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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
3章 感じるな、考えろ!?
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3-18


 俺に話しかけてきたのは、いつか出会った“ジャンプディア”だった。この世界で初めての黒星の相手であるそいつは、相変わらず立派な角を誇らしげに掲げ、威厳のある態度で語りかけてくる。


「我としてもこの辺りを、これ以上荒らされるのも癪なのだ」


「此方としては、手を貸してもらえるのなら、願ったり叶ったりなのだが……いいのか? 魔物同士だろう?」


「ふん! 魔物同士だと? 我の仲間は我の群れだけだ。縄張りを荒らす者は、人であれ魔物であれ変わらぬ」


 ふむ? 魔物の世界は弱肉強食という訳か……


「それに、手を貸すのは今だけだ。終わればまた敵同士だろう? さあ! 次の攻撃が来るぞ! 我が背に乗れ!」


 そう言われ俺は、ジャンプディアの背に乗った。再び上空から降り注ぐ爆撃にジャンプディアは臆する事無く大ジャンプという名の飛翔を見せ付ける。

 あっと言う間に俺を乗せたジャンプディアは、空を飛ぶシャフォールを飛び越えた。全身に強い負担が掛かる。その直後に感じる浮遊感……しかしそれも一瞬の事、次に訪れるのは落下だ。どうやっているのか解らないが、ジャンプディアはシャフォールの背に向けて落下角度を調節する。


 強烈な風圧の中、ジャンプディアの目が語る「行け!」俺も目線で返す「ありがとう」と……。


 ジャンプディアの背を蹴り空中に飛び出した。風理術を使い更に落下を加速する。体が引き千切れそうなほどの圧力が掛かるが構わない。狙うは奴の右翼の付け根、関節部を狙って羽ばたく力を失わせれば、落とせるはずだ。

 抜き手の爪先に、水理術で作り出した小さいが鋭く高圧力の【水激流】を発動準備しておく。インパクトの瞬間に発動させて貫通力を高める為だ。


「調子に乗ってんじゃねぇよ! クソトカゲ!」


 落下エネルギーと【風】の加速を上乗せされ、【水】の貫通力が加わった俺の抜き手での攻撃が、寸分違わずシャフォールの右翼付け根に突き刺さる。

 ズギュリと指の先に気持ちの悪い感触が伝わる。それと同時に貫通させる為に細く鋭くしていた“水激流”を扇状に広げるイメージで放出する。ブチリという音が聞こえた。奴が翼を動かす為の筋を断ち切った音だ。

 そして再び始まる落下。今度は巨大なトカゲの背の上、落下の衝撃に備え俺は体勢を整えた。




 巨大なクレーターが衝撃の強さを物語っていた。俺はそのクレーターから少し離れた所に、大の字に体を横たえている。

 衝突の直前にシャフォールの背を強く蹴り、空中に飛び出し風理術で減速をしながら落下した。それだけでは足りずに、火理術も使い爆発を起す事で、何とか地面に叩きつけられる事だけは避けられた。

 俺の近くにジャンプディアが華麗に舞い降りる。そして俺に背を向け言った。


「我が手助けするのは此処までだ。また合間見えようぞ!」


 俺の返事も待たず、キラーンと擬音が鳴りそうな大ジャンプでジャンプディアは飛んでいった。相変わらず変な奴だが、借りが出来たな……。


 頭が痛い、体がだるい、力が入らない。あいつがもう起き上がって来ない事を祈るしかない。そんな祈りは届く事は無く。当然のようにシャフォールが怒りの咆哮を上げる。……もう駄目かもしれない。



 怒りに任せ、がなり立てるシャフォールの言葉は上手く聞き取れない。少し聞き取れたのは、千香華を引き裂き消滅するまで何度でも殺すという事、ゲーレンの町は後に草木も生えない程に破壊しつくし、そこに住む者も全て生かしておかない事、もちろん俺に対する殺気が一番強いようだがな。


 そんな事させる訳にはいかない。俺は体を起そうとするが、体は動かない。動けよ! 何が神だ! こんな事すら出来ねぇのか? こんな言いがかりの様な事で、壊されるのか? 俺達の五年は何だったんだ? 理不尽だろうが! ちくしょう!


 いつの間にか、理力不足によるネガティブよりも怒りの方が強くなる。こんな世界を創った自分にも、神なのになにも出来ない俺にも、意味の解らない理由で全て殺そうとするシャフォールにも、俺の大切なものを壊そうとするでかいだけのトカゲ野郎にも! 全てが怒りに染まる……。


 バキバキと音を立て、骨格が変形する。筋繊維がブチブチと引き千切れる音もする。痛みは邪魔だ! 全て怒りで塗りつぶせ! 理不尽を許すな! 自分を許すな! 相手を許すな! 敵を食い千切れ! 引き裂け! 考えている暇があったらぶち殺せ!


「ガルルルルル!」


 俺は唸り声をあげる。いつの間にか俺の本来の姿の黒い大狼に戻っていた。


「ウォオオオオオオオォォン!」


 遠吠えをして、自分の存在を誇示する。さあ走れ! 奴の喉笛を食い千切れ!




 巨大な狼が走る。その姿を目で追える者など居ない。真っ黒なその体は影すらも置き去りにするかのような速度でシャフォールに迫る。

 自身の五倍の大きさのシャフォールを速さで翻弄する。千切れかけた翼を食い千切り、吐き捨て、更に後ろ足の肉も食い千切る。シャフォールも反撃しようとしているが、気付いた時は既にそこには居ない。

 黒い狼の蹂躙は終わらない。弱った獲物を弄ぶように、今までの鬱憤を晴らすかのように……。背中の鱗を剥ぎ取り、抉るように牙を立て肉を捻り、千切る。爪を食い千切り、鼻面に噛み付き、目を抉り出し、尻尾に牙を突きたて振り回す。仰向けになり動く事の出来ない哀れなドラゴンの上に圧し掛かり、止めとばかりに喉笛を食い千切ろうと牙をむく。




 引導を渡すその時、シャフォールの瞳に恐怖を読み取った俺は動きを止めた。


「き……貴様は! 貴様は一体何だ……何者なのだ!」


「俺は……」


 上空から幼い子供の声が聞こえた。


「その子を殺しては駄目!」


 俺は最後まで言葉を紡ぐ事は出来なかった。突然現れた白いドラゴンの急降下の攻撃が直撃して吹き飛ばされる。白いドラゴンはシャフォールを掴み、そのまま柱の方向へ飛び去っていった。


「かっ……がはっ! ごふ! うぐぅ……」


 吹き飛ばされた俺は、のた打ち回っていた。白いドラゴンの攻撃だけでこうなって居るのでは無い。シャフォールの血は猛毒であった。喉は焼けて臓腑は爛れ、全身に浴びた血は俺の体を蝕む。

 これはもう助からない。心の底でそう思ってしまう。苦しい! これが続く位なら……そう思ってしまう。毛皮の奥の皮膚が焼け爛れて全身が痛い。もう痛みに耐えられない。目が見えなくなって来た……もう音も……その時俺の耳に声が届く。


「ケイ! 死なないで! 諦めたら駄目だ! まだまだ私達にはやる事があるんだよ! お願い! 私は待って居るから! 消えないで!」


 ああ、千香華の声だ。本来の千香華の……猫の姿の時の声でもある。その声が消え行く俺の耳に届いた。

 そうだな……まだまだ死ぬ事は出来ない。やるべき事も一杯ある。それに……千香華が待っている。


 死んで堪るか! そこで俺の意識は途切れた。




 この話で3章本編が終了です。

 幕間を数話入れた後、4章を開始したいと思います。

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