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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
3章 感じるな、考えろ!?
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3-10



 ん? あああああ! しまった! ……もう遅かったようだ。マーロウとヨルグは、ポカーンと口を開けたまま此方を凝視している。


「遅かったみたいだね……私も忘れていたよ。どうするの?」


 千香華が声の調子を下げて聞いてくるが、俺も如何するべきか迷っていた。


「おいおい……こりゃ何の冗談だ!? 神だと?」


「お二人共なんですか?」


 マーロウは驚きすぎて声が裏返っている。ヨルグはイグニット(千香華)の能力を視ようとして、視えずに首を傾げている。

 どうする? 予定外だ。……殺してしまうか? いや、違うだろ! 何故俺はそんな事を思った? ばれてしまったら拙いから? そうだ! 口を封じてしまえば良い……違う! なんでこんな短絡思考になっているんだ? 神になってから考え方が、単純化している気がする。障害になるんなら消せば良い……そんな訳あるか! 所詮は大事の前の小事だろ? 五年も一緒に色々やってきたんだぞ? 小事な訳があるかよ!


 二人は俺の殺気に気付いてしまい。萎縮している。くそっ! そんなつもりは無いのに……。

 千香華がため息を吐き言った。


「仕方ないねー。折角上手くいってたのに、ギルドもやり直しかな? まあ、いいかー」


 千香華は普段、ふざけた言動をしているが、本来ドライな性格をしている。不必要と思えば、あっさりと切り捨てる。物事にあまり執着心を抱かないのだ。


「ケイ? 私が殺ろうか?」


「違う! 千香華! それは違う! 今回ミスったのは俺だ! こいつ等は悪くない」


 千香華は首を傾げる。


「え? ケイは口を封じるつもりだったよね? 殺気出てたもの。ケイと私の平穏以外に大事なモノは無いよ? 例えケイがミスったとしても、比べる必要ないよね?」


「違う! 俺は殺す気は無い! 殺気が出たのは間違いだ」


「ふうん。じゃ良いのかな? 良かったねー。“ケイはキミ達も大事だから、何もしないってさー”ケイに感謝してね」


 その言葉を聞いて、マーロウとヨルグは膝から崩れ落ちる。

 俺は千香華の台詞で気付いた。千香華は本気で殺してしまおうとは思っていない。迂闊な事をした俺のフォローの為に、わざと“あんな言い方”をしたのだろう。


「申し訳ない。今回は俺のミスのせいで、嫌な思いをさせてしまった。視た通り俺達は、この世界を創り出した神だ。今まで騙していてすまない。千香華、視れるようにしてくれ」


「はいはいーどうぞー。【看破】今なら視れるよ」


 千香華が隠蔽を解き、二人が戸惑いながらも能力を【看破】で視た。


「え? 服部千香華? チカゲさんなの?」


「うむぅ……どういうことだ? ……なんですか?」


「姿を変えてるだけだよー。私はイグニットで千香華だよ」


 二人は目を丸くして千香華を見ている。

 突然マーロウが此方に向き直り、姿勢を正して言った。


「数々のご無礼をお許しください。村瀬圭吾様及び服部千香華様。お二人が神とは知らず、今までの礼を欠いた言動。このマーロウ恥ずかしく思います。何なりと罰をお与えください」


「マーロウ気色悪いぞ? 何時も通りに話してくれ……俺はそんなに畏まる様な神ではない」


 マーロウは俺と千香華を交互に見て頭を下げている。千香華を見る目に若干の恐怖があるのは先程の事があるからだろう。


「千香華も構わないだろう?」


「うん。私も別に“怒って無いよ”何時も通りにしてくれた方が嬉しいなー」


 その言葉を受けてマーロウは頭を上げた。


「その……なんだ? 今まで通りって、神の……お前等を今まで通りの呼び方で呼んで、今までと同じように接すればいいのか?」


「そうしてくれ。マーロウの敬語を聞いてると、色々とむず痒くて仕方ない」


 俺はわざとおどけた感じで言った。それを聞いたマーロウは、何時ものように、ニヤっとした笑顔をして大げさに言葉を発する。


「吃驚したぞ。五年も一緒に仕事してきたお前等が、神でしかも創造神だなんてな。色々と規格外な奴等だとは思っていたが、ここまでとはな」


「おう、その調子だ。やはりマーロウは、そのしゃべり方が似合ってるぞ? 切り替えの早さと、度胸は流石は元寅王だな」


 俺もニヤっと笑いながらマーロウの言葉に返す。


「がはははっ! 勘弁してくれや。昔の事だ……寅王は強くなきゃいけねぇ。俺は弱っちまったから引退したんだよ」


 俺とマーロウのやり取りを見て、ようやくヨルグが再起動したようだ。


「あのっ! ケイゴ様には説教をする等、不敬な真似をしてしまい申し訳ありません」


「ヨルグは……普段からそういうしゃべり方だったな。様を付けるのは勘弁して貰えないか? 不敬とは思って居ないが……説教はもう少し短くしてくれると助かる」


 ヨルグは、一瞬迷った素振りを見せたが、笑顔を見せながら言った。


「今まで通り“ケイゴさん”と呼ばせて頂きますね? そして必要とあれば、僭越ながら指摘はさせて頂きます」


 俺は肩を竦めながら「程ほどに頼むよ」とだけ言った。


 本当に千香華のフォローのお陰で助かった。もしあのままだったら、この先まともな関係は、望めなかっただろう。常に畏れられ、変な距離感が出来てしまえば、俺はこの場所に居る事すら苦痛になり、今度こそ壊してしまいそうな気がする。これも『精神が肉体に引っ張られる』って云うのになるのだろうか? よく神話等で、神が感情のままに行動しているように見受けるが、俺も気をつけないと大変な事になりそうだ。


 後で能力表示を任意で変える事が出来る様にしておこうと思う。このまま【看破】を広めると、千香華はまだしも、俺は外を出歩けなくなっちまう。



 そんな事を考えていると、千香華が手をパンパンと鳴らし「はい。ちゅーもーく」と言ってきた。お前はどこぞの教師か?


「そろそろ話を戻そうと思うんだけど? 皆いいかなー?」


 千香華はイグニットの姿なのにしゃべり方が戻っている。俺としては、そちらの方が慣れているからいいが、他の二人は戸惑っているぞ? マーロウは目を見開き、呟くように言葉を発した。


「本当にチカゲなんだな……見た目はイグニットなのに、その口調だと違和感を感じるぜ」


「あの? どちらでお呼びすれば良いのでしょうか? チカゲさん? イグニットさん?」


 ヨルグは、千香華を見た目の名前で呼べばいいのか、本来の名前で呼ぶべきなのかと問いかける。


「うーん? “偉大なる千香華様”で! ……やだなぁ、冗談だよ? この姿の時はイグニットでよろしくー。普段から呼びなれて無いと、とっさの時につい口に出るからね。誰かさんは、二人が居るのに千香華って呼んじゃったしねぇ? ねぇ? 誰かさん?」


「そうですね。“偉大なる千香華様”仰る通りだと思いますよ。流石は“偉大なる千香華様”だ。いやぁ、“偉大なる千香華様”の謂われる通りに、俺もイグニットと普段から呼んだ方がいいですかね?」


 俺はわざとらしい言い方で、千香華の言葉に反応する。しかし、先程はつい千香華の名前を出してしまったからなぁ。本当に普段から、イグニットと呼んだ方が良いのかもしれない。


 そんな俺達のやり取りを見て、何がツボに入ったのか、マーロウは大笑いしている。


「笑って頂けて何よりです。では話の続きを致しましょうか?」


 ニコリと笑い何時もの口調に戻るイグニットだったが、マーロウの笑いが収まるのに多少の時間を要した。




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