表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
プロローグ
5/177

幕間 0-0


   千香華視点


 目を覚ましたらそこは、荘厳な石造りの神殿のような場所だった。石材が黄色っぽいところと装飾からして古代エジプトっぽい感じがする。映画のハム○プトラとかでみたような……ああ夢か。

 私は昔からよくリアルな夢を見る。色鮮やかで現実に体を動かしてるような感覚で……うん、だから猫の姿をしてるのもおかしくないよね。猫は好きだし、日頃からケイにも「千香華は猫っぽいな」なんて言われてたからその影響でしょきっと。

 けど何時寝たかな? 二人で考えている小説の設定を考えててー。コタツに入ってたよねー? それでー……ん? 原因はコタツか! コタツの魔力恐るべし! ってことでいつの間にか寝ちゃってたんだな。うんうん。そうだねーきっと。

 一人で納得して夢だし猫だし、再び惰眠でも貪ろうかにゃ? と考えていたら、奥にある豪奢な造りの椅子……ああ、あれ玉座かな? そこに犬のような被り物をしている人影が見えた。なんだろ……凄く変な感じがする……夢の中とはいえ警戒はしておこうと思って、寝転んでいた体勢からゆっくり体を起して、何時でも走り出せるように体勢を低くしておく。

 暗がりで見えにくいが、流石は猫の目! 意識すると良く見えるようになった。多分瞳孔がキューってなってたのがまん丸になってるんだろうなー。って思ってたら犬──よくみたらもっと獰猛なジャッカルだった──の顔が牙をむき出しにしてニヤリと笑った。


「ぎにゃぁぁあ! 食われるぅー!」


 そう叫びながら逃げの体勢に入った私に、背後から声がかけられた。


「食べませんよ! というかそんなに警戒しないでください。笑顔を見て逃げられると結構ショックなのですが……」


 思ったより優しい声音に驚きながらも、私は柱の影から様子を伺う。


「え? ホント? 食べない?」


「ええ、食べませんよ。意外と落ち着いていらっしゃる様子でしたから、大丈夫かと思ったのですがね……ああ、申し送れました。私、セトと申します。以後お見知りおきを」


「あっ! ご丁寧にどうもー。私は服部千香華でーす」


 柱の影からピョンと飛び出し頭を下げて名前を名乗った。


「でも、変な感じー。夢の中で自己紹介とか初めてだよ」


「夢じゃありませんよ?」


「ふーん……そっかー夢じゃないんだ」


「納得して逆に落ち着くとは……」


「うん? 夢にしては変だなーって思ってたし、現実だって言われたらなんか納得できた」


 事も無げに言う私にセトはなんだか微妙な表情だ。その困惑の表情を見て嬉しくなったり、妙に落ち着いたり、さっきから感情の起伏は激しくてなんだか違和感を感じるが、そんな事どうでもいいかと頭の片隅に追いやった。


「それで? なんでこんな所で、こんな姿なのー? 私なにしたらいいの?」


「ああ。ええ、すみません。お話が早くて助かります」


 困惑から復帰したばかりのセトが、今度は意表を突かれたと慌てるのを見てニヤリとする。


「千香華さんには神になって頂くために、私の所までご足労頂きました。その姿は貴方の本質から形を成した、神としての姿です」


「ふーん……神としての姿ねー? なんで猫? 好きだからいいけどさー」


「観点はそちらですか……私どもの世界では、『ラー』『ハトホル』『バステト』とメジャーどころも化身としており、人気があるのですよ」


「そんなに褒められると照れるなぁ」


 私の反応に少し疲れた感じでため息を吐きつつも、セトは色々説明してくれた。

 ジョジシセカイなんちゃらとか、私達の書いてた世界がどういう状況だとか、神としての特性の話とか……それぞれの話に対しての私の反応は、「へぇ、そうなんだー面白いね」「あっはははは! 神にも受け入れられてないとか、ケイ涙目ー」「なるほどー、違和感はこれかぁ。まぁ、慣れるでしょきっと」……ん? 大雑把? いいや違うね! 特性のせいだよきっと! うん、そうに違いない。

 そうそう、特性で面白い技能があったんだー。私は色んな姿になれる! 訳じゃないけど、そう見せかける事が出来る力があるみたい。面白くて色々姿を変えてみていたら、セトが驚愕の顔をして「私の認識すら変えてしまうとは……」なんて言っていたけど、そんなの当たり前じゃない? じゃなきゃこんな力あっても意味無いよ。すぐにばれるなんて面白くないじゃないの。

 取り合えず今は、前にデザインした銀髪の青年の姿をしている。改心の出来だったし、性格も好きなキャラクターだったから思い入れもあるしねー。


 色々教えてもらってひと段落ついた頃にセトが「貴女の『神器』は何処ですか?」と言って来た。へ? なにそれ? 美味しいの?

 

「本来ならば、貴女の創った世界に関係のある何かが『神器』として伴われてくるのです」


「んー? 手ぶらだったよ? ……それとさっきから気になってたんだけど、一つ間違いがあるね」


「間違いですか?」


「うんー、間違いというか勘違いかなー? あの話は“私の”ではなく。“私達の”だよ」


「え?」


「え? 私はキャラクターとかのデザインと小ネタ設定、校正とかしてたよ。文章にしたりメインの設定はケイ……圭吾の役目。どっちかっていうとケイの作品になるんじゃないかな?」


「しょ……少々お待ちいただけますか?」


 セトは大慌てで、虚空から取り出したパピルス? っていうんだっけ? 巻物っぽい何かを一生懸命見ている。

 なんかなー。面白かったけど疲れてきたし飽きてきたー。お暇を願おうかな?


「ねねね、セトー? なんか込み入ってるみたいだし、ケイも心配してるだろうからもう帰るねー」


 出口どっちだろー? と思いながらそれらしき方向に走っていく。後ろからセトが慌てた声で「ちょっとまってください!」って言ってるけど面倒くさいのはパス! 聞こえないモンねー。

 出口っぽい所にたどり着いたけど……なんか外真っ暗、夜なのかな? そこから外に飛び出そうとした時、嫌な予感がした。背筋がゾワッってするというか、あれはやばいものだと本能が告げてくる。飛び出そうとしていた体を全力で踏みとどめようとしたが止まらない。ああ、オワター。


「ふぎゃっ!」


 突然首筋を掴まれ後ろに引き倒されたおかげで変な声でたー。というか助かった。

 ほんの数センチ目の前には何も無い空間、本当に何も無い。これが何なのか解らないけど、あのままだったら危険だったという事はわかる。九死に一生ってこれのことかな? そんなことを考えている私にほとほと疲れ果てたという感じの声が掛けられた。


「本当に勘弁してください。貴女の行動も考えも突然過ぎて困ります」


「それよりもさー、あれってなんなの?」


 憮然とした表情のセトだったが、疑問に答えてくれた。


「あれは“無”です。この外は何もありません。そのまま飛び出していたら貴女も“無”になっていたのですよ?」


「へぇ、怖いねー。ありがとーセト」


「いいえ、どう致しまして……はぁ、豪胆というかなんというか……」


「お褒めに預かり光栄ですよー。っていうかじゃあどうやって帰るのさ?」


「何をおっしゃいますやら。帰れませんよ? 貴女はもう神なのです。向こうでは元から存在自体が無かった事になっていますよ」


 ふへ? 帰れないの? ふつふつと怒りがこみ上げてくる。勝手に連れて来てもう帰れません?

 ああ、でも向こうではもう居ない事になってるのかぁ。急激に怒りが萎んでいく。起こった事を今更言っても仕方ないよね?


「じゃあ、仕方ないね……でもケイどうしてるかな?」


「向こうとは時間の流れ方が違いますのでまだ気付いて居ないかもしれませんが……その事についてお話があります。ですが一旦先程の部屋に戻りましょう」


 そう言いながらセトは私の肩に触れた。と思ったらさっきの部屋にいるし。凄いねー私もできないかなー?

 

「ロキさん! いるのでしょう? 出てきてください」


 戻ってくるなりセトは少し怒った様子でそう言い放つ。するとさっきまで誰も居なかったはずなのに、目の前にいきなりチャラけた感じの男が現れた。


「はいはーい。呼ばれて飛び出て……お? 君が千香華ちゃん? 初めましてっ! ぼくロキだよぉ。よろしくねっ」


 見た目の通りチャラかったよー。でもなんか私と近い感じがする。不思議だねー。


「初めましてー私、千香華だよー。よろしくね」


「ロキさん!」


「んー? なぁに? セトさんおこなの? ぷんなの?」


 なんで煽るかな? ロキは空気読めない子? あっ、読まないのか! うわぁ……セトの雰囲気が変わったよ。やばい怖いよーさっきまでの親切そうなセトいくえふめいだー。

 

「ロキ! てめぇいい加減にしろよ? あの書類はなんだ! わざとだろう?」


「うんうんっ。わざとだよぅ。面白かったでしょ? 『ちょっとまってください!』だって! プップー」


 うわぁうわぁ。セトから尋常じゃない圧力が噴出してくるよー。ガクブルだよ。


「おぅ、怖い怖い。怖いからぼく帰るねっ。あっ本物の書類そこね。じゃあ千香華ちゃんーまったねっ」


 そういい残しロキは掻き消えるように去っていった。ちょ! ちょっと待って! こんな空気にしてさっさと逃げるとかナイワァー。

 恐る恐るセトの方をみると、やれやれといった感じで首を横に振るセトが居た。あれ? 怒ってないの? もしかして慣れっこ?


「まったく、あいつはいつもいつも……ああ、すみません。お見苦しい所を見せてしまいましたね」


「イエイエオキニナサラズニ」


 棒読みになっても仕方ないと思うんだー。普段温厚そうな人? を怒らせちゃいけませんってことだね。



 書類に一通り目を通したセトは深いため息をついた。


「はぁ……これは本当ですか?」


「うんー? これってどれか解らないけど、あれは二人の作品だよ? さっき言った通りね」


「だとしたら問題ですね」


「なんかまずいのー?」


「ええ、貴女一人で世界の管理は不可能です。貴女言う相棒の圭吾さんも此方に来ていただいて……」


「はぁ?」


 思いのほか怒気の篭った声が出てしまった。今度は怒りが止まらない。私はもう戻れないようだし仕方ないと割り切ったけど、ケイまで巻き込む気なの? 無理やり連れて来て、他の人には選択肢を与えるとか言っていたのに、私達には与えないと? ぶっちゃけ他の世界なんて知った事ではない! 消えてる世界もいっぱいあるんでしょ? 知らない誰かより私はケイの幸せを望むよ? 例えそこに私が居る事ができなかったとしても……。

 怒りのままに思った事をぶちまけた私をセトが慌てて宥めてくる。


「落ち着いてください。貴女の気持ちは解りました。しかし、圭吾さんが居ないと【神器】もありませんし、確実に貴女も世界ごと消えることになりますよ?」


「それでも! 私はケイに何も知らせないまま巻き込むのは望まない!」


「そうですか……解りました。ですが、本当に圭吾さんは貴女が居ない世界で幸せなのでしょうか? まずは確認致しましょう。そして選択肢も与えます。千香華さんにはこの件に関して圭吾さんに拒否するような誘導は避けてください。あくまで圭吾さんの判断と意思を尊重することを約束してください」


 優しく諭すように話すセトの態度に少しずつ怒りが収まっていく。本当にさっきから自分の感情に振り回されている気がする。これが神になって極端化するということなのかな? 制御が難しいよ。小さくコクンと頷く私を見てセトは満足そうに笑顔を見せる。


「では、早速圭吾さんをお迎えしなくてはいけませんね」


「ちょっと待ったー」


 圭吾を呼ぶことを止めた私の声にセトは目を丸くする。


「え? まだ何かあるのですか?」


 そう聞くセトに私は色んな駄目出しを決行した。

 この場所の事は「なにこの圧迫感、落ち着いて話せない。椅子は玉座一つしかないから長時間話すのは疲れるよー」とか、セトの姿の事は「あのね? 初見でふつーに怖い! 折角丁寧な口調なのに違和感すごいよー。いや、格好良いよ? 落ち込まないでー」とか、話の持って行き方の事「ちゃめっ気が少し足りないねー。もうちょっとなんか面白くいこうよ」とか……。



 あの人はどんな反応をするのだろう。そしてどんな選択をするのかなー?  願わくば……いいえ、私はどんな選択でも受け入れる。そう決めたのだから。




ロキ(古ノルド語: Loki)

北欧神話に登場する悪戯好きの神。その名は「閉ざす者」、「終わらせる者」の意。神々の敵であるヨトゥンの血を引いている。巨人の血を引きながらもオーディンの義兄弟となってアースガルズに住み、オーディンやトールと共に旅に出ることもあった。男神であるが、時に女性にも変化する。 美しい顔を持っているが、邪悪な気質で気が変わりやすい。狡猾さでは誰にも引けを取らず、いつも嘘をつく。「空中や海上を走れる靴」(「陸も海も走れる靴」または「空飛ぶ靴」)を持っている。


ずる賢い者 トリックスター 変身者 空を旅する者 狡知の神 

ウィキペディアより引用。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ