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冒険者ギルド設立から五年の月日が流れた。
その間にやった事といえば、初期は、施設の充実とギルドの体系化が主な仕事だった。
元倉庫だった建物は二階建になっていて、入って直ぐに広いエントランスのようになっていた。そこにカウンターや掲示板、待合用に机や椅子を設置したことによって……まあ良くある冒険者ギルドと言って良い景観になった。
実はこの倉庫、物品を分けて備蓄出来るように、複数の部屋が備わっていた。一階に三部屋、二階に二部屋、一階に執務室と仮眠室そして資料室だ。
驚く事にこの世界は普通に紙がある。どうやって作っているかは知らない。特に高価なものでは無いし、とても助かるのだが……流石に印刷技術などは無いので、殆どの資料が俺か千香華の手書きである。
凄く苦労したので、資料室は飲食厳禁、持ち出し不可だ。もし破いたり汚したりしたら罰金の上、強制労働という事になっている。
二階の二部屋のうち一つはイグニットの私室という事になっている。もう一つの部屋は空き部屋なのだが、俺が書類仕事をするために使っていたら、いつの間にか俺の私室のようになっていた。他の奴等は基本的に二階に上がって来ない。なんか変な風に気を使っているらしい。
そういう理由もあって今は宿を引き払い、ほぼ此処に住んでいる。サシャとプラムも残念そうにしていたが、飯は食いに行くので別に構わないだろう? と言ったら何か、ごにょごにょ言っていた。何かまずかったか?
そうそう、飯と言えば【卯小屋】は狙い通り大盛況だ。味噌や醤油の代わりになるものが無いので、和食は無理だが、出来る限りの料理知識を教えておいたので、他の店とは段違いの美味さだ。
ライナーも自分で色々試しているようで、様々な工夫や発想力も鍛えられているようだった。ここから美味い飯が生まれ、広がってくれる事を期待している。
初期の頃に他にやった事は、格闘理論の座学だ。こちらの人達は、脳筋ではあるが戦う事に関連する知識には貪欲だ。まあ、脳筋であるが故にが正解なのだろうが……。座学と言っても座りっぱなしではなく。実際にやって見せたりしたので、理解を得るのが早かった。フェイントの重要性を教えた時は、マーロウが面白いくらいに引っかかって皆で笑ったのはいい思い出だ。後は、人体力学も多少と効率的な体の鍛え方も教えておいた。
我武者羅に体を苛め抜けばいいってもんじゃ無い、っていうのを納得してもらうのに時間がかかったがな。
ギルドのシステムは他に倣って、ランク制を取り入れる事にした。
能力やギルドへの貢献度でランクを選定するのだが、上がるとそれなりの特典を付けるようにした。これはギルド員のやる気に繋がるので取り入れたが、日本語が言語となっているこの世界でAやらBやらのランクだとあまりピンと来なかったらしく。段位制と名前を変えることにした。じゃあ、ギルドも組合とか協会の方がいいか? と聞いたら今更だからそれは構わないと言われた。基準がさっぱり解らん。
三級から始まり、二級、一級、初段、二段、三段、四段、五段の八段階で分けて仕事を割振るようにした。
級の間は見習い扱いで、単独で町の外での依頼は受けることが出来ない。初段でやっと周辺の、あまり強くない魔物の討伐が受けられる。一応素材や肉の納品は初段にならなくても出来るので、戦える人は狩りに行って来て、納品を行うことで初段までは直ぐに上がる。一応初段で駆け出しの冒険者扱いだ。
二段はある程度の討伐依頼をこなし、筆記試験をで合格したら昇段出来る。筆記試験といっても、食材や植物の見分け方や採取方法、魔物の生息地域など、普通に初段で冒険者をやっていれば、解ける程度の問題だ。
これを覚えて無いと採取物や魔物素材の買取額が下がるようにしている。つまり実質二段からは買い取り額が上がるという訳だ。もちろん持ってきたものがボロボロだった場合は、買い取らない事もあるし金額も下がる。
依頼人に渡るものが爪で傷付いていたりするのは駄目だろう? 当然の事だ。二段で一人前として見られるようになる。
三段は二段での下積みと実技試験によって上がる。試験管はもちろん俺だ。ある程度の種類の武器防具の扱いと徒手格闘の習熟度、後はその中で周囲に目配り出来るかどうか、というところも見ている。これは身体能力だけに頼った戦い方だと、もしもの時の選択肢を狭める恐れが有る為だ。
周囲に目配り出来ているか見るのは、三段からは初段以下の冒険者をポーターとして雇い、町の外に連れて行くことが出来る事が理由になる。駆け出し見習いからすれば、お金が貰えて一流の冒険者を間近で見ることが出来るうえに、比較的安全に実戦経験を詰む事が出来る。
三段冒険者からすれば、大量の金になる素材や採取物を持ち帰ることが出来る。評判の良い冒険者は、ギルドからも報奨金を出すようにしているのでかなり儲ける事が出来るのだ。これは冒険者が冒険者を育てる仕組みを作ろうとしたのだが、今のところそれなりに上手くいっている様だ。
四段は複数の冒険者を束ねて、大物狩りをする事を許可される。昇段条件は、今までの経験と人柄である。碌でもない奴に、集団を束ねる事なんて出来ないし、反乱でも起されても堪らないからな。
五段は四段とあまり変わらない。しかし「上が有った方が人はやる気がでるよ」と千香華に指摘を受けて、五段がある。
因みに現段階で五段は俺だけ、四段は居らず、三段がマーロウだけ、二段がヨルグ以下元自警団の実力者といった感じだ。他にも多くの人がギルド員になっているが、冬の間の出稼ぎ目的とか、まだまだひよっ子レベルだったり様々だ。
人数が増えるのは良いことなのだが、如何せん全て手書きなのが困る。ギルド員の名簿や実績を記した資料などだけで膨大な数になっている。どうにか出来ないものだろうか?
最近は、ゴブリンの集落を潰して周り、装備の備蓄を充実させている。武器類はギルド員に貸し出したり、もしもの為の備蓄だ。防具はゴブリンサイズのままだと使えないので、元々あるレザー製の防具に取り付けたりして防御力の底上げを行い、生存率の上昇を狙っている。他の金属製品も叩いて形を変えることにより、防具に転化させたりした。もちろん使える鍋や食器などの金属製品は、一般的な人にも買える値段で売り出したりもしている。
この五年で町は大幅な発展を遂げている。近々町の境界線を広げ町の拡大化を図る計画も出ているようだ。
前までは町の年長者がまとめ役となっていたが、現在のまとめ役はギルドマスターが兼任するようになっている。つまり千香華が町長って事だ。中々笑える冗談だが、本当のことだから仕方が無い。
この町は冒険者ギルドが出来てから物流が安定しているし、他の町に比べ戦える者が多い為、周囲は安全であり、他に類を見ない画期的な料理を食べる事が出来る。そのうえ恒常的に仕事を得る事が出来る環境があれば、人が集まらないわけが無い。
そして誰が言い出したか解らないが、いつしかこの町は【冒険者の町ゲーレン】と呼ばれるようになった。




