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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
5章 十三番目の王
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5-30



 冒険者ギルド湯幻郷出張所の建物は、景観を壊さないように日本家屋のような造りになっている。例えるなら時代劇とかで良く見る大店おおだなみたいな感じかな? 土間があって奥に座敷があり、それに茶屋のような店が併設されていて、そこで冒険者が寛いでいるのが見える。


 俺は番頭とかが座っているような場所で、業務をこなしている受付嬢に声を掛けた。


「アドルフが丁度来ていると聞いたんだが……今いるか?」


 受付は森人の女性で着物を着ている。そこら辺に日本人顔が一杯居るのに、金髪碧眼の森人が和装っていうのもなんか変な気分だな。

 受付の森人は一瞬驚いた顔をしたがすぐに表情を戻し、返答してくれた。


「ケイゴ様、お戻りになられたのですね? アドルフ様は奥に居られます。お呼び致しましょうか?」


「いや、少し用があって立ち寄っただけなんだ。またすぐに旅立つ予定だ……」


「アドルフはどうせあそこにいるんでしょ? こっちから行くからいいよー」


「チカゲ様。それにヤーマッカ様!」


 今ヤーマッカにだけ語尾にハートマークが付いていなかったか? まあこの森人はヤーマッカに身を挺して護られたからな……憧れているのも解る気がする。


「アメリア嬢、久方ぶりでございますね。お元気そうで何よりです」


 ヤーマッカが丁寧にお辞儀をすると受付のアメリアは「はい! ヤーマッカ様のお陰です!」と返事をしていた。見た目には老紳士と妙齢の女性なのだが、実年齢はアメリアの方が上だったりする。

 一度ヤーマッカにアメリアの事をどう思うか聞いてみたのだが、もう亡くなってしまったが溺愛していた奥さんがいたそうだ。その奥さんに永遠を誓ったと誇らしげな顔で言われたら、それ以上何もいう事は出来なかった。

 まあ、どちらも寿命が長いのだから好きにするといいさ……本人同士の事だからな。



 座敷の脇から外に出る勝手口があり、そこから出ると庭になっている。

 気を使ってヤーマッカに声を掛けずに出てきたが、ヤーマッカはいつの間にか俺達の後ろに控えていた。職務に忠実過ぎるのも困りものだが、それがヤーマッカが選んだ生き方ならば、俺は何も言わない。


 勝手口から出た先の庭にある縁側で、作務衣のような物を着てお茶を啜っている辰獣人がアドルフだ。前に俺が何となく作って着ていたのを見て「ワシもそれ欲しい!」と駄々を捏ねたから作ってやったら思いの他、気に入ったようで湯幻郷に居る間は何時も着ている。獣人型の俺よりも似合っているのが悔しい。



 アドルフは俺達が来ているのを気配を感じ取って判っていたらしく、軽く手を挙げて迎え入れてくれた。


「おお~、やはりお主達じゃったか! 久しいのぅ。お主達が戻って来たという事ならワシの休暇も終わりかの?」


 おい、待て爺さん! 今はっきり“休暇”と言わなかったか?

 俺が怪訝な顔をするのを見てアドルフは慌てて取り繕う。


「冗談じゃよ~。そんな顔するでない。チカゲもヤーマッカも息災で何よりじゃ! ……お? そのわらしは……ふむ? 良い目をしておる。ケイゴとチカゲの子か?」


「お久しぶりだねー。そうそう、私とケイゴの子供だよー可愛がってあげてね?」


「アドルフ殿こそ変わらずお元気そうで何よりでございます」


 上手い事誤魔化したな……。まあ、俺達もアドルフが此処に在住してくれた方が安心ではあるのだが……未都のギルドは大丈夫なのか? エイベルが優秀だから、問題無いのか……もうギルドマスター交代した方がいいんじゃねぇか?

 千香華の言葉を聞いてアドルフは、表情を緩めてサナトに話し掛ける。


「おぉ可愛らしい童じゃのぅ。どら、こっちにおいで。取って置きのお菓子をやろう」


 サナトが俺を見て来るので、軽く頷いてやるとサナトはアドルフの前まで行って、帽子を脱ぎアドルフに言った。


「初めましてアドルフさん。私は圭吾と千香華の子、サナトクマラと申します。以後お見知りおきを願います」


 完璧な挨拶だ……って?! ちょい待て! 何で帽子取ったんだ? ああ、ヤーマッカが目上の者に対しての礼儀として教えていたのか? 予定外の事でヤーマッカも慌てている。

 その様子を見てサナトが不安そうに言った。


「私の挨拶に何か不備でもありましたのでしょうか?」


「ううんー。何も問題は無いよ……私よりもちゃんと挨拶しているしねー。……でも帽子取ったら拙かったかなー」


 千香華が苦笑いしながらそう言うと、サナトは思い出したかのように頭に手をやり、慌てて額を隠した。……もう遅いけどな。

 アドルフはサナトの額の角を見て一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに何事も無かったように言った。


「うむ! しっかりした挨拶が出来る賢い子じゃの! サナトクマラといったかの? 良い名前じゃ」


「サナトと呼んでやってくれ」


「おお~、そうか。サナトよ、この菓子は甘くて美味いぞぉ。一杯食べると良い」


「サナト、この爺さんは大丈夫だ。気にせずに貰うと良いぞ」


「はい! 父上」


 サナトは元気に答えアドルフの出した菓子を食べ始める。菓子といっても湯幻郷名物の温泉饅頭だけどな。

 それを見てアドルフは俺に向って言う。


「良い子じゃの……あの子が何者なのかは聞かぬが、お主達の子と言うのだから何も問題は無いのじゃろう」


「良い子だろ? 可愛いだろう。もっと褒めてもいいんだぞ?」


「父親に似なくて良かったのぅ?」


「ケイに似て可愛いじゃない……ねぇ?」


「おっしゃる通りでございます」


 誰とも無く笑い始め、サナトだけはキョトンとした顔で、それでもお菓子を頬張っている。

 アドルフが何かを思い出したように手をポンと打ち質問してきた。


「そうじゃ! 時にサライはどうしたのかの? 姿が見えないようじゃが……」


「サライはヨルグに掴まったよー。花嫁修業開始だってさー」


 アドルフの問いに千香華が間髪入れず答えた。アドルフは髭を撫でながらふむふむと頷いて言う。


「あやつも、いい加減良い歳じゃからのぅ……ワシみたいなジジイに構ってばかりじゃ行き遅れてしまうわい」


 そう言うアドルフの表情は少し寂しそうに見えた。


「だからもう暫く此処を頼みたいんだが……良いか?」


 俺がそう言うとアドルフは先程の寂しそうな表情を消して、満面の笑みで答える。


「勿論じゃ! ずっとでもええわい。此処は本当に良い所じゃ……完全に引退したら此処に住む事に決めたわい」


 気に入ってくれて何よりだ……俺達の故郷に似たこの場所を褒められるのは凄く嬉しい。


 色々と話をしてそろそろお暇しようかと思った時に、アドルフから言われた言葉に俺は嫌な予感を覚えた。


「ああ、忘れとった……歳を取ると物忘れが酷くなるのぅ……お主達は、最近午都に立ち寄ったかの?」




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