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神になって頂きますだとさ……こいつ頭大丈夫か? ああ……これはあれだな? 俺を嵌めてやろうってやつか? ってことは千香華も仕掛人で……最近の特殊メイクはすげぇなぁ。手の込んだことをしやがる……。
だが俺は簡単に騙されないぞ。乗った振りをして台無しにするのも面白いな。
「神ですか? いいですよ。なりましょう!」
「やけにあっさりと……」
「でもその前に!」
そう言いながらいきなり立ち上がり、会議室らしきその部屋の出口に向かって走り出す。
そして扉を勢い良く開け放ちながら俺は叫んだ。
「バレてるんだよ! 出て来……!? うわ!!」
そこには何も無かった、よく『真っ白な空間』とか『永遠と続いている』等、そこに何かを認識できるならまだしもそこには文字通り“何も無”かった。
無いということ以外なにも認識出来ない。光も無ければ影も無い、もちろん空気も水も匂いも……何もかもが全て無い。
そんなものを目の当たりにすれば、人はどのような感情が芽生えるのか……そう恐怖である。
元来、生き物は未知のモノや理解の及ばないモノに強い恐れを抱く。だからこそ知性ある人間は、物語を紡ぎ何かしらの理由をつけることによって、その恐怖を和らげて来た。
がたがたと震えながら後ずさる俺の肩にポンと手が置かれる。ビクリと肩を跳ね上げてゆっくりと振り向くと、そこには苦笑いの瀬戸が立っていた。
「どういう行動をとるか解っていたとはいえ、少しヒヤリとしましたよ?」
「あ……あの……こ……どう……な……」
歯の根が噛み合わず、まともに言葉が出てこない俺を落ち着かせるように、数度肩を叩きながら瀬戸は言葉を続けた。
「見ての通りです。何もありません。圭吾さんの考えるようにプラカードも持った人も、テレビカメラもありません。ちなみにもし飛び出していたら、圭吾さんも無くなっていたでしょうね……」
そういいながら扉を閉め大仰に両手を広げながら、更に続ける。
「ここは私があなた方と話をするために、仮に創り出した空間です。扉の先には何もありません。一応私も神の端くれ、このくらいはできますよ……続きをお話し致したいのですが、再度お掛け願えますか?」
頷くことしか出来ない俺の視界に、少し心配そうに此方を伺う千香華の姿が映る。目が合って一瞬、千香華は申し訳無さそうな顔をして、その後苦笑いしていた。
というか千香華はなんでこんなに落ち着いてるんだ? 普通に考えておかしいだろ……色々と。
「あー……うんうん。私も似たようなことしたしね。もう色々驚いた後なんだよー」
うん? そうか……体験済みってやつかなら仕方ないか……。
ん!? なんかおかしくねぇか? 今、俺しゃべってないよな? というかさっきから考え読まれてる?
「あはは! やっと気付いた。正解ー、読まれてるよ」
「!」
こういう話で神的な何かに考え読まれてるってパターンがよくあるが……本当に気持ち良いもんじゃ無いな。ふふふ……だが舐めるな! 俺の実生活では何の役にも立たない特技その一【無闇やたらに並列思考】を見せてやる!
「あはは。何その厨二な感じの特技?」
「どうだ? 考えなんか読めまい!」
今現在、千香華と瀬戸にはこういう感じに思考がいっている筈だ。(あどこあうこ…だっ…?てはかどらんうへがやっえったなてなんそぁかと。よでめるまんいだ!ろ?)その影で他の思考もしている。我ながらあまり使いどころの無い特技だと思う。
別々に考えたのは三つの思考、簡単なものだが“ああ……はらへったなぁ。”と“どうだ? かんがえなんかよめまい!”と“ここってどうやってそとでるんだろ?”言葉を発しているメインの思考以外に、二つ別の事を考え続けているだけだ。
一つは今も食べ物の事を考え続けている。今はカレーの種類を色々と列挙中だ……カレー食べたいな。もう一つも脱出方法をずっと考えているんだが、周りが“無”であればどうやったって無理だ。転送装置でもあるのかな?
「うわっ! 本当に訳わからない……ケイ……なんかキモイよ?」
「うぐっ……」
キモイとかいうな!
「キモイとかいうなー! かな? いひひ。思考読めなくても大体わかるよー。何年一緒だと思ってんのさ」
くそぅ! やっぱりこいつは見た目違っても千香華なんだなと納得してしまう。そんな俺達に少しあきれ気味に声が再び掛けられた。
「あの! そろそろよろしいでしょうかぁ?」
「「はい! なんか……その……すみませんでしたぁ」」
二人揃って綺麗に頭を下げた後、椅子に座りなおして大人しく話を聞くことにした。
「ああ、圭吾さん。カレーは今出せませんが、飲み物くらいなら……。それと私が送りますので心配は無用ですよ?」
そう言ってニコッと微笑む瀬戸……瀬戸さんには並列思考が効かないことに、俺は軽い恐怖を覚えるのだった。
再び対面に座った瀬戸さんは、お茶とコーヒーを出してくれた。手をかざしただけで……。この空間創ったってのも嘘じゃなかったんだな……ちなみにもう並列思考とかしていない。だって千香華にしか効果ないしな。それに案外疲れるんだ。
瀬戸さんは色々と説明してくれた。短くまとめると……。
叙事詩世界神管理官とは、英雄や神話など、民族の歴史として語り伝えるべき物語を『叙事詩』というのだが、簡単にいうと創作された物語もその範疇に入るらしい。そしてその物語は、独自の世界として存在するようになり、またその世界で綴られた物語が他の世界を創る。
そうして増えていく『叙事詩世界』を、“その世界に生まれた神”と一緒に管理していく“派遣神”を選定して送り出す役職らしい。
そんな叙事詩世界神管理官さんは最近とても忙しいようだ。とある世界の某国から、大量に生み出される叙事詩世界が原因のようだ。俺もその一端を担っているわけで……なにか、申し訳なくなってくる。
きっちり完結した世界ならば、特に手出しは必要ない。……問題なのは完結せずに放置された世界と、独自のルールがある世界だ。
放置された世界は所謂“テンプレ”と呼ばれる世界ならノウハウがあるらしく、既に安定した似た世界の派遣神が出張して、その世界に創られた神と一緒に管理する事によって安定させる。
独自のルールのある世界でも、完結さえすれば良いのだが……そうでない場合は、その世界に生まれた生命には可哀想だが、終焉のち消滅という事も多々あるらしい。
しかし現在では放置世界であっても全ての叙事詩世界に派遣が追いつかず、多くの世界が消滅している。そこで『自分の書いたものなら責任持てよ』ってことで、作者を強制召喚して自分で世界を管理するか、世界を消滅させるかを選ばせるという事もしているようだ。
あれ? でもそれだとおかしくねぇか? 俺まだエタってないし……選んでなよな? 完結させればいいんじゃねぇの? って思ったのだが……。
どうやら俺達の世界は想像以上に酷いようなのだ。
消滅する時に周りの世界と神を巻き込むんだとさ! ……書いたっけそんな事? 独自ルールが多すぎてテンプレも通用しないらしい……世界の法則が他と違いすぎる? ……あー! 書いた気がするな……多分?
今の時点で全ての神が派遣されるのを拒否した……というわけで、まだ修正が効くであろう設定ノートの段階で、強制召喚が決定し今に至るということか?
慌ててノートを確認すると、自分でも嫌になるほど全くその通り。というか他にもっと酷い設定も有るな……我ながら黒歴史そのものじゃないか。
そうそう、そのノートなんだが……どうやら『神器』というものになったらしい。名称は【イデアノテ】……これは……俺の字が汚いからなのか? 表紙に書いたIDEANOTEがそのまま神器名になったっぽいな。全部大文字なのがいけなかったのか?
俺達の創ってしまった件の世界の中なら、全ての事象を操れるというとんでも道具……これってもしやチートってやつか? だが一応リスクもあるらしい。
しかし、能力の詳細やリスクの内容、発動の詳しい条件は瀬戸さんでも解らないそうだ。神器はそれぞれ固有のもので、「近しい能力はあれど同じものは存在せず、自分で理解するしかないのです」だそうだ。
千香華のは? って聞いたら無言で俺の持っているノートを指差された。二人で一つね……なんか損した気分だがまぁいい。これがあれば楽勝じゃないか? 世界のルールを自分の好みに変えられるんだろ?
あと千香華の姿については、神としての能力らしい。他者を自分が思い描いた姿形に、認識させる事が出来る。あくまでも見た目のみ、能力なんかは変わらない。
ほー、神としての能力ねぇ。ん? 神!? こいつが神だってwwwwwww
おっと草生やしちまった。って思った瞬間、千香華にわき腹を殴られた。特に痛くない。相変わらずの非力具合だ。見た目だけ……なるほど確かに。
千香華は既に神としての存在になっている。あの時……俺が意識を失う直前あたりの事らしい。
千香華の存在が希薄になったのは、元々居た世界での存在が無かった事になったから。だから俺は千香華のことを忘れかけた。あの時の狂おしい程の感情を思い出した時、視界にニヤニヤと嬉しそうにこちらを見る銀髪の青年の顔が映った。並列思考開始! やっぱり考え読まれるのは気持ちいいもんじゃねぇな……。