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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
2章 弱くてニューゲーム?
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2-16



 到着した自警団の面々は、首の無いオークロードの死体を見て驚いていた。因みにオークロードの頭部が真っ黒に焦げているのをマーロウが見て「これ拙いからどうにかしろ」というので、引き千切って遠くに投げておいた。焦げて脆くなっていたから、千切るのは簡単だったが気持ちのいいもんじゃ無かった。



 自警団の人達、特にヨルグが「流石はマーロウさんだ!」とか「こんなのを倒せるのはマーロウさんしかいない!」と騒ぎ立てるのを俺は黙って聞いていたのだが、マーロウが凄い剣幕で怒りながら言った。


「てめえら! 俺を辱めるつもりか? こんなナリで倒せる訳ねぇだろうが! そいつを殺ったのは、ケイゴだ! それとも俺を手柄を掠め取るようなクズにでもしたいのか? 全員ぶち殺すぞ!」


 マーロウの怒声を受けて、空気が凍りついたような気がした。やっぱこのおっさん迫力あるな。ずっと団長していた方が町のためになるんじゃねぇか?


 怒鳴られた団員達は、口々にマーロウに「すみませんでした」と謝っていたが、更にマーロウの怒りが爆発「謝る相手がちげぇだろうが!」と言われ慌てて俺に謝罪していた。いやもういいから、早く休ましてくれよ。というかマーロウ両腕折れてるのに元気だなぁ。あ! 怒鳴りすぎて気を失った……


 マーロウが気を失った後、意外な事にヨルグがテキパキと、オークロードの死体運搬と俺及びマーロウの移送を指示していた。俺は「自分で歩いて帰るからいい」と断ったのだが「私が団長に怒られてしまいます」と情け無い顔をして言うので黙って運ばれることにした。

 もしかしてヨルグは補佐の方が向いているんじゃないか? マーロウに細かい気遣いは出来そうにないしな……。


 運ばれている時に千香華が心配そうな顔をして話しかけてきた。


「ケイ、大丈夫? 顔色悪いよ」


「ああ、なんとか大丈夫だ」


 そう答えたが実は結構きつかった。怪我は表面上治って無傷のように見えるが、痛みだけは残っている。特にマーロウに噛み千切られた肩は、抉られた感覚のままで逆幻肢痛のような感じだ。


「少し眠るといいよ」


「すまん、何かあったら起こしてくれ……」


 本当は安全な場所まで起きておくべきなのだろうが、貧血のような症状が出ていて眠くて堪らない。自警団の団員達もこれまで町を守って居ただけあって、強そうなやつ等も居る。何より千香華の顔をみたら安堵してしまった……俺はそのまま意識を手放した。




 気が付くとそこは、俺達の泊まっている宿【戌小屋】のベッドの上だった。やたら疲れていたのは俺の技能の自己再生は傷は治るが、疲労までは回復しないということなのだろう。まだだるいが何時までも寝てる訳にはいかないだろうとベッドから起き上がった。

 千香華は部屋の中には居ない。どこかに出掛けているのだろうか? 丁寧に畳まれていたコートを羽織り部屋から出た。


 顔でも洗おうと、中庭にある井戸の所に行くとサシャが血相を変えて駆け寄ってきた。


「ケイゴさん、もう大丈夫なんですか?」


「ああ、なんとかな」


「心配しましたよ? 三日もめを覚まさないんですから……」


 は? 三日? 俺そんなに寝てたのか?


「それにチカゲさんも、突然旅に出るって言って出て行ってしまうし」


「え? 千香華何処かに行ったのか?」


「はい。その件に関して話があるとか言って、イグニットと名乗る猫人の女性から伝言を預かってます。『マーロウ肉加工店の隣にある元倉庫の建物まで来てくれ』だそうです。私、猫人の方初めて見ました。この辺では見かけないからすぐ解ると思いますよ」


「……そうか、ありがとう。とりあえず行ってみるよ」


 イグニット? 誰だそれ? とか考える振りをしてみるが、心当たりは一つしかない。千香華が居なくなって、この世界で他に知り合いなんてほぼ居ないんだ。何を考えているのか問い詰めないとな……。



 マーロウの店の前まで来た。マーロウの様子も気になるが、現状を確認するのが先だと思い隣の倉庫に目を向けた……あれ? こんな建物だったか? 扉は立派なものに換わり、慌しく自警団だと思われる人達が出入りしてる。その内の一人に声を掛けると嬉しそうにこう言ってきた。


「おお! ケイゴさん! もう大丈夫ですか? どうですか? 良い出来でしょ? 団ちょ……じゃなかった。マーロウさんも丁度来てますよ! どうぞ中へ」


 元気な奴だな……というか何故言い直した? 嫌な予感がするんだが、気のせいであって欲しい。

 扉を開けて中に入ると、元々倉庫とは思えない位、綺麗になってカウンターのようなものが設置されていた。その一角で話をしている、寅獣人の男と辰人、猫人の女が一斉に此方を振り向いた。



「おう! だらしねぇな。やっと起きやがったか!」


 そう言いながら笑顔を向けてくるマーロウ、両手は包帯で巻かれているが、思った以上に元気そうだ。どれだけタフなんだよこいつは!

 ヨルグは深々と頭を下げてくる。初めて会った時とは大違いだ。やる気が漲るその目は、目標を見つけ清々しいまでに輝いている。なにがあったんだ?

 猫人の女は、俺の顔を見てニヤリとした後、丁寧な態度で言ってきた。


「お久しぶりです。圭吾さん、千香華さんに後を任されましたので、これから宜しくお願いしますね」


「ちょ……ちょっと落ち着いて二人で話せる場所はないか? すまんなマーロウまた後で話そう。こいつ借りてくぞ?」


「ああ? だったらこの奥の部屋使えよ。執務室にする予定だったから、先に綺麗にしてあるぞ?」


 そう言ってマーロウは奥にある扉を指差した。俺は「すまんな」と言って猫人の女を引っ張って部屋の中に入った。




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