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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
2章 弱くてニューゲーム?
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2-9



 元々、遅い朝飯だったのでそう待つこともなく、プラムの父親は俺達の元にやって来た。


「何か御用という事でしたが、何か不都合でもございましたでしょうか?」


 プラムの父親は確かライナーという名前だったか?

 ライナーは仕事の話と聞いて、自分の料理の事でなにか不満でもあったのだろうか? と不安げに聞いてきた。その姿はプルプルと震えていて嗜虐心を煽る。だが俺は別にそういう趣味でも無い。きっと狼の部分がそうさせるのだろう。

 まあ、料理に関して不満だらけだけど、この世界では標準、もしくは客入りを見る限りでは美味いという事かもしれない。今はその点についてどうこう言うつもりはないのだが……俺の隣で獲物をいたぶる時の猫の目になっている千香華に、一つ拳を落としてから話をした。


 話した内容は、先程サシャにも話したように、仕事として何でも屋を始めるという事、今まで通りにプラムに採りに行かせると危険だという事、良ければ仕事として自分達が請け負うという事などを説明した。


「そうですね。大事な娘を危険に晒すのは、親として出来れば避けたい所です。かと言って料理に使う材料が無いというのも困ります。あまり多くは出せませんが、三日に一度ぐらいで採ってきて頂ければ助かります」


 お? 流石に親だな。かなり好感触で話は決まった。

 この世界の植物は生命力が強いのか、採取した後でも殆ど枯れることが無く、定期的に納品するという事で問題は無いようだ。流石に毎日使う分だけをってなると他の事が出来なくなるからな。


「では、二日後に納品してください。お金はその時でお願いします」


「ああ、任せてくれ」


 ライナーとがっちり握手……は交わせないくらい手の大きさが違うので、ちょこんと指先で握った。まずは最初の依頼受諾だな。



 次はマーロウの所に向かった。肉加工業を営むマーロウは、昨日オーク肉を買い取ってくれた寅獣人だ。あの人は、なんか戦闘民族的な雰囲気があるから自分でも肉の調達してそうだが、果たして仕事として成り立つのだろうか?


「おう、自分で狩ることもあるぞ」


 ああ、やっぱりそうか。狩れそうだもんなこの人。


「だが、頻繁にはいかないな。在庫が切れそうだったり、特別に注文が入った時ぐらいだな。あとは持ち込みを買い取ったり。牧場から納入されたりだな」


「牧場?」


「おう、牧場だ。エスケープゴートっていう魔物なんだがな。知らねぇのか?」


 エスケープゴートは、逃げ足が速い魔物で、視線があると逃げる。物音がすると逃げる。障害物があると逃げる。兎に角逃げる魔物だ。

 その習性を利用して巧く追い込んで柵で囲い、飼育しているらしい。たとえ飛び越えられる柵でも避けていこうとするので楽に飼育可能な魔物だということだ。

 だとすると肉納品の仕事は厳しいか? そう思ったが駄目もとで、何でも屋開業の話しをしてみたが、意外な答えが返ってきた。


「いや、そんなことないぞ? エスケープゴートの肉は干し肉くらいにしか使われないしな。オーク肉もあればあるだけ売れる。他の魔物の肉は楽に取れないからな。お前らが狩れるんなら大助かりだ」


「そうか! だったら注文があったものとかも、依頼してくれれば狙って狩るようにするぞ。オーク肉は常時で構わないか?」


「おう、それで頼む」


 幸先がいいな。常時依頼まで入るとは思ってもいなかった。他に依頼が取れそうな所は無いか情報収集もしておくか。こういうので良くありそうなのは、武器とか防具かな? 俺の場合は素手だし、防具もセトがくれた服があるからあんまり必要性を感じないが、こんな世界だからそういうのも必要だろう。

 魔物素材の納品となると加工する場所に卸すのが良いだろう。となると鍛冶屋とかか?


「一つ聞きたいんだが、鍛冶屋とか何処にあるんだ?」


「かじや? なんだそれは?」


「あー、いや。いい忘れてくれ」


 そうだった。この世界は、冶金技術が無いんだった。鍛冶屋なんか存在するわけ無いだろう。……ん? じゃあ町で見かけた武器や防具の店はどうなってんだ?


「すまん。もう一ついいか?」


「おう」


「武器とか防具ってどうしてるんだ?」


「何言ってんだ? 魔物からに決まってるじゃないか」


 ここでまた、矛盾設定が出ちまったな。冶金技術がないのに魔物は金属装備を持っている。

 例えばここら辺では、ゴブリンが鉄製のナイフや剣を持っているそうだ。他の鉄製品も所持している事が多い。集落までいけば、鉄の調理器具も揃うそうだ。この辺りの町や村の金属製品は、ゴブリンからの略奪品ってことか? なんだかゴブリンが可哀想に思えてきたぞ。

 防具は魔物の皮を加工した革製品が主流のようだ。革の加工技術はあるんだなぁ。本当に変な世界だ。

 解体はここでするらしく。専門の買取は無いっぽいな。皮は革加工業者がいるらしく、そっちに卸しているそうだ。毒持ちや蟲系で、肉は食えないが希少な皮の魔物も居る様だから、皮だけ剥いできた時用にそこを紹介してもらう事にした。



 場所はマーロウの店の直ぐ裏手だった。取引があるんなら近い方がいいのだろう。


「はいるぞ」


 マーロウはそれだけ言うと扉を開け入っていった。俺達も後に続く。


「ああ、マーロウさんか。本日は何かご入用かい?」


 店の中に居たのは申獣人の女だった。


「いや、キンナリーに用があってな。あいつは居るか?」


「うちの人に用事かい? 今呼ぶよ。……ちょっとーアンタ! マーロウさんがお越しだよー!」


 中々気風の良い女の人だ。店の奥に大声で呼びかけると、ややあって申獣人の男が出てきた。


「はいはい。呼んだかい? おお、マーロウさん調子はどうだい?」


「まずまずだ。今日は紹介したい奴らがいてな……」


 申獣人の男の名前はキンナリーといい、女はキンナリーの奥さんのナナというらしい。二人は夫婦で革加工業を営んでいて、マーロウの昔馴染みらしい。二人に紹介されて早速、事情を説明したら「喜んで依頼を出させもらうよ」と返事を貰えた。

 実は皮だけではなくて蟲の甲殻も扱えるらしく、それも買い取ってくれるという事だ。

 キンナリーは革を扱うだけあって、俺の着ているズボンとコートに興味をもったらしい。色々聞かれたが神であるセトからの貰い物だとは言えず、知人からの贈り物なので詳細は解らないと誤魔化しておいた。


「はぁ、凄いなぁ。オイラもいつかこんな革をなめせるかねぇ……」


 人のコートの裾を掴んでウットリしないでくれ。今にも頬摺りしそうで引くわ!


「ちょっと! アンタ! ケイゴさんに迷惑だろ? すみませんねぇ、うちの人いつもこうなんですよ」


「うう、申し訳ない」


「すまないな。贈り物なんで譲ってやる訳にはいかないんだ」


 おお、圭吾よ! これを譲るなんてとんでもない。



 今日だけで依頼が三つも取れたのは僥倖だ。まだ日が落ちるまで暫くあるし、少し町の外の様子を見るのも良いかもしれないと考え、俺と千香華は町の出口に向かった。



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