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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
5章 十三番目の王
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5-23



 この世界の神である女の子の事を、ロキに任せる事にした。不本意ではあるが、多分俺達が今何を言ってもあの子は話を聞けるような状況では無いだろう。


「ケイ! サナトの様子が変だよ? サナト大丈夫?」


 千香華の声で振り返ると千香華に抱きかかえられたまま、サナトはぐったりとしていた。心なしか頬はこけて虚ろな目をしている。


「サナト! どうした?」


 サナトは【健康体】の技能で状態異常には掛からない筈だから、病気という事はありえない。理由が解らないので【看破】をかけてみる事にした。



 名 前:サナトクマラ

 種 族:魔王

 職 業:神の息子

 生命力:極小

 理 力:極小

 腕 力:極小

 脚 力:極小

 耐久力:極小

 持久力:極小

 敏捷性:極小

 瞬発力:極小

 器用度:極小

 知 力:極大

 精神力:極小

 技 能:魔物統治者

     成長速度強化(極大)

     努力の才

     武術の才

     理術の才

     健康体

     名は体を現す

     天運

     不撓不屈

     向上心

     事象干渉(理)

 状 態:空腹



 まあ、こんなものだろうな。この世界に生まれた者だから【事象干渉(理)】が追加されている。技能の内容が特殊過ぎるから【能力改竄】は覚えさせないといけないな……。

 状態が空腹になっているようだ……原因はこれか? 空腹は状態異常ではなくて生理現象って事だろうと思う。だが空腹であそこまで弱るものなのか? もしかして……成長速度強化で急激に成長しているのか? だとすれば大量の栄養が必要になってしまい……これって危険なんじゃねぇか? 栄養失調は状態異常だから掛からないが、空腹感は普通にあるという飢餓地獄状態だろ?


「おかあさん……お腹がキリキリして苦しいです……力が入りません」


「サナト!」


「ヤーマッカ! 食べ物だ! 何か消化が良くて、栄養のあるものを早く!!」



 サナトに食べ物を用意したのだが、子供ってこんなに食べるものだっけ? って思うほど良く食べる。明らかにサナトの体積以上の食べ物が、ドンドンその小さな体に収まっていくのを見ていると、爽快ではあるのだが心配にもなってくる。


「サナト? そんなに食べて大丈夫か?」


 サナトはキョトンとした表情で答えを返す。


「はい! おいしぃーです。ヤーマッカさんは料理が上手です」


 いやいや……そんな事を聞いているんじゃないんだがな……。ヤーマッカは褒められたのが嬉しいようで、顔を綻ばせながら言った。


「お褒めにお預かり光栄です。しかし、私めの料理はケイゴ様とチカゲ様に教わったものにございます。お二人に比べるとまだまだ未熟でございます」


 そんなに謙遜するなよ。確かに俺達の世界の料理技術を教えたけどさ……千香華はどうか解らないが、少なくとも俺はもうヤーマッカに敵わないぞ?


「ぼくも料理を習いたい!」


「サナトは料理に興味を持ったのかな? うんうんー。色々教えてあげるねー」


 何にでも興味を持つ事は良い事だ。しかし、これだけ食べるとなると考えられるのは、やはり【成長速度強化(極大)】だよな……。十倍って身体の成長も十倍になっているって考えるべきだな。って事は普通に十倍食べなきゃいけないって事か……しかも今のサナトの能力は、知力以外は全て“極小”こんな荒野のど真ん中に何時までも居る訳にはいかないだろう。

 技能のお陰でなんとか大丈夫だが、虚弱体質もいい所だ。何処かに拠点を持たなくてはならないだろう。普通に何処かの都や町という手もあるが、サナトは種族が“魔王”となっているだけあって、分類的には人族ではなくて魔物だ。【能力改竄】で誤魔化せない事も無いだろうが、もしもの事を考えるとそれも出来ない。

 自由に外も出歩けなくて、訓練も出来ませんじゃ何の意味もないからな。……湯幻郷なら、そこに住む岩人や森人であれば問題なく受け入れてくれるが、あそこは今では世界有数の観光地だからどんな人物が訪れるか解らない。それに迷惑がかかる可能性がある以上、人里という線は消えるがな……。



「……という訳なんだが、何か案はあるか?」


 先程考えていた事を皆に話し、意見を募ったところ千香華が思った以上にノリノリでこう答えた。


「お? んじゃー造ちゃう? 造っちゃおうよ魔王城!」


 おいおい、魔王城って……ああ、魔王城でいいの……か? 確かに造った方が色々面倒は少なくて済むし、この先サナトが魔物を従えるようになれば、そいつ等が住まう場所も必要になるだろう。だが……。


「造ると言っても下手な場所は選べないぞ? そこに魔物が集まる事にもなるだろうし、敵対の意思ありと見られて排除される可能性も出てくるだろう?」


 俺の返答に対して千香華は、人差し指を立て横に振りながら「チッチッ」とジェスチャーをする。少し腹立たしい。


「この千香華ちゃんがそんな事考えない訳がないでしょー? ちゃんと候補地があるんだよー」


 千香華がいう候補地とは、巳都レーブレヒトから更に外側、海の上にポツンと存在する島がある。……筈だと言っている。

 何故そんなに曖昧なのかといえば、俺達は実際にそこに行った事が無いからである。しかし存在している可能性は高い。『小説の設定の為に書き起こした地図にしっかりと書き込まれている』それが根拠という事だ。

 確かに俺も覚えがあるぞ……。何かネタになるかもしれないと、何か書き込んでいた記憶がある。……なんだったかな? ノートを確認してみたら『絶海の孤島。外界から隔離された島で、そこ住まう生物は……とりあえず何も考え付かないから、今は居ないでいいや……』と書いてあった。昔の俺は阿呆だな……でも、それのお陰で手付かずの土地って事が確定したからいいのか?


「ほらほらー。言った通りでしょ? 覚えていた私、偉い! 偉いでしょー?」


 千香華は頭を此方に突き出しながらそう言った。ああ、褒めろって事かな? まだ直接見ていないから何とも言えないが、候補地としてこれ以上の場所は無さそうだ。この事を覚えていたのは値千金だ。しかし……。

 俺は千香華の頭を撫でながら言った。


「偉い! 確かに偉い……だが、どうやって渡るつもりだ?」


 千香華は「アッ!」と言った表情のままで固まる。少し考えてた末に恐る恐る答えた。


「船で……」


「この世界には、まだ海を渡れるような船が無いぞ? 造るにしてもどれだけかかるか解らん」


「橋を……」


「不可能だろう? どれだけ距離があるか解らないし、そんな建造物立てたら怪しまれる」


 間髪居れず否定の言葉を入れる。千香華は再び考え、手をポンと叩き言った。


「ケイが走って行けば良いんじゃ無いかな?」


「無茶いうな! 海の上を走れる訳がないだろ!」


 俺は頭を撫でていた手で千香華の頭を掴み、少し力を入れる。


「痛い! 痛い! ギリギリいってるよー。頭がひしゃげるー」


 人聞きの悪い! 拉げる程には力を込めてないぞ?


「ヤーマッカさん! 止めなくて良いんですか?」


 俺達が喧嘩していると思って、慌ててサナトが言う。それにヤーマッカは優しく答えた。


「大丈夫でございます。ああやってお二人はたまにじゃれ合うのですよ……仲が良いから出来るのです」


「そっかー。お父さんとお母さんは仲が良いのですね」


「左様でございます」



 兎に角、一度行ってみようと千香華が言うので、俺達は巳都レーブレヒトの外側にある“外海の岬”と呼ばれる場所へ向う事に決めた。




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