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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
2章 弱くてニューゲーム?
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2-6


 ロキがこの世界に来た理由は簡単な事だった。情報収集と伝言。この二つを色んな世界で行うのがロキの仕事らしい。確かに神話のロキは空を飛べる靴を持ち、姿を変える能力を持っている。本来の姿は巨人族の末裔とかなっていたから、今の姿も仮初なのかもしれない。

 機動力があり、変装能力がある。確かに情報収集と伝言を仕事にするにはうってつけの能力だ……がしかし、ロキは同時に嘘吐きでも有名だ。その嘘で仲間を助ける場面も多々描かれてはいるが……要するに何を言いたいのかというと、情報持たせちゃ駄目じゃね? 伝言頼む事が間違ってね? という事なのだが、大丈夫なのだろうか?


 俺の疑問は置いといて、今回のロキの目的も世界の情報収集と俺達に伝言だそうだ。ロキは「運良くノートを使った時の力を感じ取れたから、世界中探し回らなくて良かったよ」と言ってた。

 そして伝言はセトからだった。


「えっと……なんだったかなぁ? ……冗談だよぉ、そんなに怖い顔しないで。笑顔笑顔! おほん! セトさんが言うには、千香華ちゃんはギリギリ大丈夫だったけど、圭吾ちゃんは“再構成”されてる可能性が状況的に高い。だったかな? ねねね? どういう意味? セトさんぼくに意地悪して教えてくれなかったんだよぅ「圭吾さんならそれだけで理解するはず」とか言っちゃってさぁ。ロキさん知りたいなぁ。優しい圭吾ちゃんなら教えてくれるはず!」


 ああ、なるほどね。弱体化した理由が解った。あの言語設定した時に、俺は生命力はだけではなく気力的な何かまで枯れて再構成までいってたんだな。再構成は初期化みたいなものだ。神力の補正でブーストでもされてたんだろう。それが全て無くなり、俺の素質から構成された、神としての体の初期値まで能力が落ちているとそういうことになる。

 千香華が無事だったのは、以前【看破】を使った時の能力に鑑みると、おそらく精神力が高かったから。俺だけ再構成なのは精神力が低かったからってことか?


 考えてる間も「ねぇねぇ教えてぇ」と五月蝿かったロキに、簡単にこの世界の死の設定と陥っている状況を説明した。


「おおー、面白いねっ。なるほど! だからセトさんは、ぼくに教えなかったのかぁ。心外だなぁ、いくらぼくでも悪用したりしないのにねっ?」


「ん? どういう意味だ?」


「ありゃ? 気付いてないのぉ? どうしよっかなぁ? 教えようかなぁ? 黙ってよっかなぁ? ……ねぇ? なんで関節ポキポキならしてるの? もう、そんなに怒らないでよぉ。教えてもらったしちゃんと答えるからさぁ。んとね、簡単にいうとこの世界が危険だからだよ。神にとってもね。だってこの世界なら……不死性を持った神でも殺せるじゃない? 前情報無しで騙して連れて来て、精神を疲弊させてからならどんな神でも消滅でしょ? 不死性持ってる神って油断してるものさぁ。ぼくにかかれば簡単に心を折れるよっ」


 言ってる事が怖いよ! 滅茶苦茶笑顔で恐ろしい事を言ってるし……まずったかなぁ? セトにも謝っておかないといけないかもしれない。


「あれぇ? 疑ってる? 悪用しないってば」


 不安が表情に出ていたのかロキがそんな事を言ってくる。


「悪いが簡単に信用は出来ない。俺はこの世界を創ってしまった責任もある」


「ふふっ、あははははっ。やっぱり思った通り君は面白いね。ぼくの言った事が信用されないなんてビックリだよ」


 ふむ? ということはこいつも千香華と同じような技能を持っているということか? 残念だったな耐性があるんだよ。


「仕方が無い。誓おう! 我、ロキの名にかけて君達を裏切るようなマネはしない、と」


 突然、雰囲気を変え誓いを立ててくるロキに少し驚いたが、本気だというのはその真剣な眼差しでわかる。


「それに、ぼくから友達を裏切ることはないよ? 神話に詳しそうな圭吾ちゃんなら知ってると思うけどね」


 口調が再び元に戻してロキはそう言う。確かに神話で知られるロキは悪い神ではなかった。後の他の宗教により歪められた話では、嘘も狡猾も悪の象徴なので悪く書かれることもあったがな。


「悪かった」


 そう言った俺に笑顔でロキは更に言葉を続けた。


「もし不安だったら、オーちゃんみたく義兄弟の契りでも交わす?」


 ああ、これは冗談だって解るわ……多分オーちゃんってのはオーディンのことだろう? やだよ、俺はラグナロクに参加はしたくない。


「遠慮するわ。本気は伝わったから、信用するよ。悪戯はするし嘘は吐くけど裏切らないってことだな?」


「ってことは友達って認めたねっ。やっほぅ! 圭吾ちゃんと友達」


 他の神にはこの世界は敬遠されていて、それは俺達も同じだろうと思っていたけど、こうして友達になってくれって神が一柱でもいるのは何だか悪くない気もしてきた。……多少ウザイけどな。


「話が纏まった所で、ロキにお願いがあるんだ。私をロキの弟子にしてくれないかな?」


 今まで何かを考え込んでいた千香華が、ロキに向かってとんでもない事を言い出した。


「……へ? は? なになに? なんでいきなり?」


 おお? ロキが焦ってる。少し面白いぞ。


「私の技能とロキの技能って、近いものがある気がするんだ。私に戦う力は無いし、ケイは弱体化してるし、何とかしなきゃいけないかなって思ったんだよ。近い技能なら扱い方とか熟知してそうだからね」


「そういうことかぁ。うんうん、いいよー。なるなるー、ぼく師匠ねっ……でも戦う力ってぼくもあんまり無いよ? そのかわり圭吾ちゃんが戦い易いように“フォロー”する方法とかなら教えてあげられると思うよっ。いやぁ、懐かしいね。ぼくも仲間と冒険していた時に、相手を欺き窮地を救った事が何度もあるんだ。このロキさんが色々教えてあげよう! 効率的な騙し方とか、虚を突く方法とか、相手の心を揺さぶる方法とか! うわぁ楽しくなってきたなぁ!」


 活き活きと語るロキとそれを真剣に聞く千香華を見て、俺は頭を抱える……相棒は立派な詐欺師に向かって一直線。頭が痛くなってきた。

 でもまぁ、なるほどねぇ。千香華が色々と考えてのことならいいか。



 腹も減ってきたって事で、隣の【御食事所 卯小屋】に場所を移したが、それでも続くロキ講座。正直、他人には聞かせられないような物騒な言葉が色々飛び出しているが、ロキ曰く「認識を阻害してるからだいじょーぶ」だそうだ。この世界は、他の世界で覚えたりした“魔法”と呼ばれるものは一切使えないけど、それ以外は使えるらしい。もちろん神の力も健在だ。むしろそうでなくては俺達も困るのだが。


 神も腹が減るって事に驚きだが「食べなくても死なないし、衰えもしないけど神は欲望の塊だからねっ」というのはロキ談。ぶっちゃけ過ぎだろうが、この野郎。まあ小説書くために色んな資料を読んだが、否定する言葉なんてこれっぽっちも浮かばないけどな。


 しかし、ここの店はどうやって注文とるんだろう? プラムが居たが忙しく働いているので声は掛けていない。プラムの母親も慌しく料理を運んでいる。繁盛しているようで何よりだ。

 だが腹減った……仕方が無いな。俺達も客だし、声を掛けるか。


「おーい、プラム」


 しかしプラムは一瞬耳をピクッと動かしたが、キョロキョロと辺りを見渡した後、首を傾げて他の客の注文を取りに行った。あれ? 無視された?

 そんな俺の様子を見ながら笑いを堪えているロキが視界の端に映った。ギロリと擬音が聞こえるほど睨んでやったら、ロキは肩を竦めながら言った。


「認識を阻害してるっていったよねぇ? 言ったのに忘れてた事を棚に上げて、ぼくを睨むのは間違ってるよねっ?」


 くそっ! 確かに言っていたのを覚えているから、言い返せねぇ。


「はあ……悪かったよ。取り合えず注文したいから、それ解いてくれねぇか?」


「あいよっ」


 そうロキが答えるが早いか、何かがスッとロキの方に縮まった感覚がする。あくまで感覚的なものなので、それで解けているかわらない。


「あっ! ケイゴさんにチカゲさん」


 プラムが慌てて駆けて来る。どうやらちゃんとここに居ると、認識してもらえたみたいだ。


「何時いらしたんですか?」


 結構前からとは言えず「ついさっきだ」と答えるとプラムは「お食事ですね? 今お持ちします」と言って厨房らしき所に向かっていった。

 あれ? メニューとかないのか? 注文してないんだが……金額も聞いて居ないので焦るが、きっとそういうシステムなのだと一人で納得した。

 暫くすると二人分の食事が運ばれてきた。結構なボリュームがある。ん? 二人分? ロキを見ると目配せをしてきた。ああ、認識を阻害したままなのか。流石に神がおいそれと人前に出るわけにもいかないもんな。俺達は出てるけど……。


 運ばれてきた料理は、肉を焼いた物(多分直火)黄色の葉野菜を千切っただけのサラダ(何もかかっていない)変な色の野菜と多分干し肉っぽい物が入ったスープ(具少なめ)茹でた芋らしき物(多分主食)二人前で黒貨一枚。


 結論から言おう。まずい! 日本の食生活にどっぷり浸かった俺達には、塩味しかしない食べ物は正直きつかった。

 肉は多分オーク肉だと思う、豚肉に近い味がしたからな。ただし品種を改良されていない豚肉だがな! 直火で焼いて塩かけてあるだけなので滅茶苦茶硬い!

 サラダは甘味が少なく含有水分量もすくないのか、バリバリしている感じがする。野性的な味だ。草食ってるのと大差ない!

 スープもこれまた塩味、干し肉入ってるから多少はましだが、何せ味が薄い。旨みを感じる器官の発達している日本人からしても、塩味しかしないと感じるレベルの薄さだ。

 主食の芋に関してはただ茹でただけだ。でもはっきり言って、これが一番美味い気がした。

 出された食べ物は残さず食べる事を信条としている俺としては、普通の二倍量くらいあるこのボリューム感が憎くてたまらない。


 微妙な顔をして食べている俺達を見てロキは、ニヤニヤとしている……こいつ知ってやがったな! コメントを差し控え、無言で食べ続ける俺達を尻目にロキは今にも噴出しそうだった。


 そして俺達に止めの言葉が掛けられた。


「うちのご飯美味しかったでしょ? 明日も食べに来て下さいね」


 満面の笑顔でプラムにそう言われ、引き攣る表情を押し隠し「また来るよ」とだけでも返した千香華を褒めてやりたい。


 この世界の食糧事情と料理水準を上げることを心に誓い、部屋に戻ることにした。



ラグナロク(古ノルド語:Ragnarøk(Ragnarök、ラグナレク)、「神々の運命」の意)は、北欧神話の世界における終末の日のことである。

ウィキペディアより引用。



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