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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
6章 イデアノテ
173/177

6-24

長期間更新を止めて申し訳ありませんでした。

まだ読んでくれている方が居るか解りませんが……不定期になりますが更新を再開したいと思います。



「……では、まずウルムの戦況の報告を行います」


 今夜の野営地の中心に設営された大天幕の中に八人程のギルド幹部とギルドマスターであるヨルグそして参謀として俺が席に着いていた。報告を行っているのはギルド幹部の一人で情報部の男……名前は何だったかな?

 ……まあいいか。酉人とりびとの男で目付きが鋭い。酉人の男ってほぼ全員鶏冠が赤いソフモヒみたいだよな……初めて見た時は皆、ヒャッハーな人達かと思ったが……見た目と反して勤勉な者が多いんだよな。


 目に見えて沈んでしまったヨルグを復活させるのに結構苦労したが、今は落ち着きも威厳も取り戻して立派にギルドマスターとして皆の中心に居る。ヨルグは意外とメンタル弱いんだよな……見た目はまだ若いが確かそろそろ百歳ぐらいだし、辰種族特有の威圧感みたいなものがあるので“きつめの美人”で落ち着いた女性に見えるのだが……過去を知っているからなのか時々不安になってしまう。

 焦ったり対処しきれない事があると結構暴走する……落ち込むと復帰に時間かかるし。まあそれも過去の事だし、今の評判を聞く限り大丈夫だろうと思う。立派なギルドマスターだ。


「戦況は膠着状態になっています。出立前に“通信機”にて参謀殿が指示された作戦が功を奏しているようです。突然現れるウルム兵に巳午連合軍は対処が追いつかず、城壁突破どころか都内に雪崩れ込む事も出来ていないようです……」


 俺はゲーレンを発つ前に通信機にてウルムへ一つの策を提案しておいた。その策とは単純な“ゲリラ戦”である。

 卯種族は名前の通りウサギの特性を強く持っている。ウサギは草食であり天敵の多い動物であり、自然界では狩られる側に属している。

 しかしウサギという動物はその大きな耳を見て解るように音による外敵察知に優れた生き物であり、嗅覚も鋭く動きも素早い。ノウサギに至っては時速六十kmから八十kmで駆ける事の出来る種類までいるという。それだけではなく、周囲の風景に溶け込めるように季節によってではあるが体色を変えたりする。ウサギは種を存続させる為に隠れ潜み、逃げ生き延びる事に進化したと言えるだろう。

 それとあまり知られては居ないが、アナウサギと呼ばれる種類のウサギは穴掘りがとても巧く、地中に複雑な巣穴を掘り集団で生活している。暗い巣穴を自由自在に移動して思わぬ所からヒョイと顔を出す。ノウサギとは違う生態を持った種類のウサギだ。

 イデアノテの卯種族は俺がどちらの特性とも指定しなかった為か、どちらの種類の特性も兼ね備えていた。つまり素早く野山を駆け、敵を察知し、穴を掘って身を護り、自然と溶け込み隠れ潜む事が出来る種族なのだ。

 その特性を活かすのは当然の事である。その為の作戦が“ゲリラ戦”であり、卯種族が何代にも渡って彫り続けた巣穴……ウルムに住む卯種族達に“我が家”と呼ばれる巨大地下通路の活用だった。

 アナウサギの巣穴は、ワーレンと呼ばれる複雑なトンネルの集合体だ。いろんな場所に行き来する通路の様な巣穴なのだが、卯種族以外からしたら単なる地下通路を〝我が家”なんて呼ぶことに違和感を感じるだろう。


 実はこの地下通路“我が家”は俺が小説を書いていた時には設定としてちゃんと存在し、その規模は卯種族の領域全土に広がる程の広大さを持っている。その存在は卯種族以外には秘匿とされており、作戦立案時に他種族に知られて居ない筈の“我が家”の事を知っている俺は問い詰められ疑われたが、そんな事を言っている場合ではないと何とか誤魔化した。

 そりゃ卯種族からしたら種族の秘密を洩らした者が一体誰なのか知りたいだろうし、その情報を俺がどうやって入手したのか知りたい事だろう。

 安心しろよ誰も裏切っていないし、誰にも情報を吐かせていない。ただ知っているだけなんだよ。……といってもその事を証明する事も知ってる理由も話せないからなぁ。少し疑心暗鬼になっている卯種族首脳陣には悪いが、以降もどうにか誤魔化すしかないのだろうな。


 それはさて置き、俺が立案した作戦の第一段階は、卯都の王城以外の放棄。これには反対が多かったが、寧ろもう放棄せざる得なかったというのが正解だ。

 巳午連合軍は川を遡り船を使って大戦力で奇襲をかけてきた。俺達が奇襲を知った時点でウルムは包囲され、何とか都内の侵入を防いでいる状態だった。

 都を囲む外周部防御壁は突破され都の出入り口の門を閉ざし戦力を集中して防いでいたのだが如何せん戦力が違いすぎる。その上、卯都ウルムには四つの門がありそれぞれを護る為に戦力を割かなくてはならなかった。

 ウルムの有する全ての兵力と冒険者ギルドの戦力を全て防衛に回しても賄いきる事は不可能だ。


 そこでウルム住民及び商人や旅人等も含め全てを王城と“我が家”に逃がし、全ての門を放棄、戦力を集中して王城に立て篭もる様にさせた……これが第一段階。元々ある程度の備蓄は“我が家”の中にあったようだが、時間はかかっても良いから物資等は運び込ませるようにした。

 卯都王城側は、卯種族以外を“我が家”に入れる事に難色を示したが、ウルム支部のギルドマスターがどうにか説得してくれたようだ。



 そして第二段階は、王城の防衛。折角逃げ込んでも数で押し切られたらそれで終わりだ。

 撤退時に道を塞ぐように建物を壊したり、石畳を破壊して行軍の妨げになるようにさせた。これは後から重要な意味を持つので破壊する建物と封鎖する道は此方で指定した。ウルムの正確な区画区分を把握している事も、卯種族側にさらに余計な疑惑を持たれた気がする。俺が知っているのは王城周辺の旧区画だけだぞ? 話を考える時にウルム王城周辺地図を書いたからそこは覚えている。

 俺達がこの世界に来た影響でゲーレンが繁栄した結果、ウルムも栄え新区画まで拡張されたらしいが……俺はそこまで把握していない。だがそれだけで十分時間は稼げるはずだ。


 王城の防衛は立て篭もる事だけに徹底させるように伝えた。城門を堅く閉じ、土理術で硬化や城壁の強化をして、破壊されればそれ以上の速度で修復だけを行う。城門を開け放ち打って出る必要性は無い。卯種族は風と土の理術に適性を持つ者が多く、時間稼ぎにはもってこいだろう。



 第三段階は、合流と反撃。即ち、俺達との連携による卯都の奪還である。

 現在、大天幕内に作られた会議室ではその事で議論が交わされていた。

 このまま俺達は軍を進め、卯都の戦力も王城から打って出て挟撃という作戦を上げるギルド幹部も居たが、その作戦では既に篭城戦で消耗している卯都側が厳しいだろう。物資も底を尽き掛けていると報告も上がっている。しかも俺達の行軍ルートではどうしても避けられない危険があった。


 一つは、逆に挟撃される危険。辰都ハイルブロンを占領した巳午連合軍は未だに動きが無いと報告が来ている。だが、もしこの巳午連合軍が動いた場合、窮地に立たされるのは間違いない。何せ遮蔽物もほぼ無いように整備された円環街道付近が主戦場になり、そこで前後から理術を打ち込まれるなんて勘弁して欲しい。街道も今後の物流の観点から壊されたくは無いしな。

 もう一つは、ウルムを占領している巳午連合軍の退路を断つ事が難しいという事だ。

 本来ならば無闇矢鱈に敵の退路を断つ事は良くないとされている。何故ならば、追い詰められた者は想定以上の力を発揮し、思わぬ反撃を生むからだ。これは歴史でも証明されているし、人間だけに限った事ではなく生物全てにおいて言える事だ……ほら、窮鼠猫を噛むって言うだろう?

 しかし今回は出来る限り敵を逃したくは無かった。巳午連合軍はこの世界では唯一と言える船団を有している。船に乗って逃げられ、水上で体勢を整え再び襲われる状況になるのは大変好ましくないのである。出来れば船は|鹵獲≪ろかく≫したいし、それが出来なければ全て破壊しておきたい。

 何より俺は早くゲーレンに……千香華の側に帰りたいんだよ。




「ならば……他にどんな作戦があるというのかね?」


 参謀として作戦に対しての意見を聞かれたので最後の部分以外、事細かに説明をしたら強攻策を推していたギルド幹部に睨まれながらそう問われた。

 この人物はきっと長くギルドの幹部をしているのだろう。自信満々に強攻策を推していた所で、突然行軍に加わった参謀に駄目出しをされたら腹が立つのも仕方が無いけど……そんなに睨むなよ。もっと煽りたくなるじゃねぇか。


「うん? 他に? その前に作戦と呼べる意見が出てたか?」


「ぐっ! きさ……」


 悔しそうに歯噛みするギルド幹部だが、それ以上言葉は出てこない。どうやら俺の指摘を受けて自分でも作戦とは呼べないと思ったのだろう。


「……参謀としてなにか作戦はありますか?」


 ヨルグが冷静を装いつつ聞いてくる。別に怒っていないから聞いた後に目線逸らすなよ……。


「そうだな。否定するばかりで代案を出さないのは駄目だよな」


 俺はなるべく優しい笑顔を心がけて自らの作戦を話した。



 ……なんで俺は笑顔なのに皆視線を逸らすんだ? あのギルド幹部なんて少し震えているじゃないか……ヨルグの顔も少し引き攣っている。あれ? おかしいな。表情の造り方でも間違ったのか?



色々とあったのは確かですが、叙事詩世界に行った訳ではありません。

ストックを溜めて毎日更新に戻せるように頑張ります。

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