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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
3章 感じるな、考えろ!?
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3-7



 ゲーレンの町に帰りつき、ギルドに入ると冒険者達が慌しく走り回り、ギルドは騒然となっていた。なんだ? 何かあったのか? そこに俺達を見つけたマーロウが、慌て走り寄ってくる。


「おお! ケイゴ帰ったか! イグニットも一緒なのか? ギルドマスターとギルド最高戦力が二人して空けやがって!」


 ただ事じゃない感じだな。何か問題でも起こったか? 今日はイベント盛り沢山だな。


「どうした? やばい魔物でも見つかったか?」


「わからねぇ! まだ姿を見た奴も、被害に遭った奴も居ねぇが。そうとうヤバそうだ」


 ん? どういう事だ? 被害も無ければ、姿さえ確認していない?


「すまんが、もっと詳しく頼む」


「ああ、数時間ほど前だが、黒雲もねぇのに稲妻が落ち、火柱が上がったと報告があった。もしかしたらこれは“ぬえ”が出たのかも知れねぇ! 俺達がなんとかしねぇとこの町も終わりだ! 住民達には、ギルドが率先して情報を集め対処するから、自分の家で大人しくしていてくれと通達済みだ」


 鵺だと!? あれは確か寅、巳、申、亥を拠点として徘徊してる設定の魔物のはずだ。こんな所に出る訳が無い。しかも設定通りなら、町一つ簡単に消し飛ばす程の、強魔物として存在している。最初にイデアノテに来た時に倒した“ドラゴンフライ”よりも数段強い。

 あの時は、俺もチートと言って良いほどの強さを持っていたが、今の俺では、ドラゴンフライですら倒せないだろう。

 どうするべきか考える俺の袖を引く者が居た。振り向くと千香華が複雑な表情で、俺にだけ聞こえる位の声量で「原因は魔物じゃないよ」と言って来た。なんでそんな事解るんだ?

 あっ! 稲妻が落ちて火柱か……なるほどな、順番が違うからピンとこなかったわ。正確には火柱が先で、これは千香華の理術だな。その後の稲妻は、トールが落っこちて来た時の轟音が此処まで雷鳴として聞こえてきたのか……。

 だとするならば……さて、どう収拾を付けようか? マーロウは他の冒険者に俺達の帰還を告げ「ケイゴが居ればなんとかなるかもしれん! 皆! 気合をいれるぞ!」と士気を高めている。頼むからあまり煽らないでくれ……言い出しにくいからな。


「あ……あのな? マーロウ? ちょっと良いか?」


「なんだケイゴ? まさか怖気づいちゃ居ねぇだろうな? この町の危機なんだ! 気合いれろや!」


 ああ、言い出しにくい……そして何と言えばいいのだ。『お前等が危惧している魔物は居ない。火柱の犯人はイグニットで、稲妻は他の世界の神が降りて来ただけだ』何て言えるわけ無いだろ?

 どう言うか迷っている俺の前に千香華が出て、その場に居る全員に聞こえる位の大声で言った。


「落ち着きなさい! あれは鵺ではありませんでした。私と圭吾さんが近くに居たので、既に調査済みです。“稲妻は荒野に生えていた炎水樹に落ち、その時に火柱が上がったのです”ですから、皆さん安心して通常の業務に戻ってください」


 よくポンポンと言葉が出てくるものだ……。これも精神力の違いなのか? いや、同じ精神力持っていても、俺じゃこんなに堂々と“嘘”なんて付けないぞ。流石千香華と言っていいのか?

 因みに炎水樹とは、樹液が食用油になる木で、この辺りでは珍しくないその木は、火が付くと凄い勢いで燃え上がるので、雷が落ちれば火柱が上がってもおかしくは無い。


「そうかそうか。イグニットが言うんなら間違いねぇな。ケイゴも人が悪いぜ? さっさと言ってくれればいいのによぉ」


「ああ、すまない。緊急時で俺達が居なくても、これだけ動ける事に感心していたんだ」


 俺もそれらしい言い訳をした。実際に迅速な行動をして居た事に、驚いては居たから嘘では無いんだがな。

 俺の言葉を聞いて、マーロウは照れくさそうに言った。


「へっ、『常に最悪の事態を想像して、それに負けぬ心を持ち、考えて動け』ってのはお前の言葉じゃねぇか」


 そう言えば、座学の時に“常在戦場”を心得ろと教えたな。本当に、この世界の人々は、素直で実直だ。


「おう! お前等! 皆に伝えて来い。ギルドマスターとケイゴが自ら、調査に出て問題ない事が解った。もう安心だってな。俺も行って来るから、二人はもう休んでくれ」


 マーロウは、大声でギルド員達に伝えると、自身も町に走っていく。



 俺は、マーロウの言葉に甘え私室に戻ろうとしていた千香華を、呼び止めた。


「待て、イグニット! お前にはやる事がある」


「え? 何かあったかしら? 住民への連絡はマーロウ達がやってくれるそうだし、今日は私は休みで、代行としてヨルグが仕事してくれているから……」


 白々しいな。解っていて言ってるのは、声色でバレバレだぞ? 俺は千香華に近寄り、周囲に聞こえないように、耳元で言った。


「千香華、お勉強の時間だ」


 千香華はさらに白々しく、イグニットのしゃべり方で口答えする。


「明日にしましょう? 今日は圭吾さんもお疲れでしょうから」


「特に問題無い」


 絶望を隠しきれない顔の千香華を引き摺るように、俺の仕事部屋兼私室に連行した。



「そういえばさ……」


 二時間ほどみっちりと理学の……と言ってもまずは物理学の復習をして、魂が抜けた様に机に突っ伏していた千香華が、思い出した様に言い出した。


「理術を使ってる時に思ったんだけど、威力の調整とか、規模の指定とか、形状とかのイメージが難しいんだ」


「ん? どうしてだ? 地球の物理学を、此方に向いた形に置き換えるだけで、自在に出来るぞ?」


「そんなのケイぐらいしか出来ないよー! もっと汎用性持たせ無いと、絶対事故が起きるよ?」


「だから、そこは理学として深く理解してだな……」


「あのね? 人って言うのは、手にした力は使いたくなるものなの。例え理解が足りなくて、危険なモノだとしても平気で使っちゃうんだよ?」


 ああ、確かにな。此方の人がそうとは限らないが、地球でも仕組みも原理も理解しないままで使っている人が大半だものな。俺は気になると直ぐに調べたりする性格だから、なるべく知る様にしていたがな。


「ああ、千香華の言う通りだ。ならばどうすれば良い? 何か考えがある様に思えるが?」


「うん! あのねー。詠唱と発動時の言葉を付けると、良いんじゃないかな? 漠然とイメージするんじゃなくて、言葉にすると良いって言うじゃん? 魔法はそんなもんだって、何処かで聞いた」


「ふむ? 一理あるかも知れないな。詠唱は人によってイメージする物が変わると思うから、その人にあった言葉を使うのが良いだろう。発動する時の言葉か……。例えばどんな感じのだ?」


「えーっと。火の一番弱いやつが“火の玉ボール”とか?」


 なんだその頭痛が痛い的な名称は。


「水が“水芸”?」


 宴会芸になってしまってるじゃないか。


「風が“かまいたち”で?」


 風の一番弱いのは、空気の塊を飛ばすだけだ。切り刻まれたりしねぇよ。


「雷が“びりびり玉ボール”?」


 びりびりって……あとボールから離れなさい。


「土が“泥団子ボール”でどうだ!」


 どうだ! じゃねぇよ。本当にボールから離れろ。あと泥団子って玉ですら無くなってるし、一応土だぞ? 泥じゃねぇ。全て言い終わって、満足げな千香華に俺はハッキリとキッパリと言った。


「却下だ!」


「えー!」


「えー、じゃねぇよ! 本当にお前はネーミングセンスねぇな!」


 全部の名称に、先程思った駄目出しをしたら、千香華は本日二回目の絶望に満ちた顔をした。




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