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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
6章 イデアノテ
162/177

6-13



 俺と千香華は久しぶりに二人だけの旅を満喫しながら、俺にしては遅い速度でゲーレンを目指した。イデアノテの外側を通りだいぶ遠回りしての移動にしたのは、内側を通ると人目に付き易いという事と、外側の方が今現在では魔物が少なくて走り易いという理由だった。


 約七日かけてゲーレン近郊まで来た俺達は、徒歩でゲーレンの町を目指していた。


「魔物少なくなったねー。豚だけは変わらず多いけど……」


 途中で襲ってきたオークの首を風理術で刎ねて千香華は言った。


「そうだな。オークも戦えない者からしたら十分危険だが、こいつ等が居なくなると冒険者も料理人も商売上がったりになるからな……仕方が無いんじゃないか?」


 千香華が殺したオークをロリスに渡しながら俺は答えた。ロリスはそれを受け取ってお腹の袋に収納しながら「きゅっ!」と鳴き同意を示す。ロリスはしょうが焼きをいたく気に入っているからな……。


「昔はこんなの食えない! って思ってたけど慣れって怖いねぇ……魔都の魔物達とも過ごして、こいつ等にも罪悪感が湧くかなって思ったけど……」


「罪悪感? なにそれ美味しいの? ってか?」


 俺が茶化すように言うと千香華は、頬を膨らませて抗議の目を向ける。


「前から思っていたんだけど……ケイは私を何だと思っているの? 私だって好き好んで……あっ! 豚肉はっけーん! とりゃぁ!」


 おい! いま豚肉って言ったよな? 聞き違いじゃねぇよな?

 オークを両断してにこやかに笑う千香華は「皆にお土産ができたねー」と言っている。俺はそれに苦笑で返すが、千香華は全く気にしていない。


 いや、本当は千香華も思うところはあると俺は思っている。ただ俺と違う所は、自らの中で優先順位を付けそれに従っているという事だ。ふざけて見えるのも俺に対する気遣いだ。俺が考え込み過ぎないようにしているのだと解っている。もし俺だけこの世界に来ていたらどうなっていたんだろうな。


 最近になって俺は迷っていた。魔物達と過ごすうちに、魔物達も生きているのだと……この世界の住人なのだと再認識してしまった。

 初めは人族に協力して魔物を殺し、次は魔物側で恭順した者達を優遇してそれ以外は敵対者として殺す。

 もし人側が魔王城に攻める事があったとしたら、俺はどうするんだろう……。魔物を護る為に人族を殺す? 人族に協力して魔物を殺す?


 数多の神話の神々は、俺のように迷ったのだろうか? 世界を創った神にとって、どちらも我が子である事には変わりない。狂った神々も迷った挙句にそうなったのだろうか? 片方の勢力に肩入れした神々は、どうやって味方する勢力を決めたのだろうか? 世界に無関心な神々は、その世界に生きる者に委ねる事をどうやって割り切ったんだろう……。



「早く行こうよー。お腹空いたよー?」


 先に歩いている千香華が振り返り、お腹を押さえて「ひもじいよー」と言いたげな顔をしている。そんな事があるわけ無い。神になってから空腹とは無縁のはずだからな。

 千香華はトコトコと小走りで俺の所まで駆け寄ってきて、腕にしがみ付き横を歩く。


「ケイが間違ったら私がフォローする。私が間違ったらケイがフォローしてね? 間違わない者はいないよ……人でも神でもね? 行き当たりばったりって私達らしいじゃない。今までも何とかなったから、これからも何とかなるよ! ケイには私が、私にはケイが居るから大丈夫! ……でしょ?」


 千香華は俺の心を読めるのか? セトの所で初め心を読まれたが、あれは“あの場所がそういう様に創られていた”と後で聞いた。それに神同士では、一方的に心の中を読む事は出来ないらしい。双方向で同意がある時のみ、このセトに貰った腕輪を使った時と同じだったはずだ。

 俺が不思議に思って顔を見ると、千香華はニカッと笑い「何年一緒に居ると思ってるのさー」と言って俺の腕を引っ張って先を急がせようとする。

 まったく……何年経っても俺はこいつには敵わないんだろうなぁ。


「解ったよ……ゲーレンに着いたら“卯小屋”で飯にしよう!」


「やったー! 今夜はご馳走だねっ!」


 千香華は何処かで聞いた事がある台詞を言って、俺の腕を引っ張って歩き出した。


 千香華と並んで歩きながら周囲を良く見ると、そこは見覚えがある場所だった。初めてゲーレンに来た時に通った場所だ。あの時は此処であの女の子にきつい言い方をしてしまったな……。その後あの子には「ばかぁー!」と捨て台詞を吐かれ逃げられたんだった。

 俺と千香華は知らなかったとはいえ……知らなかったのも酷いのだが、あの子に名前や親は? と聞いたんだよな……今思うと本当に可哀想な事をしたもんだ。名前も付けてやっていない親は俺達なのにな……。

 未だに行方は解らなが、この世界の神である女の子に再び会った時は、名前を付けてあげよう。いや、もう考えてはあるんだ……単純ではあるが千香華と二人で考えた名前だ。気に入ってくれると良いんだがな……。





 ゲーレンに到着して、宣言通り【御食事所 卯小屋】で食事をしたあと、冒険者ギルド本部に来ていた。

 数年前に来た時と違い、あっさりとヨルグの所まで案内されたのだが、部屋へ向う途中で、姿を隠して俺達を監視する者達の匂いがある事に気付いた。

 部屋の前まで来た所で、千香華に視線を向けると千香華もそいつらの存在に気付いていたのだろう。ニヤニヤしながらコクンと頷いた。


「出て来い! バレバレだぞ?」


 しかし反応は無い。……三人か。動揺している事まで匂いで解る。


「出て来ないと……こっちからいっちゃうぞー。うひひひひー」


 俺は匂いで解るが、千香華はどうやって気付いたんだろうか? この反応を見ると確実に何が隠れているか解っているよな?


「そこまでにゃ! お前達出てくるにゃ!」


 ヨルグの待っている部屋の中から、出て来て隠れていた者達に声を掛けたのは……。


「ニャ助ちゃんー! 相変わらず可愛いねぇ! 頬擦りしちゃうぞー」


 御庭番衆の頭となったニャ助だった。ニャ助は逃げようとしたが、一瞬で千香華に捕獲されて抱き締められていた。どんな早業だ? 俺の方が扉に近かったはずなのに……。

 ニャ助の呼びかけで姿を現したのは、三人の猫種族、一人は猫獣人の女で二人は猫人の男女だった。三人は「頭があっさり捕まるにゃんて!」と驚いている。どうやら全員ニャ助の部下のようだな。


「お前達早く逃げるにゃ! この女は……チカゲは危険な女にゃ!」


 だが時は既に遅し……猫獣人の女はいつの間にか千香華の手の中に居た。


「にゃんだと! このアタシがいつの間にか捕まっているだにゃんて! しかも何だか心地良いのにゃ……ゴロゴロ」


「にゃ! そいつを離すにゃ! ……駄目にゃ、我輩も意識が……」


「頭達を離すにゃー!」


 ……うん。そろそろ止めようかな? 猫人には流石に被害が無いと思うが……本気で怯えていて可哀想だ。




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