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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
2章 弱くてニューゲーム?
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2-4


 ゲーレンに着いて最初に思ったのは、中世風の建物に日本語の看板は似合わないという事だ。八百屋とか精肉店とか雑貨屋とかの漢字の看板をみると、日本を勘違いした映画のワンシーンのようで苦笑いしか出てこない。

 八百屋といっても、良く解らない形をした根菜らしき物とか、濃い黄色の葉野菜とか、これは野菜なのか? っていう蔦植物とかが並んでいる。どうせなら食べ物も日本クオリティにしておけば良かったと後悔している。

 精肉店も何か解らない肉がぶら下がっているんだが、紺色の肉とか本当に勘弁してくれ。腐ってんのかと聞きたい。

 雑貨屋は……ちょっと興味ある。俺は用途の解らない謎の小物とか、アンティークっぽい物に燃える性質だったりする。絶対に後でこようと決意しているとプラムが話しかけてきた。


「あの、コートをお返ししたいんですが……一旦家に戻ってもいいですか? その間にサシャとお肉を買い取ってくれる所に先に行って頂けると助かるんですが……」


「ああ、その方がいいだろうな。じゃあまた後でな」


 そう言うと嬉しそうに駆けて行った。というか周りの視線も痛いし早めにコート返してくれると嬉しいのが本音なのだがな。

 町に入ってから好奇や怯え、驚きといった視線もあって落ち着かない。イヌ系の顔で二百三十センチは珍しいというか他に居ないのだろう。しかも上半身が裸でムキムキなのだ目立ってしょうがない。


 サシャの案内の元、オーク肉を買い取ってくれる所に移動した。初めは先程見た精肉店で買い取ってくれるものかと思っていたんだが違うらしい。肉の加工業者みたいなのがちゃんとあって、精肉店に卸されているとのこと。よくよく考えるとそうだよなぁ、あんな町の中で屠殺してたら嫌だもんな。


 というわけで肉加工業者に到着したのだが、中々ショッキングだった。


「おう、用件はなんだ?」


 と出てきたのはでかい石包丁を持って、赤や青や緑の血痕に彩られた前掛けを着けた寅獣人の男だった。

 はっきりいって怖い! 身長は俺には及ばないが二百センチはあるだろう、筋肉質の体に厳つい肉食系の顔をしてこの格好である。夜に出会ったら逃走するレベルだ。

 しかし、サシャは怯えることなく用件を伝えた。これに怯えないんだったらオークに怯える意味が解らん。まあ、危害を加えられないし顔見知りっぽいから怯えるわけも無いな。


「マーロウさん、こんにちわ。今日はオーク肉を買い取って貰いたくてきました」


 ふむ? この寅獣人の名前はマーロウというのか。


「そうか、そっちの兄ちゃんの……」


 マーロウはこっちを見て言葉を止めて、じっと俺の事を見ている。すげぇ怖い! しかしこういうのは目を逸らしたら負けだ。だてに昔から眼つきが悪いだのと言われて、睨まれることが多かったわけじゃない。

 暫くの間、空気が凍りついたようになっていたが、突然マーロウがニヤッと笑いながら言った。俺の笑顔もあんな感じなのか? そりゃ怖がるな、笑顔の練習をしよう。


「いい目だ、いつか手合わせを願いたいな。……おっと、俺は寅獣人のマーロウだ。その三匹分でいいのか?」


「ああ、これの買取を頼む。俺は圭吾という」


「あっ! 俺は千香華、申人だよー。圭吾は戌獣人の親戚みたいなもので、狼獣人なんだよ」


「ほぅ、戌のやつにしてはでかいと思ってたんだ。そういう種族もいるんだな」


 マーロウは俺の差し出した三匹のオークを受け取りながら言った。

 おーい? この世界の奴らあっさり信じすぎじゃないか? 納得したと言わんばかりに何度も頷いているが、少しは疑われると思ったんだけどなぁ。


「一匹一万四千エンだが、三匹で四万五千エンで買い取ってやる。これでいいか?」


 先にサシャに聞いていた相場より少し高めで買い取ってくれているようだ。血抜きもしてないからもっと足元見られると思っていたんだが、マーロウいい奴なのか? 二人がグルで騙しているってことが無ければだが……こういう考え方してしまう自分が嫌になるな。


「ああ、それでいい。ありがとう」


「毎度あり、また何か肉を狩ったら持ってきてくれ、この辺の物なら大体は買い取ってやれるぞ」


 マーロウは黒貨を四十五枚、渡しながら言った。あっ! 財布ねぇぞ? どうするかな。と考えていたら、察したのかマーロウは小さな革の袋を取り出して「サービスだ」と此方に放ってくれた。「ありがたく使わせてもらう」と返し受け取った。


「すみません! 遅くなりました!」


 取引が丁度終わった時にドアを開けてプラムが飛び込んできた。手には俺のコート、服は着替えたようだ。


「あの……ケイゴさん。コートありがとうございました」


「ああ、気にしなくていい」


 受け取ったコートは引き摺られていたのに、ほつれも汚れも埃すらも付いていなかった。流石セトが創ったものだな……不思議機能だ。プラムも少し不思議そうにしていたが、俺がコートを着たときに少し残念そうな顔をしたのは気のせいって事でいいだろうか?



 マーロウの店を出た。帰り際に「手合わせの件、考えていてくれ」と言われたが曖昧に返事を返しておいた。

 次に探すべきなのは宿なのだが、それはあっさり解決した。実はサシャが宿屋の娘だったらしい。それは幸いと宿を決める事にした。


 今、サシャの家……宿屋の前に来ているのだが、俺と千香華は苦笑いを抑えるのが大変だった。その理由は看板にあった。看板には『宿屋 戌小屋』と書いてある。しかもその隣は『御食事所 卯小屋』だ。

 理解に苦しむネーミングセンスだが、これはツッコんでいいのだろうか? いや、やめておこう……これで普通なのかもしれない。

 隣の食事所の名前が気になったがやはりプラムの家らしい。提携しているようで、朝飯は宿代に含まれているとのこと。


 宿の中に入ると戌人の男女が一組と卯獣人の男女が一組居た。もしやと思ったら、やはり二人の両親だった。


「この度は娘達を助けていただいて、感謝いたします」


 丁寧に四人に頭を下げられた。来る事が解っていたようだし、先にプラムが言っていたんだろうと思う。てことは客として宿に連れて来る事も予定されていたってことか? 以外にしっかりしてるなぁ。まあ、此方としても助かるからいいがな。


 客商売しているだけあって、此方を見て驚いたり怯える素振りは見せないのは流石だと思う。取り合えず名乗っておく事と、宿を此処にするということを伝えておくか。


「こいつは申人の千香華で、俺は狼獣人の圭吾だ。此処で宿を取りたいのだがいいだろうか?」


 サシャの父親はギョッとした表情をしてすぐさま笑顔に戻りこう言ってきた。


「またまたご冗談を……申人は銀色の髪をしたものは居ませんし、狼獣人という種族は居ませんよ?」


 訝しげな表情に変わるサシャの父親。あんれぇ? すげぇ疑われてるぞ? 皆信じ易いって訳じゃ無いんだな。さてどうするかな……微妙な空気になっちまったぞ。

 そんな空気の中、千香華が突然割り込んできた。


「え? 俺はちゃんと申人だし、圭吾は狼獣人だよー。戌獣人の親戚みたいな種族であまり多くないから知らなかったんだねー」


 本当に悪びれないなぁ。さも当たり前のように言う千香華の度胸は驚嘆に値するわ。


「おお! なるほど。世界は広いですなぁ……ケイゴさん、チカゲさん、知らなかったとはいえ疑うような素振りをして申し訳ありません。お詫びとして宿代を少しお安く致します。許して頂けますでしょうか?」


 ええっ? 信じるの? 何なんだ一体……俺の言う事は信じられなくて、千香華の言う事はあっさり信じるとか……ん? これはなんかあるな? と千香華の方を見ると、目配せをされた。後で問い詰める事を心に誓い、サシャの父親の謝罪に「気にするな」と答えた。


 宿代は二人で一泊五千エン。安い! びっくりだ。これに朝飯がつくのか? 相場がわからんが、先程、金を手に入れたし三日分先に支払って、部屋に案内された。


 部屋は可もなく不可もなくといったところだったが、俺並に大きい体の種族も居るはずだからか、ベットはかなり大きめで俺でも問題なく眠れるサイズだった。

 二人部屋なのでそれが二つそれにクローゼットと小さな机が一つに椅子が二脚、特に文句も無い。

 本当は町並みももう少し見たいのだが、思った以上に疲れていたようなので、部屋で少しゆっくりする事にした。



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