2-5
部屋で少し休むと疲れが嘘のように無くなったような気がした。意味がわからん。ゲームじゃねぇんだぞ?
それよりも千香華を問い詰めねばと思い出し、ベットに転がっている千香華に声を掛けた。
「千香華?」
「ん? なにさ?」
「あれはなんだ? どうしてあんなにあっさり信じてもらえた?」
千香華は少しニヤっとすると、得意気に言った。
「それは、ケイよりも私の方が信用に値するように見えたからじゃないの?」
「はははっ。それは笑えない嘘だな」
「むぅ。どういう意味さ? ……うーん? やっぱりケイには効かないのかぁ」
俺には効かない? やっぱり何かしてたのか? そうか! 千香華の技能は……なるほどな。
「もしかして、【嘘と欺瞞の衣】か?」
俺は心当たりを口にした。千香華の技能の【嘘と欺瞞の衣】は認識を誤魔化すことができる。ということは……
「ピンポーン! 大正解! 良く解ったねー。私の言う事は、嘘も真実も聞く人からすれば全部本当の事に聞こえるの。というか本当の事のように認識されるんだよ。凄いでしょー?」
「悪い事に使うなよ?」
千香華は心外だと言わんばかりに頬を膨らましているが、今は男の姿だ。可愛くないぞ?
しかし本当にとんでもない技能だ。どうやら慣れてる俺には効かないようだが、嘘も真実のように認識させるなんて、交渉事に関してほぼ無敵じゃないか。
あっ! 技能で思い出した。体が不調だから【看破】してみるんだったな。
名 前:村瀬圭吾
種 族:狼神(黒狼)
職 業:イデアノテ創造神
叙事詩世界神(派遣)
荒神
獣神
生命力:小
腕 力:中
脚 力:中
耐久力:小
持久力:極小
敏捷性:小
瞬発力:中
器用度:極小
知 力:大
精神力:極小
技 能:我流格闘術
自己再生(中)
並列思考
集中思考
荒神の咆哮(小)
技術習得向上“模倣+最適化+効率化”
狂暴化
超嗅覚
事象干渉(物理)
看破
その他多数
「は?」
【看破】を自分に掛けてみて俺は間抜けな声を出してしまった。能力が軒並み低下している。やたら疲れやすいのは持久力の極小か? 狼って何日も獲物を追い続ける、持久力のある動物じゃなかったのか? 元々の俺が持久力が全然無い奴だったから極端化でそうなっても仕方が無いのだが……いや、今はそれよりも能力が異常に下がってる事の方が重要だ。
突然間の抜けた声を出した俺に、不思議そうな顔をして千香華が声を掛けてきた。
「ケイ? どうしたの?」
「あ、いや……俺に【看破】掛けてみてくれ」
「うん? りょーかい」
千香華は「え?」と言って俺の方を見てくる。多分俺と同じ内容が表示されているんだろう。
「これ、どうしたの?」
どうしたんだろうな? 俺も聞きたいわ……何故こうなった?
「解らん。違和感があったから【看破】を使ってみたらこうだった」
うーん? と千香華は首を捻っている。俺ももう一度自分の能力を見てみたが、やはり低いままだ。というかこれオークの能力とそんなに変わらないんじゃないのか?
数値化出来ないって制限があるから詳しく見ることは出来ないが、この世界でそんなに強くない魔物とあまり変わらない能力って……もし、またドラゴンフライみたいな奴に出会ったら絶望的じゃないのか?
考えが纏まったのか千香華が神妙な顔つきで言った。
「ねぇ? ケイ……ノートって今使っても平気かな?」
「どうだろうな? 神気はそんなに回復してるような感じがしないし、枯れるのはもう嫌だぞ?」
「【看破】に追加事項を加える位ならどう?」
うーん? 今までの傾向からして、根本から大きく何かを変えるとかしない限りは大丈夫だと思う、しかも幸い【看破】は現在俺と千香華しか使えない。その位ならなんとかいけるかも?
「多分それなら平気だとは思う。何を追加するんだ?」
千香華の考えは、なるほどと思えるものだった。
追加するのは“状態”。今現在、状態異常に掛かっていないか解る様にする。ゲームとかでは普通にあるもので、今の能力低下を知る為には、丁度いいのかもしれない。
『【看破】追加項目、“状態”看破使用時に現在の身体の状態を客観的に表示する』
光はあっさりと消え、神気はあまり消耗されなかった。ふぅ、と二人して安堵のため息を吐くと再び【看破】を使ってみる事にした。
名 前:村瀬圭吾
種 族:狼神(黒狼)
職 業:イデアノテ創造神
叙事詩世界神(派遣)
荒神
獣神
生命力:小
腕 力:中
脚 力:中
耐久力:小
持久力:極小
敏捷性:小
瞬発力:中
器用度:極小
知 力:大
精神力:極小
技 能:我流格闘術
自己再生(中)
並列思考
集中思考
荒神の咆哮(小)
技術習得向上“模倣+最適化+効率化”
狂暴化
超嗅覚
事象干渉(物理)
看破
その他多数
状 態:神力低下中
能力低下中
愕然とした。
解ってるわボケ! 下がってるって知ってるからそれの原因を知りたかったんだよ!!
千香華も見たのか顔が引き攣っている。
「あの……なんかごめん。全然意味無かった」
申し訳無さそうにへこんでいる千香華の頭をガシガシと撫でてやりながら俺は言った。
「気にするな。この位ならノートを使用する事が出来るって、解っただけでも収穫だ」
「そう……かな?」
更に千香華の頭を撫で続ける。千香華は昔から俺に頭を撫でられるのが好き、と言っていた。
段々と笑顔になっていく千香華を見ながら、さてどうしたものかね? と思っていたら突然、何も無いところから声が聞こえてきた。
「あれれ? もしかしてお邪魔だったかなぁ? ぼくお邪魔虫? でもしらなーいっ。失礼するよーぅ」
聞こえてきたチャラい声の方を警戒しながら見ていると、声のままチャラい男がスッと現れた。
「はぁい。皆のアイドル、ロキさんだよー。千香華ちゃんお久しぶりぃ、圭吾ちゃん初めましてだねっ。よろしくねー」
すっげぇウザいの出て来たわ。
「ロキ久しぶりー」
久しぶりって……千香華は面識があるのか? そう思い千香華に目線をやると俺を呼び出す前にあった事があると答えた。ロキっていえば、北欧神話のトリックスターだよな? 有名神だな……もう慣れたがセトも有名な神だけど。何か用事でもあるんだろうか?
「何故こんな所に神がお越しになられたのでしょうか?」
至極当然な疑問を俺が口にすると得意気にロキが答えた。
「それはねー。二人を探していたんだけど、居場所が解らなかったんだっ。でもさっき神力が使われた形跡がビビッと来てね? それで此処まで飛んできたって訳ー」
「ああ、質問が解りにくくて申し訳ありません。探していたとおっしゃいましたが、何か御用でもあったのでしょうか?」
一応神としての先輩に当たるし、セト同様神としての神格も高いから敬語で話している。しかしロキはそれが気に食わないようで、不機嫌な顔をしながら言ってきた。
「あーあー、なぁに? そのよそよそしい感じぃ。そんな言葉遣いはセトさんだけで十分だよぉ? 圭吾ちゃんは千香華ちゃんの相棒なんでしょー? ぼく千香華ちゃんと友達なんだっ、ということは圭吾ちゃんも友達でしょー? 普通にしゃべってよぉ。ロキさんのお願いねっ?」
ウザっ! 何その友達の友達は、みな友達理論。本当に言う奴初めて見たわ。でもこういうタイプは、敬語やめないとしつこいし、最終的に友達じゃ無いってなったら、容赦なく敵にまわるので面倒臭い。だが千香華が友達になったのならそこまで害は無いだろう。
「あれ? ロキって友達だっけ?」
「酷いー! 千香華ちゃん酷いっ。ぼくら友達でしょー? 初めから普通に話してくれたし、なんか親近感があったでしょー? ロキさん泣いちゃうー泣いちゃうぞぉ」
ウザっ! 友達発言は予定だったのかよ!
「あははっ。冗談だよーロキは友達だよー。似たもの同士仲良くしようね」
「うんうんー。千香華とぼくは仲良しで友達だー。わぁい」
ウザイ! ちらりとこちらを見るロキ。なにか言いたげだ。
「……」
目を潤ませて此方を伺うロキ。やめれ。内心ため息を吐き、埒が明かなそうなので、諦めて敬語をやめて話すことにした。
「それで? なんでイデアノテに来たんだ? 用事はなんだよ」
目を輝かせて話し始めるロキを見て、失敗したかなぁ? と心の底から思う俺だった。




