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本日は少し短いです。申し訳ありません。
「いや……午都に用事は無いし、一度も訪れた事は無いが……」
アドルフが唐突に『午都に最近立ち寄ったか?』と聞いて来たのだが、俺はその何気ないような言葉に酷く“嫌な予感”がした。この感じがする時は、大体が碌でもない事なので出来ればスルーしたい所なのだが……何故だか“聞いておかねば後悔する”と強迫観念に駆られた。
「……午都で何かあったのか?」
アドルフは髭を撫でながら「ふむ……」と一息入れてから答える。
「いやなに、寄って無いと言うのなら構わぬのじゃが……お主達では無いと言うのならどうせデマじゃろうし……」
アドルフは何か言い辛そうに言葉を詰まらせているように見える。
「何だ? はっきり言え。アドルフらしくないぞ?」
そう俺が言うと、アドルフはため息を吐いた。この様子を見ると“忘れていた”のではなく、言い出し辛かったみたいだな……。
事の始まりは、二週間ほど前だったとアドルフは言う。『午都オーギュストに神が降臨した』という噂が冒険者達から伝わって来たとの事だ。
アドルフの知る神というのは、俺達二人の事だったので怪訝に思ったそうだ。何せ俺達は、自ら神である事を隠し“余程の事が無い限りその事がバレる事が無い様に行動している”と知っていたからだ。俺達の正体を知る者は湯幻郷の住人を除けば、アドルフ・サライ・ヨルグ・ケーロウ・ヤーマッカの五人と今は亡きマーロウしかいない。
アドルフはその噂について調査をするように命じたのだが、集まってくる情報はいまいち的を得ないものばかりだった。降臨したという神の姿も解らない。どういう状況で、何を成したのかという事も謎に包まれていた。ただ“神は降臨なされた”という事だけが信じられていた。
元々、午都は宗教都市として知られている。光という人が生きて行く上でなくてはならないものを与えてくれる存在、全ての者に訳隔てなく恩恵を与える“光珠”を神として崇め、その光珠に一番近い都として“光珠信仰”の中心地である。
その午都で神が降臨したという噂が流れている……それだけでおかしな話なのだ。彼等が信奉する神は光珠であり、それが降臨するという事は大げさに言うと光珠が地面に落ちてくる事になる。……イデアノテ壊滅の危機だな。
流石にそれは有り得ない話として、他に考えられるのは何者かが光珠と同一の存在として現れたか、光珠以外の神として午都に住む者達に認められたかのどちらかになる。
アドルフは千香華の技能を端的にだが知っている為、それも有り得ない事ではないと思ったと言うのだ。そうして明確な情報を得られぬまま一週間が過ぎた頃、午都から書状が届いたのだと言う。
その書状には『神の名の下に湯幻郷の技術を接収する。大人しく渡さねば天罰が下る事になるぞ』という内容が書かれていたとアドルフは言った。
午都の光珠神殿は昔から『こうこうこう言ったいった内容でお布施を収めるように……』と言ってくる事があった為、普段ならば一笑に付すのだが、流れて来た噂の事もあり、そして此処まで明らかな脅しは初めての事だったという事だ。
それを受けてモルデカイギルドには、厳重な警戒をするように指示を出し、狙われているであろう湯幻郷に現在でもギルドの最高戦力であるアドルフが詰めるようにしたようだ。
そんな折に俺達が湯幻郷を訪れた……もし何か関係しているなら、その事に触れる筈だと思い今まで黙っていたが、結局最後まで俺達はそんな素振りを見せなかった。アドルフは意を決して探りを入れる事にしたのだと言った。
言い辛そうにしていたのは、俺達を疑うような事だったからという事なのだ。
「神のお前達を疑い、疑惑の目を向けた事を謝りたい……本当にすまなかった! この老い耄れじゃったら天罰を与えられても文句は言わん……何なりと処罰してくれ」
アドルフは俺達に頭を下げて詫びを入れてくる。俺はため息を吐いてアドルフに言う。
「あのな……俺達が天罰なんて与えると思うか?」
俺の言葉を引き継ぐように千香華も言った。
「そうだよー。アドルフは人の上に立つ者として、正しい事をしたのに何で処罰しなきゃいけないのさ? 神だからといって盲目的に信じる必要なんて無いし、自ら矢表に立って事の真偽を見極めようとしたんでしょ? なんでもかんでも信じて『はいそうですか』と要求を呑むような人物に上を任せたくもないしね? アドルフが此処に居てくれて助かっているよー。ありがとう」
俺と千香華の言葉を聞いても、アドルフは中々頭を上げようとしない……体が小刻みに震えているようにも見えるが……。
「アドルフらしくないぞ? 頭をあげろよ。俺達は神といってもこんな感じだからな……間違った事もするだろうし、そんな大層な者じゃない。アドルフのように気兼ねなく話せる者は貴重なんだ。何かあれば遠慮なく疑い意見を述べてくれよ」
俺がそう言うとアドルフはゆっくりと下げていた頭を上げる。その目には光るものがあったが、見ないことにしておこう。
「……当然じゃわい! お前達に言われんでも自ら考えて信じたように行動するわ! 間違ってる事は間違っていると言い聞かせるのは、年長者の役割じゃからな!」
はははっ! 口の減らない爺さんだ。しかし、それでこそアドルフだ。
一応この先も警戒を続ける事を頼み、ギルドを後にした俺達は、黒神神社に向かう事にした。サイラスにも挨拶して、日頃から祝詞を上げてくれている事の感謝も述べたいし、今日の所はサナトも疲れ気味のようだから、宿として三重塔を使う事を伝えなくてはいけない。
それにやはり午都での出来事は気にはなる。少し独自に調査をする必要があるかもしれないな。




