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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
5章 十三番目の王
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5-40


 瞬く間に月日は過ぎ去り、一年と三ヶ月程経った。

 湯幻郷から持ってきた理力トランス付きのタンクは、城の各所に配置されている。その用途は風の防壁を維持したり、氷で出来た城の凍結維持だったり、光源の確保の為だったりと様々だ。

 理力トランスが付いたタンクは中々便利な代物で、溜めておいた理力が尽きるまでは周囲の理術を維持し続けてくれる。


 タンクに理力を込めるのは思った以上に集中力が必要になるが、それが逆にサナトの訓練になるだろうと城に配置されたタンクに理力を込めるのはサナトの仕事になっている。

 サナトは初めのうち理力量も少なく、配分も滅茶苦茶で光源用のタンクが尽きただの、風の防壁が弱まってヤーマッカが凍りかけただの色々あったが、今では半月に一回込めるだけで十分という成長ぶりだ……理力量は俺を遥かに凌ぎ、ヤーマッカをも超えた。千香華には及ばないものの極大の域まで達したようだ。


「終わりました……多分総量の半分も込めていませんが、半月は十分持ちます」


 俺と同じぐらいの目線で問いかけてくる銀髪金眼で褐色の肌をした青年は、鋭い目付きながらも理知的な光を宿した双眸で、俺を見据えて反応を待っている。

 青年の額には黒曜石のような輝きを持った立派な角が二本生えていて、この世界に生きるどの種族とも違う特徴を備えている。人型の俺と同じぐらいの視線の高さという事は、百九十センチはゆうに超えている筈だ。すらりと伸びた手足、その身長に不釣合いな幼さを残しているが精悍な顔立ちは、十代中盤といったところだろう。


「おう! そうか……だいぶ早くなったな。ご苦労だったサナト」


 この青年はたった一年半に満たない期間で成長した、俺と千香華の息子である“魔王”サナトクマラの現在の姿である。

 サナトは【成長速度強化(極大)】という技能の影響で身体の成長も常人の十倍となっていた。第二次性徴の時は可哀想なぐらい成長痛に悩まされていたが、それも完全に収まったようで食事も通常の量で足りるようになったようだ。

 それは俺達にとって朗報であった。通常の十倍で年を取り続けて、あっという間に老人になってしまうのではないかと心配してはいた。そうならない為に対策は施したが、少々不安だったのだ。

 その対策は【名は体を現す】という技能と“サナトクマラ”という名前だ。

 【名は体を現す】はその名前の通りの技能で、名乗る名前により自分の存在を変化させるというサナトだけの特別な技能で、名前を付ける時に不老不死の存在を意味する名前を付けようと考えていた。

 そこで考え付いたのが“サナトクマラ”という名前である。名前の元になった“サナト・クマーラ”は永遠に十六歳の姿を保ち続ける存在だった。

 最近身体の成長が止まったという事は、その影響を無事サナトは受ける事になったという事に他ならない。



 俺の前に居るサナトは俺の返事を聞いて、嬉しそうにしながら頭を俺の方に突き出してきた。俺は軽く笑みを浮かべてサナトの頭に手をやり撫でてやる。……自分とそう背の変わらない、寧ろ角を含めると自分よりも背の高い青年を撫でるのは、変な感じがするがどんなに成長しても、俺達の可愛いサナトには変わりない。

 サナトは俺と千香華、そしてヤーマッカの愛情を受けて立派に成長している。だが、どんなに賢くて体が成長したとしても、生後一年と半年である事には変わりない。

 千香華なんかは「もう少し子供のサナトを甘やかしたかったー」と駄々を捏ねていたが、今のこの姿でも十分に甘やかしていると俺は思うがな……。


「サナトー……あっ! ケイばかりずるいぞ! 私も撫でるー!」


 ほら、噂をすればなんとやらだ。千香華は駆け寄ってきてサナトの頭を撫で回す。そして膝に乗せようとしていた。


「母上……流石にサイズ的に無理がありすぎます」


「むぅ! じゃあケイならいいの?」


「いや……流石に絵面が悪いだろう?」


 俺がそういうと千香華は「それもそうだねー! 誰得って感じだよ」と言って笑っている。俺もサナトも苦笑いするしかないが、千香華は最近サナトに構いたがっているように思う。多分それは、そろそろサナトが“魔王”として行動するようになると解っているからだろう。

 サナトが本格的に“魔王”として行動を開始すれば、今までのようには接する事が出来なくなる。それはサナトが威厳を持つ為にも必要だし、表立って人族(の姿をした者)が魔王と一緒に行動するわけにはいかなくなる。

 俺にもその気持ちは解るから、最近はなるべく千香華にサナトの訓練を任せている。サナトにはもう十分な程、俺の技術を叩きこ……教え込んでいる。基礎のトレーニングなどは自主的に行っているようなので、俺が教える事はもう殆ど無い。

 それに俺は此処の所、頻繁に城外へ出掛けているので、訓練を見てやる事が出来ないのだ。


「ケイ。今日も出掛けるの?」


 千香華の質問に俺は頷く事で返す。


「……あまり根をつめ過ぎないでね? 私も気にはなってるし、ケイが気にするのは解るけど……」


 千香華が心配そうな顔をしてそう言って来る。


「大丈夫だ。無理はしない……それに今日は少し寄る所もあるからな」


 最後は小声で千香華にだけ聴こえるように言った。まあ、サナトの聴覚なら聴こえているとは思うが、空気の読めるサナトは何も言わないだろう。隠している訳じゃないが、出来れば吃驚させたいからな。





 風に乗ってくる匂いをクンクンと嗅ぎ、俺はガクリと肩を落とす。大狼の姿をしているから肩を落とすという表現に違和感を感じるが……気分的にそんな感じだ。

 現在地は申都ザクセンの近郊、未都モルデカイから反時計周りに行ってきた捜索も此処で最後だ。


「後は塔の周辺だけか……一番可能性は高いが、出来れば他の場所で見つけたかったな」


 俺はそう独り呟く。此処最近、俺が城から出掛けていたのは、あの女の子とロキの足取りを掴む為だった。

 かなり長い期間が過ぎたが、ロキからは連絡も無い。時々場所を知らせる意味合いも含めて神力を放出してみているので、居場所が解らないという事も無い筈なのだ。

 セトにも聞いてみたが、解らないと言われた。セトはそんなに時間も経っていないので気にする事は無いと言っていたが……神の時間間隔ではそんなものなのだろうか?


 勿論女の子の足取りも全く掴めていない。残るは塔の周辺だけなのだが、あそこに行く際には皆でと千香華に念を押されている。

 あの女の子の件で俺は責任を感じている。忘れていたとはいえ……いや、忘れていた事自体も問題なのだが、自ら創り出した存在なのにも関わらず、初めから高圧的な態度で接してしまった。

 あの頃は、神になったばかりで俺は不安定だった。いい訳にしか聴こえないかも知れないが、元の自分と神の自分で考え方等に誤差が生じていたようだった。

 若い頃の自分の考え方と、歳を取った……と言っても三十代半ばだが、色々考えを巡らせる事が出来る様になった自分とが同時に存在していたような奇妙な状態ではあった。


「何を言っても言い訳にしかならないな……」


 再び独り言を呟き、俺は今日のもう一つの目的。“ある物”を受け取る為に走り出した。




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