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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
6章 イデアノテ
159/177

6-10


 グンドルフの頭が壁を貫通した音で、他の魔物達も集まって来た。会議に参加していた面々も怯えた目付きで此方を見ている。殆どの奴等が遠巻きに眺めるだけで近付いてこない。こういう時は人も魔物も反応は同じなんだな、と益体もない事を考える。


 チラリと千香華を見やると、グンドルフが貫通している壁を奴の頭ごと水理術で凍結させて「ケイー。壁壊しちゃ駄目だよー。氷だからすぐに修復できるけどね!」と満面の笑みで言っている。

 なるほど……こんなのには近付きたくないよな……。というか死ぬだろ! 慌てて【看破】でグンドルフを見ると【気絶】となっているだけで命には別状が無いようだった。

 良く見ると頭は凍結させず、首の周りギリギリに氷を形成させているようだし、首が絞まらないように台座もあてがっているようだった。……まるでギロチンにかけられる罪人のようにも見える。目を覚まして暴れられると困るし仕方が無いか?

 【看破】を使ってグンドルフの能力を見た時に気付いたのだが、グンドルフの種族名がエンシェントオーガプリンスからエンシェントオーガに変わっていた。キング以外に挑んで敗北するとプリンスの資格を失うといった所か? もし本当にそうだった場合こいつも少しはましになるのかもしれないが、流石に魔王城内でのこの騒ぎでは解任するしかあるまい。

 図らずも見せしめとなってしまったようだった。


「これは……一体何事なのにゃ?」


 そう言いながら近付いて来たのはレーヴェンだった。彼は魔王城内の警備担当でもあるので、聞かずには居られなかったのだろう。


「いや、会議室を出たら突然襲い掛かられてな……咄嗟に反撃をしてしまった」


「それは仕方が無い事ですね。正当防衛といったところでしょう……魔王様も目撃していましたので、まず間違いありません」


 俺がレーヴェンからの問いに答えると、ヤーマッカが間髪入れずフォローしてくれた。冷静に見えてもヤーマッカも腹に据えかねていたようだ。ここぞとばかりに証言の裏付としてサナトまで巻き込んでいた。


「それは真実まことにございますかにゃ?」


 レーヴェンはサナトに確認をとり、サナトは「間違いない」と短く答える。その態度は冷静で魔王然とした態度に見えるが、たまに俺の方をチラチラと見て来る。自分の配下が俺に襲い掛かったって事で気にしているんだろうが、別に怒っちゃいないよ……そんな心配そうな顔をするんじゃない。


 サナトは、グンドルフの巨体を見上げ溜息を吐くと、レーヴェンに命令を下した。


「グンドルフを牢に放り込んでおけ」


「畏まりましたにゃ……しかし、どうしましょうかにゃ? 壁に埋まったままでは、どうしようもありませんにゃ」


 グンドルフは完全に壁に埋め込まれたような形で会議室側に顔を出している。連行しようにも動かせないだろう。会議室側から見ると頭部剥製のようにみえる……悪趣味だな。


 千香華に視線を向けて促すと、千香華は少しだけ不服そうな顔をした。


「折角整えたのになぁ……でも景観を崩すから要らないかなー……うりゃ!」


 千香華が何度か壁に向って手を振ると、グンドルフの周りだけ綺麗にカットされ、首と手が繋がった状態の枷になった。


「連れて行け」


 サナトの命令でグンドルフはレーヴェンに引き摺られて連れて行かれた。

 それを見ていた千香華は「あっ! でも屋根にだったら鬼瓦みたいで丁度いいかもねー」と呟いていた。本気か冗談か解らない……。




 騒ぎは収まり、俺達四人は人払いをして再び会議室に戻っていた。千香華の技能で認識の阻害をしてあるし、やっと好きに喋れる……正直、堅苦しい喋り方は苦手なんだよな。


「父上! 本当に申し訳ありませんでした! 配下を抑えきれないのは、私の不徳の致す所です……望むのであれば、即刻首を刎ねて鬼瓦とやらにして飾りますが……」


「え? そんなのいらねぇよ……千香華の言った事を真に受けるな。別に気にしてねぇからな」


「そうそうー。あんなのにケイをどうこう出来るわけ無いんだから、気にしちゃだめだよー?」


 ……流石に俺でもあれをモロに喰らえば痛いじゃ済まないと思うぞ? まあ、不意打ちになっていない奇襲なんて当たる訳が無いんだけど。


「しかし多少のトラブルが有ったとはいえ、概ね予定通りに事は進んだのではないですか?」


「ヤーマッカさん……父上と母上のお手を煩わせた時点で“予定通り”では無いのですが……」


「ほっほっほ……『使える者は誰でも使え』ですよ。ケイゴ様がおっしゃっていたではありませんか。主人に使われるだけが執事ではございません。主人に気持ち良く働いて頂くのも、執事の務めでございますれば……おっとサナト坊ちゃまは執事ではございませんね。ご両親に甘えられるうちは甘えておくと良いのですよ」


 上手い事言うなぁ……サナトは基本的には完璧主義だ。俺達に頼るのを良しとしないのをヤーマッカが上手く言ったのだろう。俺達もサナトが魔王になってから、サナトの意思に任せて積極的に力を貸そうとはしていなかった。今回のように頼られれば、結局手助けするのだけどな。

 ヤーマッカは暗にサナトを庇っている『今回は私の責任ですよ。あなたはまだ甘えて良いのです』って所だろう。サナトもその辺は多分理解していることだろう。


「まあ、その辺の事はもういいよ。それよりも、候補者のリストって本当にあるのか? あるのなら見せてくれ」


 何時までも引き摺っても仕方ないしな。それよりもグンドルフの代わりの方が重要だ。

 ヤーマッカは手に持っていた書類の束を「これにございます」と言って渡してくれた。


「ふむ……お? ヴァレンスも候補者か?」


 何枚か紙を捲ると、見知った顔があった。


「へぇ、グンドルフの甥なんだー……全然似てないね!」


 千香華は俺の持つ資料を横から眺め率直な感想を述べる。

 ん? そうか? 似てるんじゃねぇのか? オーガの顔なんて……特に両方ともエンシェントオーガだからあまり解らないが……ああ! 見た目じゃなくて中身の事か! ヴァレンスは千香華のところから石材を持ってくるから顔見知りだもんな……確かに全然似てねぇわ。


「お知り合いですか?」


 サナトが不思議そうな顔をして俺に聞いてくる。


「お前も会議の前に会っている」


 サナトは首を捻って考え、自分の失言で俺がサナトの父だとバレた事を思い出したらしく、少し居心地が悪そうな表情をする。


「あの時の……良い面構えをした若者ですか?」


「そうそう! 素直で良い子だよー。力も強いし頭の回転も速いしー」


 若者って、良い子って……よく若いって解ったなぁ。俺はずっと“おっさん”と呼んでいたのに……。


「なるほど……血筋も悪くないですし、顔見知りならば問題なさそうですね。ではグンドルフの後釜はヴァレンスという事にしましょう」


「はっ! 早速手配致します」




 ヤーマッカが部屋から出て行って、三十分ぐらいだろうか……ヤーマッカの匂いとヴァレンスの匂いが近付いてくる。相変わらず仕事が早いな……流石ヤーマッカだ。


 ノックの音が聴こえ、入室の許可をサナトが出すと会議室の扉が開かれた。


「失礼致します。ヴァレンス殿をお連れしました」


「随分早かったな……構わぬ、入るが良い」


 サナトもヤーマッカもヴァレンスが居るので、普段の話し方では無い。……ヤーマッカは普段からあんな感じだっけ?


 入室してきたヴァレンスは、とんでもなく緊張している様に見えた。というか怯えている? 赤銅色の顔が少し青ざめている様に感じる。


 二人が会議室に入り、ヤーマッカが扉を閉めると同時にヴァレンスはその場で大きな身体を縮み込ませて土下座して頭を下げた。


「申し訳ありませんでした!」


 その大音量の声に、俺達は言葉を一瞬失った。

 ……もしかして何か勘違いしている? ヤーマッカは一体なんて言って連れて来たのだろうか?




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