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千香華が【看破】を教える事に、同意したタイミングで扉がノックされる音がして、マーロウとヨルグが部屋に入ってきた。
「おう、俺に何の様だ? ヨルグに聞いても教えてくれねぇんだよ。とにかく呼んでますのでの一点張りでよ」
そう言ったマーロウにヨルグが「すみません」と頭を下げている。
「あっ、いや……怒ってる訳じゃねぇんだよ。ただ、俺が呼ばれるのも珍しいなと思ってよ」
ヨルグに謝られて、気まずそうに頭を掻きながらマーロウはそう言った。
特に何も言って無いのに、連れて来るまで内容を伏せていたのは、ヨルグが先程の話を重要視して、許可無く話す事を避けた為だろう。
「すみません……マーロウ。少し重要な話だったんで、何も言わず連れて来るように、私が言ったのですよ」
千香華がすかさずフォローを入れる。マーロウは「いやいや、なんかこっちこそすまねぇな」と慌てている。このままじゃ話が進まないので、先程ヨルグにも聞いた質問を、マーロウにも投げかけた。
マーロウは迷うことなく、そんな事が出来るんなら、戦い方に幅も出来るし、便利になる事はよい事だと肯定的な意見をだした。
「二人にもう一つ質問したい。自分の能力と他人の能力を客観的に、視覚化出来るとしたらどうする?」
「そりゃあ、便利だろう? お前も言ってたが『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』だろ?」
「それは相手にも言えるのではないのか? 自分だけ視れる訳じゃないぞ?」
「だったら、同条件って事だろ? 問題ねぇじゃねぇか。魔物が使ってきていたって言うんなら、こっちが有利になるって事だろ?」
「魔物は使えないが、人同士だと自分の得意としている事もばれるんだぞ?」
「だったらいいじゃねぇか。人同士で争う事なんか滅多にねぇしな」
なるほど、マーロウは完全に、対魔物で考えているのか。確かにこの世界では、国家間戦争などは無い。何故ならば、魔物の脅威で人同士で争っている場合では無いからだ。
今はそれでいいのだが、後々はどうなるか解らない。逆に今のうちに広まれば、【看破】に対するルールなども整備されるかもしれない。
「そうか、ありがとうマーロウ。ヨルグの意見はどうだ?」
「私も同じような意見なのですが……随分と具体的だなぁと思いまして。こちらも具体的な意見と言いますか、質問をしても、宜しいでしょうか?」
ヨルグは既に視る方法がある事に気付いているか……まあこんな聞き方していたら気付くよな。
「ああ、構わない。質問してくれ」
「あの……その視える場合は、何処まで視えるのでしょうか?」
ん? 意図が解らない、何を心配しているのだろうか?
「えっと、身長とか体重とか……体のサイズ等も……知られてしまうのでしょうか?」
最後の方は声が小さくなっていったが、言いたい事は理解した。ヨルグも女性だもんな。そういうのが気になるだろう。別に貧相な体をしてる訳じゃ無いから、そこまで気にしなくても良いのにな。って思うのは俺が男だからだろうか? まあ俺も男の象徴のサイズが、知らない奴からも視れるってなったら嫌だ。寧ろそれこそ誰得なんだよって思うがな。
「ああ、それは心配無い。そういう物ではないからな」
ヨルグは「すみません、くだらない事を聞いてしまいました。ですが安心しました」と胸を撫で下ろしていた。
マーロウが少し残念そうな顔をしたのを、俺は見逃さなかった。まあ、マーロウも男だという事だ。見なかった事にしてやろう。
「今更だが、言っておくぞ。これは最重要機密って事にする。絶対に他の者にはまだ話すな。解ったな?」
二人は真剣な顔をして頷く。
「もう気付いていると思うが、先程聞いた事が出来る技術がある。一つは“理術”という。魔物が使うような力が使える。火を起したり、水を出したり、雷を発生させたりな」
そこで俺は一旦言葉を切る。二人の表情を見るためだ。ヨルグは予想通りだったのか、やはりそうかという表情で、マーロウは驚きの表情をしているが、迷いのある顔で何か言いたげだ。
「なんだ? マーロウ、言ってもいいぞ?」
「うむぅ、もうこの際だからいいか? ケイゴが昔使った……拳が炎を纏っていたのが“理術”なのか?」
俺は小さく頷く。厳密に言うと全く違うものなのだが、そういうことにしておいた方が良いだろう。マーロウは、五年前のあの出来事を、誰にも言ってなかったようだ。この場には、イグニットとヨルグが居たから迷ったのだろう。心の中でマーロウに感謝して話を続けた。
「もう一つは“看破”という。これは自分及び他者の能力値を、意識上に表示する事が出来る。……多分実際に見た方が良いだろう。今から二人に【看破】を使えるようになってもらう」
意識を集中し、二人の頭に手を置き、二人に聞こえないくらい小さな声で「村瀬圭吾の名において、マーロウ及びヨルグに【看破】の技能を使う許可を与える」と呟く。
特に何かが起きるわけでも無かったが、成功してるのか? とりあえず二人に【看破】を使ってみるか。
名 前:マーロウ
種 族:寅獣人
職 業:ゲーレン冒険者ギルド幹部
元ゲーレン自警団団長
元寅王
格闘家
生命力:大
理 力:小
腕 力:大
脚 力:大
耐久力:極大
持久力:大
敏捷性:大
瞬発力:中
器用度:中
知 力:中
精神力:小
技 能:格闘術
爪術
解体
カリスマ
咆哮(中)
礼儀作法
嗅覚
事象干渉(理)
看破
状 態:能力低下中
名 前:ヨルグ
種 族:辰人
職 業:ゲーレン冒険者ギルド幹部
元ゲーレン自警団副団長
元ハイルブロン剣士団団員
剣士
生命力:中
理 力:中
腕 力:中
脚 力:大
耐久力:中
持久力:中
敏捷性:中
瞬発力:大
器用度:中
知 力:大
精神力:中
技 能:剣術
格闘術
短剣術
指揮
視力強化
辰の瞳
礼儀作法
事象干渉(理)
看破
状 態:良好
二人とも見事【看破】を取得している。【事象干渉(理)】も持っているようだ。
とりあえず突っ込みたい事、満載なのだがどうしようか……まずマーロウの元寅王が気になりすぎる。そして結構能力高めなのに低下中! そして、礼儀作法!? マーロウが礼儀作法だ……と?
ヨルグは可も無く不可も無くといった具合か? 気になるのは【辰の瞳】だが、なんだろうなこれ?
まあ、良いか。二人が心配そうな目をしているから、取得した事を教えてやるか。
「二人ともいいぞ。これで相手か自分を意識して、【看破】と念じると視える筈だ」
マーロウとヨルグは、自分の能力を視ているのだろうか。暫し動きが止まる。「ほぅ」とか「おお」とか言ってるしな。
「おお! これはいいな! 自分の能力を、客観的に視る事が出来るってのは、自分に何が足りないか、何が得意か一目瞭然だな! ケイゴ! お前のも視ても構わないか?」
マーロウは興奮気味に言ってくる。鼻息を粗くする寅は怖いな……うん。
「ああ、構わない「待って! ケイ! それは拙い」……ぞ?」




