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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
5章 十三番目の王
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5-43

本日も遅れてしまいました。申し訳ありません。



 新しい装備に身を包み感極まるサナトと、それを見て涙を拭う俺とヤーマッカ……千香華は平坦な声でこう告げる。


「あのー? 別にお別れでもないのに……なんで泣いてるのー?」


 なんて事を言うんだ! 空気読めよ……と思ったが、サナトは「ええ、その通りですね」と言ってなんでもない顔をして、ヤーマッカに至っては「申し訳ありません。少々調子に乗り過ぎたようです」と言って平然としていた。

 え? ガチ泣きしていたのは俺だけ? 何か恥ずかしいので急いで涙を拭い平然とした表情を取り繕ったが、千香華にニヤニヤしながら言われた。


「ケイ? 目が赤いよー? 相変わらず涙脆いんだねー。でも、それもケイのいい所なんだけどね!」


 うっさい! 黙れ! 俺は心の中で毒づき千香華を睨むが、千香華のニヤニヤは止まらない。


「しかし……これは本当に凄いですね……」


 サナトは自分の纏う装備一式を眺めて、呟くように言う。話を逸らすチャンスとばかりに俺はサナトに言った。


「それは俺達がその昔、対峙した黒いドラゴン……ダークスフィアドラゴンとかいったかな? そいつの素材を俺と千香華が設計及びデザインし、湯幻郷の“名工ガルド”が鍛え上げた唯一無二の装備だ。ダークスフィアドラゴンの素材にはある特徴があってな……」



 黒いドラゴンの素材には、重力……正確に言うと引力だな。重力とは引力と遠心力の合力の事だったと思うから、自転を行っていないイデアノテでは、闇珠が発生させている引力のみだ。その引力の影響を操る事が出来る能力が素材自体にあったのだ。


 牙と爪と鱗は、引力の影響を弱めれば軽くなり、影響を強めれば重くなる。だがそれ自体で引力を発生させる事は出来ない……ただそれだけの能力だが、その効果は思う以上に有能な物だった。


 例えば、攻撃の際に引力の影響を強めれば、威力が増大する。法則が地球と違うといっても、運動エネルギーと重さで威力が決まるのは変わらない。高速で超重量の物が衝突するそれだけで恐ろしい破壊エネルギーが生まれるのは当たり前の事だ。


 他にも翼膜で作った鎧下とマントには他と違う特徴があった。その特徴は“引力の遮断”というものだ。あの巨大なドラゴンの体躯が片翼で空を飛べた理由……それはこの特徴があったからなのだろう。


「つまり……その鎧下とマントを身に着ければ、自在に宙に浮く事が出来るんだ」


 俺がドヤ顔でそう締めくくると、三人は「おおー!」と言いながら拍手をしてくる。


「でもさー? 飛ぶくらい出来るよー?」


 千香華はそう言いながら風理術で浮いてみせる。


「じゃあ浮いたまま理術で攻撃出来るか? 出来るんなら連続で頼む」


 千香華は頷いて「オッケー」と言って理術を連続で放とうとする。当然のように体を浮かせていた風理術が解除され体が落ち始めるが、千香華は一発放っては風理術で再び浮くを繰り返し、合計三十発の氷塊を飛ばした。


「どう? ……うぇええ……脳がシェイクされて気持ち悪いー」


 千香華は吐くのは何とか耐えてるみたいだが、体がグラグラしている。それもその筈だ……落下と上昇を何度も繰り返せば気持ち悪くもなるだろうよ。俺は千香華に回復理術をかけながらサナトに向って言った。


「闇珠の引力を意識しろそれを遮る感じだ……補助として風理術を始めだけ使うといいぞ? 後はそのイメージを意識せずに使えるようになれ。初めは難しいだろうが……」


 俺がそう言っている間にサナトはフワリと浮き「おお?」と感嘆の声を上げるが、此方に何かを言おうとした途端に地面に落ちてしまった。


「意外と難しいものですね……ですが理力も使わず飛べるのは便利そうです」


「難しいと言おうと思ったんだが、それが出来るんなら後は慣れるだけだな。暫く浮いて行動するといいんじゃないか?」


 サナトには成長速度が上がる技能もあるし、あっと言う間に慣れるだろう。浮きながら色々試しているサナトを見ながら、千香華は俺に疑問を投げかける。


「ケイは同時に理術が発動出来るから、飛びながら理術も使えるしエンチャント維持しながら他の理術も使えるよね?」


「ん? そうだな、出来ると言えば出来るが……理力総量が少ないからなぁ」


 俺がそう答えると千香華は「ふむ?」と考え言った。


「だったらさー……サナトに超えられたんじゃないの? ケイのアドバンテージだったものを装備込みとはいえ上回るものじゃないの?」


 え? ……いや、俺にはまだ第二第三の形態が残って……とか現実逃避してる場合じゃないな。サナトに【看破】を掛けて戦力分析してみた。



 名 前:サナトクマラ

 種 族:魔王

 職 業:神の息子・魔王サナトクマラ・超越者

 生命力:極大

 理 力:極大

 腕 力:極大

 脚 力:極大

 耐久力:極大

 持久力:極大

 敏捷性:極大

 瞬発力:極大

 器用度:極大

 知 力:極大

 精神力:極大

 技 能:魔物統治者

     成長速度強化(極大)

     努力の才

     武術の才

     理術の才

     健康体

     名は体を現す

     天運

     不撓不屈

     向上心

     事象干渉(理)

     理術

     能力改竄

     全武器適性

     格闘術

     魔王の威厳

     超威圧

     覚醒

     その他多数

 状 態:良好

     引力操作(防具)

     能力ブースト(武器)

     能力ブースト(防具)



 あれ? ……勝てない? 【看破】の能力表示は曖昧だから、全部超えられているとは限らないが、全部極大とは恐れ入った。

 俺は親父の威厳を護る為に、更なる努力を続ける事を此処に誓う事にした。





 あれから数日後、サナトが自在に空を飛ぶ事が出来る様になったので、それに更に慣れる為に少し遠出をする事にした。

 目的地はワーウルフとウォールグリズリーの集落だ。何故そこを目的地にしたのかというと、統治者を望むあの二種族をサナトの最初の配下とするためだ。


 初めは高速移動する俺について来る事が出来なかったサナトも、ほんの数日で俺の全力とはいかないが、かなりの速度を出しても一緒に移動できるようになっていた。


「父上! あの集落で宜しいですか?」


 狼型になっている俺の横まで体を寄せて、サナトが聞いてくる。俺は立ち止まりサナトに言葉を掛ける。


「ああ、あれがそうだ。どうするんだ? 本当に一人でいくのか?」


「はい! 私が立派な魔王としてあの二種族に認められてきます。父上と母上は此処でお待ちください」


「私達が行った方が話はスムーズに進むと思うんだけど……サナト、無理はしないでね?」


 千香華がそう声を掛けると、サナトは頷いて集落に向って飛んでいった。



 程なくして、集落は騒然となったような気配が伝わって来たが、サナトの威圧と思われるプレッシャーが一帯を包んだ後、集落は静かになったようだった。

 血の匂い等は流れてきていないし、争った様子も無いので大丈夫だとは思うが……。

 そして少し離れた俺達の場所まで歓声が聞こえて来た。俺と千香華は互いに顔を見合わせると集落に向って歩き出した。



 前方の集落の門からサナトが歩いて来る。その姿は威厳と自信に満ち溢れていた。

 その後ろからは、ワーウルフとウォールグリスリー達が歓声を上げながら着いて来ている。どの顔を見ても期待と希望からなのか笑顔を見せている。


 サナトは此処に配下を得て、この世界で十三番目の王として名乗りを上げる。


「我は魔王サナトクマラ! 魔の者を従えし十三番目の王! 魔王として此処に宣言する! 我の居城を魔都バルタザルと命名し、魔物達の安息の地とする! 我の元に集え!」




この話で5章終了です。

幕間を数話挟んでから6章に移りたいと思います。

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