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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
2章 弱くてニューゲーム?
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2-17



 猫人の女“イグニット”を部屋に引っ張り込みため息を吐く。聞いてる奴が居ないか部屋の外の気配を探る。


「あら? 強引なのね……でもこんな所じゃ嫌よ?」


「うっせぇ黙れ!」


「怖いわ。でも、そんな荒々しい所も好きよ……って冗談はここまでにしよう! 認識を阻害するようにしたから、心配しなくても大丈夫だよー」


 ジト目で睨む俺を見て、千香華は慌てて元の口調で話し出す。


「認識の阻害?」


「ケイが寝てる間に、ロキが丁度来てね。色々教わったんだー。それより大丈夫なの? 睡眠時間が短いケイにしてはずいぶんとお寝坊さんだったけど?」


 なるほど、そういえば弟子入りして居たな……俺にはそういう力は使えないか助かる。


「ああ、多分問題ないと思う。ところでこれは? どういう状況なんだ?」


「あ! 忘れてた! ようこそ冒険者ギルド本部へ。私、初代ギルドマスターのイグニットと申します。……今後ともよろしくー」



 千香華曰く「ケイが寝ていたけど、タイミングが良かったから、冒険者ギルド立ち上げちゃった。てへぺろ☆」だそうだ。てへぺろに激しくイラっときたが、頑張って先を促し話を聞いた。

 要するに、俺が起きなくて依頼が滞っている時に、丁度いい具合に場所と人材が確保出来て、もう立ち上げるしかない! となったらしい。


 人材は自警団の団員がそのまま冒険者として活動する事になったようだ。元々自警団でも安全確保の為に、周辺の魔物を無償で狩って居たので問題ないそうだ。

 戦えない人も周囲の警戒任務やポーター(魔物素材の運搬)などでお金が貰え、他の仕事の合間に自警団として活動していた頃から比べれば、ありがたいということだ。


 場所はマーロウの持っていた倉庫が開いているので、使っていいとのことだ。自警団の集会の場所でもあったらしいが、今までとそんなに変わらないので問題なしだとさ。近々マーロウの店とも繋げて、素材買取口と解体場も併設するそうだ。

 それとマーロウと手合せという名の決闘をした場所は、元々自警団の修練場だったが、そこもギルドの修練場として使ってくれとのことだった。


 話がとんとん拍子に進んで怖いくらいだが、確かに此処まで条件が揃ってしまえばやらない手は無い。俺達の今まで築いた信用も裏切らずに済んだしな。

 だが一つ気になる事があった。


「此処までの話は理解した。良くやったな千香華。流石は俺の相棒だ……」


「わぁい! ケイに褒められたー」


「だが、その姿はなんだ? 銀髪の姿はどういう扱いになってるんだ?」


「旅に出た」


「ん? それは聞いた、なんで旅に出たんだ?」


「止む得ない深い事情があって、ケイの事は心配だったけど、泣く泣く旅に出たのです」


「ああ、聞き方が悪かった。建前じゃなくて理由を教えろよ」


「酷い! 建前じゃなくて本当に心配してたのに……ごめん! 解ってるって! 怒っちゃいやーん」


 相変わらずだなぁ。もう慣れてるよ。


「んーと、暫くこの町で活動するだろ? あの姿は老化することを念頭に置いてなかったから、上手く老化出来なかったんだよね……だからこの姿でゆっくり老化していこうかなって」


 失念してた……俺達は老化をしないよな。獣人で見た目解りにくい俺はまだしも、千香華の場合は老化しないとおかしいもんな。



 因みにどういう組織構成になっているかと言うと、創始者は俺と千香華(銀髪の青年姿)。

 初代ギルドマスターは俺と千香華の昔馴染みで信頼できる仲間、という設定のイグニット(赤毛の猫人姿)。

 戦闘指導特別顧問が俺。魔物解体及び買取部門の責任者がマーロウ。受付業務及び冒険者サポート部門の責任者がヨルグとなっている。ヨルグは何だかんだ言って、気が回りサポートや指導、雑務で能力を発揮した。


 ところで戦闘指導特別顧問ってなによ? と聞いたところ、俺のような戦い方をマーロウ達は知らず、教えて欲しいという事だった。

 そうだよな……強いと言われてるマーロウですら技術的には拙い戦い方してたもんな。

 ただ爪で切り裂く、牙で噛み付くじゃ能力的に勝る相手に絶対勝てないことになる。俺は使わないけど、ある程度の武器の扱いも、この世界の住人よりは知っている。牙や爪が強力じゃ無い種族でも、徒手格闘と武器戦闘を教えれば戦えるはずだ。

 ギルド員の生存率を上げるのは、仕事を滞らせない為にも必須だし、何よりも自衛手段があるというのは、この世界では必要な事だろう。


 なんにしても、まさか一週間程度で此処まで漕ぎ着ける事が出来るとは思っていなかった。この世界が猜疑心が薄くて、実力主義という脳k……もとい文明として幼い事が原因だと思われる。

 何か面倒事が起きる前に、冒険者ギルドを組織として精練する事が急務だと思われる。色んな物語でもあるが、国や組織っていうのは、時代が進めば腐敗し碌でもない事になる。これも一種のテンプレなのだろうか?

 そんな益体も無い事を考えていると、扉をノックする音が聞こえた。


「あー、ちょっといいか?」


 扉を開けるとそこには、申し訳無さそうな顔をしたマーロウが居た。


「お楽しみのとこわりぃんだが……ケイゴに話があってな」


 別にお楽しみじゃ無いのだが……これはどう返せばいいんだ? すまなそうにしているマーロウの顔が少し面白かった。否定するのも面倒なんだが、いきなり変な噂も困るから一応言っとくか。


「お楽しみって、こんな所で何を楽しむんだ?」


「いや、まあ、あれだよ……その」


 寅面のムキマッチョのおっさんが、頬を染めて何言ってんだよ……誰得だって聞きたいわ。


「別に何もしちゃいないぞ? 俺に用ってなんだ?」


 慌てて胸辺りの前で両手を振るマーロウだが、本当に誰得なんだ……あっ! ヨルグがニヨニヨしてるのが見える。そういうことかよ……爆発しろ。


「あのな……話は聞いたと思うんだが、うちの団員……じゃもう無かったな、皆がお前の戦い方に興味があってな。早く教えてもらえるように言ってくれって五月蝿いんだよ。でも実際戦った俺も、教えて貰いてぇなと思ってよ。病み上がりですまねぇが、少し見てやってくれねぇか?」


 いやいや、俺よりもマーロウお前、病み上がりどころかまだ腕折れてるじゃないか。しかしこいつら上昇志向はいいが、脳筋すぎやしませんかね?


 結局押し切られ、先程……じゃなくて三日前にマーロウと対峙した訓練場に連れて行かれ、日が暮れて真っ暗になるまで戦闘訓練は続いたのだった。




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