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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
6章 イデアノテ
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6-25



「あー……気が滅入るわ」


 俺は頭をポリポリと掻きながら一人呟いていた。


「全く光が無いと、この眼でも流石に何にも見えないんだな……」


 現在俺は光が一切無い真っ暗な闇の中に居た。

 此処は、卯種族がウルム周辺に網の目の様に掘り進めた巨大地下通路……の更に下だと思われる場所。卯種族達は、地下通路の侵入者対策としてトラップを多く仕掛けていたようだが……その中の一つだろう。

 俺はその中の一つに落っこちた……いや、落とされた。思い出しても腹が立つ! 俺を突き落とした時のあいつの顔……。


「あのクソ女! マジで意味解んねぇ!」


 少し大きめの声で今の心境を口に出してみるが、空しく響くは自らの声のみ。そういえば……蝙蝠とかは反響音で地形を把握するんだったか?

 試しにやってみるが……さっぱり解らない。元の世界の頃よりも格段に優れた感覚器官を持っていても出来そうには無い。


「そもそも俺は、方向音痴だしな! 空間認知能力が劣ってるしな!」


 空しい反響……確か人は暗闇に閉じ込められると発狂するんだったよな? 先程から独り言が多い気が……いやいや、まだ早いだろう。どのくらいで影響が出るんだったかな?

 三日? 一週間? というか、今どのくらい経ったんだっけ?



 ……ーッ! ……



 あれ? 今何か聞こえたような……独り言が増えて、時間感覚が狂って、次は幻聴・幻覚だったか?

 それどころか、腰の辺りでコートを引っ張られているような気がする……。



 ……キュ……ー! ……



 ん? 何処かで聞いた声だな? そう思っていると、腰の辺りで何かがモゾモゾと動いた。



「キュ!」


 そこに居たのは……まあ、暗くて見えてはいないんだけど。白い毛色のオブサロリスだった。


「そういえば、お前はずっとそこにいるんだよな……というかお前が居ないと作戦も成り立たないもんな」


 俺の呼びかけにキュ! と返事が返ってくる。こいつ可愛いなぁ……見えないけど。

 いや、忘れてたわけじゃないんだよ……ちょっと意識の外にあったというか……。


 そんな言い訳を考えながら、分割した思考(・・・・・・)を一つに統合していった。






 うん! 暗闇やばいな! 俺の精神力が低いのもあるけど、怒りを抑える為と脱出方法を考える為に【並列思考】と【集中思考】つかったんだが……。

 時間感覚は狂うし、精神汚染がこんな速度で進むなんて思いもよらなかった。まさかこんな弱点があるなんて……以後気をつけよう。

 そもそも神なのに狂うのか? と思ったが、狂った神なんて神話のなかじゃ多すぎるほど語られてるよな……ただでさえステータスに【荒神】となっているのに、そのうえ【狂神】とか笑えない。



 ……さてと思考も落ち着いたし、現状をもう一度把握しよう。

 俺の作戦とは単純な話で、内と外で同時に攻めるって事だ。

 この場合の“内”とはウルム王城及び地下巨大通路で篭城しているウルム軍。そして“外”とはゲーレンから文字通り駆けつけたギルド本部軍。

 要するに合流が難しいなら、そのまま挟み撃ちでいいじゃないって……我ながら本当に単純だな。

 だが、その効果は高いはずだ。古来より奇襲からの挟撃は、数多くの戦場で使われてきた。

 本来ならば、奇襲も挟撃も適切な場所とタイミングが重要になるが、戦争に不慣れなこの世界の人々にそこまで望むのは酷な話だ。


 不慣れなのは相手も同じ……誰だって正面に敵がいるのに後ろから攻撃はされたくない。まともに統率されていない軍なら浮き足立ってしまい、対応する事なんて出来はしないだろう。

 そうなれば逃げる者も出てくるし、戦意を失って投降する者も出てくる。死ぬまで戦うぜ! ヒャッハー! なんて馬鹿はいないだろう。

 俺も自分の世界の住人を虐殺したいとは思ってないしさせたくもない。投降してきた者は捕虜にとヨルグには伝え、無用な虐殺はするなとも厳命した。


 しかし、撤退する者は見逃す訳にはいかない。逃げ惑う者ではなく明確な意思で一時撤退するならば、再度攻撃してくるのは火を見るより明らかだ。

 当然、退路は塞がせて貰う。敵の退路とは即ち“船”だ。

 その任を担うのは、サロメ率いる第一部隊の精鋭と決まった。そして船は全て破壊する事に決まった。本当は鹵獲したかったが、操船技術なんてあるわけが無い。俺が行けば一隻ぐらいは何とかなりそうなのだが……俺には他にやるべき事があり、諦めるしかなかった。



 ……とは言ったものの、この作戦には致命的な欠点がある。それは、ウルム側の物資が底を尽きかけているということだ。

 ほら、昔から言うだろ? 腹が減っては戦は出来ぬって。ウルムの地下には有事の際に立て篭もれるように大量の食料や資材はあったようだが、国民全てが篭れる程の備えはされていなかった。まあ、普通に想定外だろう。


 そこで俺の……というかロリスの出番だ。こいつの袋は、いつの間にか無限インベントリみたいになってるからなぁ……まあ、大量の物資を運ぶのに適任ってことだ。

 ロリスは俺の腰から離れたがらないので、当然俺が行かなくちゃいけない。俺の他にやるべき事とは、単独で地下通路を通りウルムへ物資を届ける……一人軍隊ならぬ、一人輜重隊だな。



 単独といっても始めから一人で行動する訳ではなく、途中までは第一部隊と一緒に地下通路を進む事になっていた。

 俺も第一部隊も秘密裏に行動しなければならず、そのルートは限られている。

 それならば途中までは一緒にとサロメが提案してきた。俺は面倒だなぁと思いながらもそれを了承した。

 今思うとそれが間違いだったのだ……何かしら理由を考え、別ルートで行くべきだった。



 ◆



 地下通路の行軍は、特に問題も無く進んだ。

 サロメの話が長い事と、ヴェロニカが一々突っかかってくる事以外は……。


「クリア! グリーンです!」


 先行していた申人の冒険者が先の丁字路に問題が無いことを告げてくる。

 彼等はカバーリングもクリアリングも完璧だ。さながら某潜入ゲームの主人公のようだった。


「ご苦労! ……どうだ! 素晴らしいだろう? この技術は、かの初代ギルドマスターイグニットが伝えたものでな。何でもヘビとかいう異名を持つ過去の英雄が得意とした技術で、他にもエフピーエスという競技では必須の技術だそうだ。ギルドの斥候職では必ず習得しなければならない技術で……」


 部下から報告を受けたサロメが得意気に話してくる。

 やっぱり千香華か……。この感じだと適当な説明してるんだろうなぁ。まあ、技術的には間違って無いからいいんだろうけどな。報告時も風系の理術で大気を遮断して、音が漏れないようにしているようだ。周囲に敵の気配が無いとはいっても、地下通路では音が響いてしまうからな……良いセンスだ。

 サロメの長話は続くが、そろそろ別行動する頃合だ。


「話の最中にすまないが、俺はこっちの通路の方角みたいだな」


 俺はウルム城方向に伸びる通路を指差し言った。サロメはその通路を一瞥すると、残念そうな顔をして話を止めた。


「どうやらそのようだ。我等、第一部隊はこれより敵陣営の“船”破壊作戦に移る。参謀殿も気をつけて行かれよ」


「ああ、そちらも用心しろよ?」


 俺はそれだけ言って、第一部隊とは別の通路へ歩き出した。



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