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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
6章 イデアノテ
165/177

6-16



 ヨルグから渡された委任状を携えて会議室を出ると、千香華がニマニマと笑いながら階段を降りて来た所だった。


「たいちょー! 今から部下にご対面ですかー? 副隊長としてはご一緒しないといけませんねー」


 顔がニヤけていてとてもうざい! いや、後押しをしてくれた事は感謝しているが、俺が隊長とかそういうのをやりたがらないって知っていて、面白がっているように思えてくる。


「はぁ、いきなり現れた奴に従うわけが無いだろうに……まずは信用を得る所から始めないといけないとか、面倒臭い事この上ない。責任取ってどうにかしろよ?」


 溜息を吐きつつ千香華にそう言うと、千香華は敬礼して俺に告げる。


「イエス! サー! 隊長殿の手を煩わせる事無く、ガツンとかましてやりますよー!」


「いや……冗談だ。なんか嫌な予感がするから何もするな……頼むから!」


 千香華の笑顔が何故だか恐ろしいものに見えて、何もしないでくれと頼むと千香華は不満そうな顔をして「絶対服従させる自信があるのになー」と物騒な事を言っている。

 恐怖に支配された冒険者達の顔が目に浮かぶ……再び頼むからやめてあげてくれと頼むと千香華は渋々頷いた。


「そういえば、何処に行っていたんだ?」


 千香華がまだ何かブツブツ言っていたので話題を変える為、会議の最中に何処に行っていたのか千香華に聞くことにした。


「んー? さっき? 高い所に行ってたー」


「高い所?」


 千香華は上を指差しながら答えるが、俺は意味が解らず聞き返した。


「そそー。高い所の方が電波が遠くまで届きそうじゃん?」


「……? 電波でも受信したか?」


「うん! ばっちり受信も送信もしたよー」


 良く解らん! どっから電波が飛んでくるんだよ? 宇宙と交信でもしたか? まあ、千香華の機嫌は何故か治ったし、上手く話を逸らせたから良しとしておこう。





 俺が隊長に任命された部隊……正式な名称は“冒険者独立混成部隊”というようだ。

 冒険者発祥の町ゲーレンでは、町を護る常備軍さえも冒険者出身だったり、冒険者と兼任している。その数は約二万、都以外の他の町では考えられない数である。

 冒険者独立混成部隊は、ゲーレン本部で冒険者になり常駐している冒険者ではなく、余所の冒険者ギルド支部出身者や偶々ゲーレンへ訪れていた者、辰都陥落の知らせを聞いてゲーレンに集まって来た志願兵ともいえる者達を集めた部隊で、指揮権を冒険者ギルド本部から独立させた部隊らしい……いわば傭兵部隊のようなものと考えて良いだろう。


 目の前には千五百人程の装備に統一性など皆無の、多種族混成集団が整列もせずに集まっている。ヨルグに任命された翌日に混成部隊に所属する者達を一箇所に集めてもらったのだが、まあ……こんなもんだろうな。

 一番多いのは辰種族で次が寅種族、一番少ないのは当然午種族と巳種族だ。午と巳は居る事自体に少し驚いたが、各都出身では無く別の種族の領域で生まれ育ち、仲間と一緒に冒険をしている者達らしい。辰と寅が多いのは、隣の領域という事もあるのだが、交易の護衛関係で辰都からゲーレンに来ていて難を逃れた者が多く居たとの事だ。辰種族の者達は、すぐに取って返し辰都を取り戻すと息巻いていたが、そんな事をしても『ただの無駄死にとなる』とヨルグが直接話をして何とか落ち着かせたらしい。どういう話をしたのかは解らないが、ヨルグ自身もも辰種族であり、本部ギルドマスターとして辰種族の冒険者では尊敬を集めていたので、説得できたのだろうと推測する。

 辰種族の心情を思うと悪いと思うが、ヨルグは良くやってくれたと思う。他の種族には表立って言えないが、アドルフは別格としても辰種族の戦闘力は、十二種族中では抜きん出て高い。これからの事を考えると、頼もしい戦力だ。



 ザワザワと騒がしい……俺が千香華を伴って冒険者達が集まる場所に来ると、様々な反応が見られた。ある者は仲間と思われる者に何かを耳打ちして、ある者は探るような視線を向けてきて、ある者は剣呑な雰囲気で此方を睨みつけている。一人一人はあまり大きな声で話して無いが、千五百人も居るとそれは喧騒となる。


「はーい。皆静かにしてねー。今から隊長殿がお話をしますからー……」


 千香華がそう告げるが、冒険者達は静かになる事は無く、それどころか千香華を見て口笛を吹く者やニヤニヤと笑う者も居た。

 千香華は困った顔をしたが、それは一瞬の事だった。ニヤっと口の端を曲げて笑うと大きく息を吸い込み、風理術に声を乗せて言い放った。


『黙れ! 人の話を黙って聞けない奴は……首を捻じ切るぞ!』


 見た目は美しい女性であるのに、容姿にそぐわぬドスが聞いた声を響かせた千香華は、それを聞いた冒険者達が黙りこくるのを見て満足そうに頷いた。

 千香華は俺の方を見て小声で「こういうのは最初が肝心なんだよー」と言って微笑んだ後、俺に向って大仰に頭を下げる。


「どうぞお話ください」


 それだけ言うと俺の後ろに下がってしまった。

 うわぁ……凄く話し難い。怯えや困惑が見て取れる冒険者達の視線は、千香華が下がった事によって全部俺に向いている。これは何かを言わないといけないよな……俺は意を決して話す事にした。


「俺は五段冒険者の……ケイだ。お前達が所属する冒険者独立混成部隊の隊長に任命された。こっちは同じく五段冒険者のチカゲ。同部隊の副隊長に任命されている。今日集まって貰ったのは……」


「ちょいと待ってくれよ! アタシ等も命を懸けるんだ。いきなり現れたアンタの命令を聞けって言われても、はいそうですかって訳には行かないよ!」


 俺の言葉を遮って声を上げたのは、丑人の女で身長は二メートルを超えている。身体は引き締まっており、丑種族の女性に多く見られる特徴なのだが……ある一部の自己主張が激しい。何処の蛮族の女戦士だ? といった格好をしているのだが、その鍛え上げられた筋肉のお陰でエロいでは無く強そうに見える。お顔もそれなりに整っているが気が強そうだ……“姐御”とか呼ばれてそう。


「姐御の言うとおりだ! 五段ってのもホントかわかんねぇぜ!」


 本当に姐御と呼ばれてたよ……誰が言ったか解らないが、多分丑人の女の仲間だろうと思う。周りの冒険者も同意を始め、再び騒がしくなってきた……がすぐに静かになった。

 千香華が凄い形相で睨み付けたからみたいだ。千香華が何か言おうとしたが、それを手で制して丑人の女に問い掛ける。


「名前は? 言いたい事があったらまず名乗れ」


 千香華の放つ剣呑な雰囲気に一度は呑まれた丑人の女だったが、気を取り直し此方を睨みつけるようにして言った。


「アタシは四段冒険者のリベカ。冒険者集団【紅丑】のリーダーをしている! 百人からなる冒険者を率いている……それなりに場数は踏んでいるよ」


 紅丑べにうし? 寒紅の事か? ああ、あれは丑紅うしべにか……。どうでもいい事だがな。


「じゃあ聞くがリベカ……お前等はどうやったら俺達を認める? お前等よりも俺達が強いと見せ付ければいいのか? 本当にお前の首を捻じ切ったら納得するのか? くっだらねぇ! 今は一人でも戦力の欲しい時だ。くだらねぇ真似をさせようとするんじゃねぇよ! お前等は何故此処に居るか解ってるのか? 自分の方が隊長に向いてるとか自分の方が強いとか、そんな事くだらねぇ事を競う為に集まっている訳じゃねぇよな?」


 俺がそう言い放つと、リベカは何も言えなくなり黙ってしまう。そんな事は戦争が終結した後に、勝手にやってくれ……くだらない事で時間を無駄にしたくねぇんだよ。


「その二人が五段冒険者って事は本当ですよ……」


 いきなり思いもよらない所から声が掛かった。声のした方を見ると、そこには何処かで見た事のある亥人の男が腕組みをして立っていた。


「久しぶりですね……あの時は本当にすみませんでした」


 亥人の男はそう言って頭を下げてくる……えっと、誰だっけ? 何処かで見た事はある気はするんだけどなぁ。




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