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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
2章 弱くてニューゲーム?
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2-15



「うぐっ!」


 ゴキンという音がして肩がはまった。全力でぶん殴った反動で肩が外れていたのを自分で入れたんだが、何回やっても凄く痛い。泣きそうだ。筋繊維も全身ブチブチ切れているんだろうな。体がだるくてたまらない。

 だるい体を引き摺りマーロウが倒れている所まで移動した。マーロウはボロボロだった。ピクリとも動かない。


「少しウザかったが、惜しい奴を亡くした……」


「おい! 勝手に殺すなよ? 俺はまだ諦めちゃいない」


 おおぅ。突然マーロウの目が開いたことに驚く……中々しぶといな。


「それに、もし諦めていたら、消えてこの場にいないだろう?」


「ん? それはどういう意味だ?」


「は? お前まさか知らないのか? 危ねぇな! 戦い慣れしてるから、知ってると思ってたぞ」


 何の事を言ってるのか解ってはいたが、この世界での認識を知るために、知らない振りをした。……というか、戦い慣れしてるってなんだよ。

 まあ、それはさておき、マーロウの説明から解った事は、寿命だろうが、殺されようが、死んだら光に分解され消えるということ。この世界の流れに還り、交じり合い、再び別の形を取り生まれてくる。これが普通の事らしい。

 だが一般的には知られていないが「死んでたまるか」とか「諦めてたまるか」とかの強い意志を持つものは、死の淵から蘇る。それこそ意思が強ければ手足が欠損してようが、くっ付けていれば蘇る時に元に戻る。過去に首を失ったが、くっ付けて数日で復活した者も居た、と噂があるようだ。……とんでもねぇ話だな。


 だが人によって蘇る事の出来る回数は違い。しかも蘇る毎に弱っていく。一回蘇った位であれば、三日も寝てれば元に戻るが、それ以降は蘇った回数に比例して復調に時間が掛かるようだ。

 そして稀にではあるが、一度光に還りかけてから、蘇った者もいるらしい。その場合は、弱りきっていて数日も待たずに再び死ぬそうだ。

 因みにこれは全て、魔物には当てはまらないそうだ。倒せば死体として残り、食材や何かの素材となる。



 まあ、概ね違っていないか? 首を失ってというのは眉唾だけど、首が無くなる苦痛に耐える事が出来るんなら不可能とも言い切れない。俺は生首になった事がないので、どんな苦痛なのかしらないけどな。

 蘇る回数が違うというのも大体予測できる。精神力に比例しているのでは無いかと思うのだが、これもはっきりは解らない。

 光に還りかけてというのは、再構成のことだろう。この世界で生を受けた時の能力まで下がっているので、肉体は大人で力が赤ん坊なら自重さえ耐え切れ無いだろう。そのうえ免疫すらも無いのだ。間違いなく死ぬ。そしてもう無理だと諦め光に還っていくのだろう。

 俺の場合は、この世界で生まれていないので、赤ん坊レベルまでは下がらない。免疫も何も、多分俺達は病気に掛からない。だから再構成しても生きていられるのだろう。



「ちょっと聞いていいか?」


 マーロウが神妙な顔をして俺に問いかけてきた。


「ああ、なんだ? 答えられることなら聞いてくれ」


「おいおい、お前が答えられるかどうかなんて、俺に解るかよ」


「じゃあ、聞くな」


 微妙な顔をするマーロウ、しかしめげずに話を続けるようだ。


「では、答えられる範囲でいいから聞いてくれ」


 ニヤリと笑うマーロウに肩を竦める俺。仕方ない聞いてやるか。


「あのでかいオーク……この辺には殆ど居ないが、オークロードというんだ。あのオークロードを倒した時に、お前の手が火に包まれていた。あんな事出来るのは、魔物しか居ない……」


 真剣な顔をして話すマーロウは、一旦言葉を切ってから意を決したように話を続けた。


「……お前は魔物なのか? どうしてあんな事が出来る? 俺の故郷、寅都のずっと外側には、世界的には知られて居ないがワーウルフという魔物がいる。お前はその姿にそっくりだ」


 そこまで言い切って、俺をじっと見るマーロウ。


「まず、俺は魔物では無い。そしてどうして出来るか、というのは解らない。思いっきり殴ったら火が出た。後は、俺は寅都の方に行ったことが無い。ワーウルフも見た事が無いが、そんなに似ているのか?」


「失礼かもしれないが初め見た時は、そう思った。チカゲが嘘を言っているようには思えなかったのだが、チカゲが騙されているという可能性も捨て切れなくてな。しかし短い付き合いだがお前は理性的だと知ったし、律儀に俺との手合せの約束も守った。とても魔物とは思えない……本当にすまなかった」


 マーロウはバツの悪そうな顔をして謝ってくる。

 なるほど、それであんなに手合せしたがったのか……俺の正体を見極めたかったのだろう。


「気にするな」


 俺はそれだけ言って、話を変えることにした。本当に答えられる範囲しか答えてないし、腕が折れたままで土下座のような形で謝るマーロウが痛々し過ぎる。


「それで? さっき団長がどうのって言ってたが?」


 俺が意識的に話題を変えたのが解ったのか、頭を上げたマーロウは、何時も通りのニヤリと怖い笑顔で答える。


「おう、俺はゲーレンの町で自警団の団長をやっているんだ。ヨルグはあれでも副団長だ」


 ふむ、なるほど。マーロウは引退して肉加工業をしていたいが、次の団長候補のヨルグがあんな調子なら少し厳しいな。集団を纏めるなら強いだけじゃなくて、状況の判断くらい出来なきゃいけないからな。


「それからお前の件でな。団の連中に魔物かもしれない奴が居るなんて言えないだろう? それで面白い奴がいるから、俺自ら相手して実力を見るって言っちまったんだよ。それを時期、団長のテストだと勘違いしたんだろう。焦ってあの調子でな……」


 なるほど理解した。あんなに敵視されて、嫉妬の目を向けられたのはお前のせいか! 本当に面倒くせぇ……


「それで? 俺の事を他の奴にどう言うつもりだ?」


「そりゃあ、決まってんだろ? お前を次の団長に……」


「ならねぇよ!」


 体よく厄介ごとを押し付けて来てる様にしか思えん。


「そんな事言わずにな? 俺は自由に戦いたいんだよ!」


 ぶっちゃけやがったなこいつ……


「無理だ。他を当たれ」


 肩を落とすマーロウ。多分断られる事も解っていただろうに、同情を引こうとしても無駄だぞ?


 その後も、町に戻った千香華とヨルグが、自警団の団員を集めて戻ってくるまで、マーロウの愚痴と勧誘を延々と聞かされ続けたのだった。




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