月日が経ちました。ギルドは発展し、数多くの町に支部が作られ、人々の生活は良くなりました。そうそう、ケイゴ様が英雄として奉られ、町に石像が造られました。チカゲ様が理術で彫られたのですが「ケイは驚くぞー」と悪戯をするような顔をしていたのが印象的でした。


 多くのものが亡くなり、冒険者も代替わりしました。私は辰族ですので他の種族よりも長命ですが、マーロウは天寿を全うしました。種族の違いから子をなす事は難しかったのですが、幸いな事に一人の子を授かる事が出来たのは御二人の御加護でしょうか? マーロウには幸せだったと言って貰えました。最後まで「ケイゴに会いてぇなぁ。俺達は頑張ったぞって所を見せてやりたいなぁ」と口癖の様に言っていました。


 チカゲ様は、見た目を老いるようにしているようで、相応の年に見えるようになっています。見た目が若い頃は、色んな方に求婚されていたようですが全てを断り、独り身を貫いています。当然ですね……ケイゴ様に敵う者など居ないのですから。

 突然知らない軽薄そうな男性を連れて来た時は、何事かと思いましたが、そのような関係でも無さそうでした。

 男はフヴェズルングという名前で、チカゲ様の友達との事でした。あまり多くを聞くのに嫌な予感がしたので、特に何も言いませんでしたが、あの方も普通じゃ無いような気がしました。



 そんなある時、町の周辺で黒い狼の目撃情報が多数報告されました。その大きさは明らかに異常で危険視されているのですが、私たちは歓喜しました。ついに戻って来たのですね。女性を待たせすぎです! チカゲ様の代わりに私が説教しなくてはなりません。




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