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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
6章 イデアノテ
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6-20



「ああ、そうだ! 千香華に聞く事があったんだ」


「んー? なになにー?」


 隊長室でいちゃつくのは駄目だろうという事もあり、唐突に俺は話題を変える事にした。千香華は少し不満そうな顔をしたが、すぐに聞く体制に入る。


「千香華は、午王と巳王そして辰王に会った事があるんだよな? どんな奴等なんだ?」


 俺は各種族の王に、全くと言って良いほど面識が無い。元王ならマーロウとアドルフという、強烈なのを二人も知っているがな。

 今から戦う相手として午と巳。マルセルの話で辰……それぞれの王の事を知っておくべきだと思ったのだ。


「んー。もう何十年も前だから現役かどうか知らないけど……午王は胡散臭い調子の良い宗教家みたいな午獣人。巳王は……金にガメツイ感じのいけ好かない巳人……表情筋が無いんじゃないかな? 無表情で金の話ばかりしてくるのー」


 千香華は思い出しながら午王と巳王の事を語るが、その評価からするとあまり好きじゃないみたいだな……。


「辰王は……臆病者のヘタレだね! 偉そうにギャアギャア喚いて五月蝿い。その癖、常に怯えている……小物だよ。確か辰人だったと思うけど、よくアレでアドルフから王権を奪えたもんだね……自分よりも強い者が近くにいる事を恐れているみたいだったよ。辰都のギルドマスターをアドルフにしようとしたら、全力で阻止しようとしてきたし……アドルフは『辰王の地位にもう興味は無い』って言ってたのにねー」


 ギルドとしては、強い魔物の生息する辰都のギルドマスターには強い者が良いと考えたらしい。

 アドルフ本人も追われたとは言え、自らの故郷を護る事が出来るのならと過去の因縁を水に流し、辰都支部ギルドマスターになる事に異存は無かったようなのだが……辰王はそれを認めなかった。

 それどころかアドルフが辰の両隣の卯と巳の領域でギルドマスターをする事を認めないとまで言って来た。ギルド側はそれに従う義務は無いが、アドルフは『ワシは何処でも構わぬよ』と言って、自ら退いてしまったようだ。


「……って言っても今じゃアドルフは、湯幻郷から離れたがらないだろうし『あそこで断られて良かったわい! 辰都におったらこんなに羽根を伸ばせないしの』なんて言ってるぐらいだからねー。でも、あの時のアドルフの悲しそうな顔を思い出すと……あの愚王め! ってなるんだよね」


 どうやら千香華は、辰王の事が一番気に入らないようだ……話している間にも額に青筋が浮かんでいるように思えた。


 千香華とマルセルの話を聞く限り、辰王は怖かったんだろうな……アドルフを追い落としたが、それは強さを見せた訳ではなく、罠に嵌めてその地位を掠め取ったに過ぎない。その事は自らが一番良く解っていたのだろう。

 アドルフの影に怯え、いつ他の強い者に追い落とされるか解らない。怯え、恐れ、その挙句に自らを護る強き者を排除して……そこを突かれて敗北した。

 戦争を知っている者が午と巳に着いているのなら、反逆の旗印になる王を生かしてはいないだろう。別の種族が統治するのには、辰王は邪魔な存在にしかならないのだから……。


「そうか……起こるべくして起こった戦争とも言えるかもしれないな……自分達の思想を押し付ける為、自らの利益の為、利害の一致する者同士が手を組み戦争を起す……良くある話だ。戦争を知る者の考えではな……ん? 誰か来るぞ?」


 話の最中に俺の鼻は、この部屋に走って接近する者の匂いを捕らえた。この匂いは……誰だ?

 隊長室の扉がノックされる事も無く開かれる。慌てて入って来た男は息切れを起しているが、千香華は容赦なく叱責の声を上げた。


「上官の部屋に許可無く入るな! 場合によっては首と胴体がおさらばする事になるぞ!」


 お前が言うな……という言葉を飲み込み、その男を見る。卯人の男で軽装な所を見ると、理術師かスカウト系かな? 体力が低そうだから理術師だと思う。確かこいつは……千香華の隊の小隊長だったか?


「ハァハァ……。すみません……緊急事態だったもので……」


「口答えするな! それに返事はどうした!」


「イエス! マム!」


「よろしい! 続けたまえ!」


 千香華はノリノリである……何時の間にこんなの仕込んだんだよ。


「大隊指揮官殿及び副指揮官殿にヨルグ様より伝令です! すぐにギルド会議室に来られたし! 敵軍に動きがあったとの事です!」


 とうとう来たか……何処に進軍して来たのだろうか?


「馬鹿者! それをさっさと言え! ケイ! 急いで行くよ!」


 再び千香華に叱責を受ける名も知らぬ小隊長は、ビクリと肩を跳ね上げ怯えている。理不尽だ……可哀想な名も知らぬ小隊長の肩を数回叩いてやり落ち着かせてから、先に走り出した千香華を追って俺も会議室に向った。





 会議室に駆けつけると部屋の中は慌しかった。部屋から駆け出して行く者や部下に指示の声を張り上げている者など、ギルド本部の幹部連中が必死の形相をしている。それだけで、ただ事では無いのが理解できた。

 先に来ている筈の千香華を探すと、奥の椅子に座っているヨルグとなにやら話しているようだった。


「どういう状況だ?」


 二人の下に辿り着くと同時に状況を尋ねる。


「ケイさん! チカゲさんにも今話していたのですが、遂に動きがありました……卯都ウルムから援軍要請です。敵は川を遡って攻めて来たと言っていました……」


「船……か? 規模は? 形状は?」


「……フネ? 水の上に浮いて進んでくる箱と報告には有りましたが……フネというのですか? 規模といいますか……一つで数百人は運べるようです。形状は解りません……何せ皆、初めて見る物ですから……ただ白い布を張っていたとか、蟲の様に横から肢が出ていたとか……」


「帆船に漕ぎ手付きかよ……一朝一夕の物じゃねぇな。確実にこの世界の技術じゃない……」


 この世界イデアノテに船は無い。海があり川がある世界に船が存在しないというのは、少しおかしく感じるだろうが、全ての大地が地続きであり必要に駆られる事すらなかったのだろう。『川を渡りたければ泳ぐか橋を架ければいいじゃない』『海? 渡る必要があるのか?』といった具合だろう。

 実際に水場を渡る時は、丸太を抱えるか木切れを使っている所を見た事がある。つまりこの世界に造船技術など皆無であり、明らかに外部の者の手引きがあると言う事に他ならない。


「くっはははははっ! なるほどな……何処の誰だか知らないけれどこの世界(俺達)に喧嘩を売っているわけだ……ならば遠慮は要らないな! 組みした午と巳には悪いが容赦無く暴れてやる! 救援にいくんだろう? 何時だ? 今から行くのか?」


 思わず笑いが込み上げる。長い事悩んでいた事が、こんなにあっさりと晴れるとは……まったく俺も単純なものだ。だがこれで“この世界の人の営みに極力干渉しない”という俺の考えにも反しない。まあ、俺が勝手に思っているだけだから、それに反しようが誰にも咎められる事は無いのだが……。


「ケイが殺る気だ! 珍しい!」


 千香華が驚いた声でそう言ったが、やるのニュアンスが少し間違っている気がするのは気のせいか?


「……えっと、大変申し上げ難いのですが」


 ヨルグはバツの悪そうな顔をしている。


「もしかして、救援は俺達の隊だけで行けとそういうことか? 寧ろそれでも構わん。大軍で移動するよりも速いだろうからな」


「いえ、それはありません。こういう場合、ギルドマスターが自ら軍を率いて救援に向かう事に意味がありますので……」


 じゃあ……なんだ? 先行部隊として動くのか? でもそれではヨルグが言いにくそうにしている理由が説明できない。


「……ケイさんとチカゲさんの部隊には、ゲーレンを護って欲しいのです」


 え? ……まじか? 我が黒銀大隊が居残り組みだというのか……。




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