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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
6章 イデアノテ
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6-27


 暫く歩くと水溜りがあり、洞窟は途切れていた。


「まじかー……行き止まりとかないわ」


 何が地下水の溜まったものでもなさそうだよ! 外の匂いだろう? 俺の希望的観測じゃねぇかよ。あのクソ女ここ出たらまじで許さん! アレルギーで痒いし痒いし痒い……


「はっ! やばい。また暗黒面に囚われそうに……」


 ほんと俺って精神力が低いよな、神なのに。戦っている最中とか問題ないはずだが……SAN値下げてくる奴が相手だと、手も足も出ないんだろうな。まあこの世界にそういう系統は創ってないから大丈夫だろうけど。

 なんか変なフラグ立ちそうだから、考えるのは辞めておこう! まだ立ってないよな?


 でもおかしいな。確かに外の匂いはするし……ん? これは?

 一寸先も見えない真っ暗な状態で、理術のソナーと嗅覚で水面と認識している場所がぼやっと光っているように見えた。


「あん? 暗すぎて目がおかしくなったか? ……うわっ!」


 ばしゃ! っと水音を立てて何かが飛び出した。

 それは眩い光を放って……。

 暗い所に居るのに突然強い光を浴びれば、当然のように……。


「目がぁー! 目がぁああー!」


 と叫びながら両目を押さえてしまうのは、御約束すぎと言われても仕方が無いくらい世の中の常識だろう。


「おおう。こりゃすまねぇだ……っとおめぇ人族かぁ!? なにもんだ! こんな所で何しとるだ!」


 そう誰何してくるのは、水から飛び出してきた光る蛙が二足歩行している魔物……おっと今は魔族と呼ぶべきだな。

 この蛙の種族名は、カワズマン……命名は言わなくても解ると思うが千香華である。姿は鳥獣戯画そのままと言えば理解できるだろう。二足歩行している蛙である。

 ただし、色は半透明で蛍光色緑だ。だったはずなのだが……さっきまでと違い、今は赤や黄色の警戒色で光っている。

 気が立っているのだろうか? もしかして何か緊急事態なのか?


「お前こそ、こんな所で何をやっている? サナトに何かあったのか?」


「なっ!? 人族のくせに魔王様の愛称を呼び捨てとはどういう事だんべ! おらがそったら事ゆるさねぇだ!」


 カワズマンは、その水かきの付いた足で地団太を踏んで怒りを露にしている。赤・青・黄・緑と色を一踏み毎に変えながらだ。

 おい! 止めろ! 意識を失ったらどうする! 暗いところでそれをやったら、某電気ネズミのように子供の意識ゲットでチューとか揶揄されるぞ! 画面の下に警告文とか入れられても知らないぞ?


 まあ、冗談は置いといて。そういえば今は人型形態をとってたな……。俺のことを誰か解っていないようだ。


「少し待て……よし。これなら話をしてくれるか?」


 姿を獣人形態に戻し、カワズマンを見るとそこには……かなり大きめの普通の蛙が鎮座していた。

 色は何故か暗い青色をしていたが……。


「すまねぇだー。魔王様の父君、ケイゴ様とは気付かなかったべ……しづれいな物言いを許すてけろー」


 どうやらあれは平伏しているらしい。そして顔どころか、全身が青ざめてしまっているようだ。

 こいつ等の変な方言っぽい喋り方も聞き取り辛い。


「いや、別に問題ないから頭をあげてくれないか? それよりも……何かあったのか?」


「うんにゃ、魔王様の軍は特に問題なく進軍しとるだ。おらは、偵察任務でここさおるんだぁ……魔王様がなんか“ぐんせん”とかいう水棲魔族でも無いのに水の上を移動する輩を……」


 ああ、軍船か……サナトには戦略とか輸送とかの概念を教えた時に、船や水軍に水上輸送とかも話したからな。情報収集の大切さも知っているので斥候を送っていても不思議じゃない。


「……っちゅーこって今は休憩中だぁ。だけんど、そろそろおらは報告にもどらなので、此処らへんでお暇するでよぉ」


 そう言ってカワズマンの斥候は立ち上がり、地下水溜まりへ飛び込もうとした。


「待て! 報告に戻るってことは、その水溜りは外へ通じているって事か?」


「へえ。そら来たんだから当然だべ」


「外まで案内頼めるか?」


「ちいと長い事潜るだが……まあ、大丈夫だべ」


 カワズマンは快く案内を引き受けてくれた。

 光る蛙に先導されて潜る水中洞窟は、幻想的で綺麗だったが少し長い程度では無かった。






 結構呼吸がギリギリだったが、無事水中洞窟を抜ける事が出来た。

 カワズマンの姿はもう見えない。

 あんなに光るのに斥候が勤まるのかと疑問だったが、明るい所では光らず体色を器用に変え、風景に同化する事が出来るらしい。


「さてと……ここはどの辺りだ?」


 当然返事は返ってこない。独り言増えたなぁ……。

 周りを見渡すと、川沿いではあるらしい。川と言っても向こう岸が俺の視力でもギリギリ見えるぐらいの川幅だ。

 流れからすると……こっちが上流だと思う。

 上流へ意識を向けると同時に、俺の鼻が嫌な臭いを感じ取った。


「この臭いは……血だ!」


 風に乗って漂って来るのは、まだ新しい血の臭い。


「それと、土?」


 掘り返された土の臭いも混ざっている。いや……これは土砂崩れか?


 他にもなにか臭う。焼け焦げた臭い……そんな馬鹿な! ある筈が無い!

 俺は“これ”の知識をイデアノテに創っていない。この世界に来て“これ”の知識を教えてもいない。

 千香華か? と一瞬頭に過ぎるが、あいつはその製法の知識は無いと言っていた。

 それに千香華は「そんな無粋な物必要ないよー」と言って否定的だった。



 臭いのする上流へ走りながらも考える。


 やはり“船”を造り出した者が関係していると考えるのが自然だろう。

 一体誰が……もしや地球からの転生者?

 ははは……ラノベじゃあるまいしそれはないだろ。


 それ以前にこの世界は、封鎖中のような状態だ。

 現在進行形で消滅の危機にあるし、魂はこの世界だけで廻っている。

 余所の世界から魂を受け入れる事も出来ない“未完成の世界”なのである。



 臭いの元が見えて来た。

 ここまで来ると何が起きたのか一目瞭然だった。


 内陸から川へ至る丘の中腹辺りが、抉れたように吹き飛んでいる。


「やはり“火薬”か……」


 俺達が意図的にイデアノテに齎さなかった物は数多くある。

 その中でも最悪の結果を残す可能性が最もあった物が“火薬”だった。


 この世界の物理法則は、俺の元いた世界と比べて変わった特性を持っている。

 その中の一つに分子結合の結びつきが強いという特性があるのだが、これが化学反応で離れる時に爆発的なエネルギーを生む。

 幸い原子核もやたら丈夫なので核反応などは起きないのだが、テルミット反応とか恐ろしくて試せないレベルだよな。


 もちろん火薬を密閉し爆発させる爆弾などは、その爆発力もさることながら連鎖的に分子結合を破壊し、周囲に絶大な被害を生む事が想像に難くなかったのだ。

 それだけでは無く火薬というものは、最終的に誰にでも簡単に殺意を振りまける道具を作り出せてしまう。

 何処の誰だが知らないが、必ず止める! あれはこれ以上広めてはいけないものだ。

 俺は憤りを隠す事無くその場所へ向った。



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