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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
2章 弱くてニューゲーム?
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2-14



 オークの目は真っ赤に充血して、サシャとプラムに襲い掛かっていたオーク達と同じように、興奮状態のようだ。

 千香華は男の姿に変わっているし、今まで何度かオークに遭遇して見破られていないことから、本当は女だとばれてる可能性は低い。だとすればこいつが興奮状態なのは何故なんだ?

 千香華たちの方に駆け寄りながら、そのオークを【看破】で見てみることにした。




 名 前:****

 種 族:オークロード

 職 業:****

 生命力:大

 腕 力:大

 脚 力:中

 耐久力:大

 持久力:大

 敏捷性:小

 瞬発力:小

 器用度:極小

 知 力:極小

 精神力:小

 技 能:精力増大

     暴走

     繁殖力増大

     気配断ち

     凝視(女限定)

 状 態:興奮中

     凝視中



 オークの上位種のようだ。領主ロードなのに名前も職業も無い所に突っ込みたい。能力も軒並み上昇しているうえに、身長も俺を超える大きさだ。三メートル近くはあるだろう。

 技能に“気配断ち”というのがある。これで近くに寄られるまで気付かなかったのか。臭いでオークが近くにいるのは解っていた。男ばかりだから大丈夫だろうと思っていたが、甘かった。

 凝視はターゲットロックのようなものだろうか? オークロードの視線を辿るとヨルグがいた。ヨルグは「いやああぁ! こっちこないで!」と叫びながら腰を抜かして怯えている。凝視には対象者を恐慌状態にする効果でもあるんだろうか? ヨルグは平常を保っていない。女にとって相性最悪の魔物だ。


 ということは先程の悲鳴もヨルグか? 迂闊だった。この世界でも特に獣人のような男女の区別がつき難い種族が存在する。そのため、男女で一目で解るくらい服装の違いがあった。

 多少中性的で声が高めだとしても、男物の革鎧を着てぶっきらぼうで攻撃的な言葉遣いをするヨルグを男だと勘違いしていた。


 薙ぎ払うように振るわれたオークロードの棍棒が、動けないヨルグに迫っていた。俺はヨルグを突き飛ばし声を上げる。


「千香華! そいつを連れて此処を離れ……うぐあっ!」


 横薙ぎの棍棒の一撃を食らってしまい俺は吹き飛ばされる。トラックにでも跳ね飛ばされた様な衝撃が全身を襲った。


「ケイ!?」


 心配する千香華の声が聞こえる。……くそっ! 体が動かない! 運悪く頭にくらったらしい。視界が血で染まった。

 震える足に力を入れるが、上手く立ち上がれない。衝撃で脳が揺さぶられて脳震盪をおこしているようだ。

 くそっ! 動け! 早く回復しろ! 追撃が来ると予想していたが、オークロードは俺に一瞥することなくヨルグに向っていく。


 そこに飛び掛る一つの影があった。


「くらえや! この肉野郎が!」


 マーロウの左の爪がオークロードの右目を抉った。オークロードは「ぶぎぃー」と汚い悲鳴をあげて顔を抑えている。マーロウは、俺との戦いで折れた右腕をダラリと垂らしながらオークロードと対峙した。


「何やってんだ! 早くこの場を離れろ!」


 オークロードの視線が外れた為か、動けるようになっているヨルグが、何時までも逃げない事にマーロウは叱責の声をあげる。


「嫌です! 私も戦います!」


「お前がそんなんだから、何時までたっても俺が引退できねぇんだろうが! 団長命令だ! さっさと引け!」


 マーロウの言葉に歯噛みするヨルグ。


「っ!? マーロウ! 後ろ!」


 千香華の警告は間に合わなかった。右目を奪われ怒りで振るわれた、オークロードの叩きつけるような攻撃がマーロウを襲った。


 ドゴォンという音と共に、グシャリと骨が砕けた音が俺の所まで聞こえた。しかしマーロウはまだ立っている。防御したであろう左腕は、肉が裂け骨が飛び出している。


「マーロウさん!」


「待てよ!」


 焦り飛び出そうとしたヨルグを千香華が引き止めた。ヨルグは怒りの声をあげる。


「貴様! 退け! 戦えもしない申人が私の前に出るな!」


「確かに俺は戦えない……。けどアンタだって戦えないじゃないか! 見ろ! アンタを庇ってマーロウもケイもボロボロだ! 例え強くても戦えても、今の状況じゃアンタはただの足手まといなんだよ! 状況が判断出来ないなら、戦う資格は無い!」


 千香華の迫力に押され、何も言う事の出来ないヨルグは、肩を落とし引き摺られる様にこの場を離れようとしているが、それを逃すオークロードではなかった。


「オンナぁ! 逃がさんゾォ!」


 目の前に居るマーロウを弾き飛ばすように走り出す。しかしマーロウはそれを止める為にオークロードの左足に噛み付いた。


「グゥアアァ! イテェじゃねぇカ! 離せェ!」


 噛み付かれたオークロードは、引き剥がす為に何度も右足でマーロウを踏みつける。



 クソッタレが! 動けよ! あんな根性見せられて、何時までも脳震盪くらいで這いずってんじゃねぇよ! 自分に活を入れて再び足に力を込める。


 俺は怒っていた。自分の迂闊さと不甲斐無さに。こんな世界を創ってしまった元凶である癖に、この世界で真剣に生きて戦っている人を、何処か冷めた目で見ていたのかもしれない自分に。


「おらぁああああああああっ!」


 気合を込めて立ち上がる。やれば出来るじゃないか。オークロードには悪いが八つ当たりさせてもらうぞ。


「おい! この変態ブタ野郎!」


 オークロードは此方に「さっきの雑魚か」といった感じの嘲りの目を向けると、そのまま千香華とヨルグを追うように歩き出す。マーロウに足の腱を噛み千切られたのか、左足を引き摺っている。


「シカトしてんじゃねぇ!」


 そう叫びながら俺は走った。

 真っ直ぐだ! 今の俺じゃ普通に何発殴ってもあいつを倒せそうにも無い。だったら渾身の一撃を食らわせてやろうじゃないか!


 振り向く奴の豚面に全身の力を込めて拳を繰り出す。走る事によって得た運動エネルギーを、そのまま拳に乗せて打ち抜くように。

 右の拳から“ゴォッ”っと何時か聞いた事のある音がした。


 ボゴォン


 拳が当たったオークロードの顔は、爆散こそしなかったものの黒く焦げ、後頭部からも煙が上がっている。オークロードの体は、力なくゆっくりと倒れ込み二度と動く事は無かった。




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