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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
6章 イデアノテ
153/177

6-4

本日は少し短いです。



 俺と千香華が席に着いた途端に円卓の端に座る魔物達の視線が強まった気がした。六匹の魔物は、ヴァンパイア・オーガ・アルケニー・レオヘッド・カマイタチ・マーダーの各種族の代表者なのだが、全員が睨むような目付きではないようだ。

 レオヘッドの男はチラリと此方をみただけだったし、カマイタチの男は目を見開いて驚いた表情をしただけ、マーダーの女は我関せずというか興味すら示していない。

 睨み付けているのはヴァンパイアの女とオーガの男とアルケニーの女だな。アルケニーの女は俺というよりも千香華に突き刺さるような視線を向けている。逆にオーガの男は俺に視線が向いているようだ。


「ぶ、無礼だぞ!」


 視線を受け流す俺達に、堪らずオーガの男が怒声を上げる。俺達は二人して「はぁ?」というような表情をわざと作る。


「遅れて来て魔王様の手を煩わせただけではなく、恥知らずにも隣に腰掛けるとは無礼千万と言っておるのじゃ!」


 ヴァンパイアの女もそれに続き非難の声を上げた。


「前半はまだしも後半は納得出来んな」


 俺が両掌を上に向け、首を竦めながら言うとヴァンパイアの女とオーガの男は、更に声を荒げ非難の声を上げる。


「言葉が理解出来ないのかのぅ? 汚らわしい人族に近い姿をして恥ずかしく無いのだから、頭の程度が知れるのじゃ」


「そんな事も解らんとは! 所詮は名も知らぬ種族の下等魔物か……その細首を千切りとられたく無ければ今すぐでて行くが良い!」


「そうね。魔王様も不愉快でしょうから、出て行って頂きましょう。実は人族で間者かもしれませんし……」


 アルケニーの女も、先の二匹の言葉を受けて俺達を非難してくる。


「あ? 首をなんだって? 死にたいの? 刎ねようか?」


 あ……千香華がキレた。やばい! やれるものならやってみろなんて言われたら本当に刎ねるぞ?

 オーガの男が立ち上がり、何かを言おうとする直前に意外なところから声が掛かった。


「その二人が人族という事は無いわ……もし人族なら私が冷静でいられるわけが無いもの……それと、汚らしい人族に似た姿というのは、私にも言ってるのかしら?」


 静かではあるが、底冷えするような声で発言したのはマーダーの女だった。ヴァンパイアの女を睨みつけ殺気を放っている。


「静粛に願います! 会議場は意見を交わす場所でございます! 暴力を振るうのであれば退場を申し付けます」


 ヤーマッカが場を鎮めようとするが、それすらも気に食わないオーガの男がヤーマッカにも食って掛かる。


「貴様に言われる筋合いはないわ! 貴様如きが俺に意見するなど身の程を知らぬのか!」


 こりゃ駄目だ……こいつら更迭して他の奴に任せた方が早いんじゃねぇのか? 寧ろこのままだと俺がこいつ等を叩き潰しそうだな。


「静かにしろ! 議長の言葉には従え! 遅刻の件は我の手違いで遅れたのだ……何かあるのであれば我に言うが良い。それと座席は我の隣でも何の問題は無い。我は『好きな所に座れ』と言ったぞ? 何か問題があるのか? 答えてみよ」


 サナトクマラがそう言うと、場は静まり返った。『答えてみよ』と言われたオーガの男は、先程までの勢いも無くなり「問題はありません……」と小さく答えるだけだった。

 いつもこんな感じなのか? サナトが泣きついて来るのも解る気がする。


「魔王様。場の沈静にご尽力感謝致します。それでは、時間も押しておりますので定例会議を始めたいと思います」


 ヤーマッカがサナトクマラに礼を述べ、会議の開始を宣言する。


「はい! 議長! 会議の本題に入る前に一つ提案をしたいのですが?」


 千香華が手を挙げ、議長であるヤーマッカに伺いを立てる。それに対しても「貴様!」とオーガの男が何か言いかけるがヤーマッカは無視して言った。


「チカゲ殿。発言を認めます」


「魔王様を飛び越え発言を認めるとは、貴様何様のつもりだ!」


 案の定オーガの男は、ヤーマッカに再び食って掛かる。しかしヤーマッカは何食わぬ顔で言った。


「発言があれば挙手して許可を得てください。どうぞ、チカゲ殿」


 ヤーマッカの態度に腹を立てたのか、オーガの男は立ち上がり怒りを露にした……が、サナトクマラが間髪居れずにオーガの男を諌めた。


「座れ! 何度も言わせるな……会議の場では議長に従え」


「しかし……」


「座れ! 我の言葉が聞こえなかったか?」


 オーガの男は「申し訳ありません」とサナトクマラに頭を下げてから座った。


「では意見を述べさせて頂きます。意見というよりは提案なのですが、私達は今回初めて会議に参加致します。皆様が何故この場にいらっしゃるのか、どういう立場にあるのか知る由もございません。そこで、一人ずつ自己紹介の場を設けて頂けないでしょうか?」


 千香華の提案に明らかに嫌な顔をする者も居る。多分、何故そんな事を俺達の為にしなきゃならないのだ! とかそんな感じなのだろう。


「それは良い提案でございますね。では、順番に……」


「何故そんな事をしなければならぬのじゃ? この私の事を知らぬとは自らの無知を棚に上げ、手を煩わすなぞ……」


「良い提案だと思うぞ? もう一度自らの立場と責任を確認する為にも自己紹介をする事は必要かも知れぬな」


 ヴァンパイアの女が否定しようとしたが、サナトクマラが被せるように肯定の意を告げる。ヴァンパイアの女は掌を返し「私もそう思った所でした。素晴らしいですわ」と言っている。

 やれやれ……まだ会議も始まっていないのに前途多難過ぎるだろう。




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