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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
5章 十三番目の王
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5-19



 千香華が見せたものは設定画の他には、外見的特長ぐらいしか描いていなかった。銀髪金眼、浅黒い肌、角が額に二本、それ以外に特に特徴は無い。銀髪と顔立ちは千香華に似ているか? 眼は俺と同じ金色で、肌の色は今の俺と同じ様な色だ。

 しかし、それだけだ……名前も無ければ性格も趣味も嗜好も書いて無い。口調やどういう場合にどういう行動を取る等も記載されていない。

 即ちキャラクターの設定として用を成していないという事だ。


「千香華……これじゃ駄目だろ? 性格も設定されて無いし、名前も書いてないぞ?」


 小説のキャラクターを考えて貰っていた時にも、たまにこうやって“ダメだし”をしていた事があった。キャラクターは根幹の設定がしっかりして無いと、執筆中に変な齟齬が出てきたりするし、思うように動いてくれない時があるからな。


 俺の返答に千香華は首を横に振る。


「それでいいんだよ。この子には、性格や嗜好は自分で経験して獲得して貰いたいんだ。ただでさえ魔王という役割を押し付けてしまうんだよ……性格まで押し付けてしまうと可哀想だ。それじゃロボットと同じになっちゃうでしょ? 趣味も嗜好も経験を積んで、興味を持ったものを自分で選んで欲しい……名前だって生まれてきた後に付けるのが普通でしょ? ケイ! 良い名前考えておいてね?」


 千香華はニカリと笑いながら言う。その千香華の笑顔を見て、俺は一つの考えに至った。“千香華は子供が欲しかったのかも知れない”と……。



 俺達は神になる前に一四年も付き合っていながら、結婚をしていなかった。その理由の一つに千香華は子供を生めない体だという事がある。

 初めてその事を千香華が告げた時、千香華は何度も何度も『ごめんなさい』を繰り返し泣いていた……『ケイの子供を生んであげられなくてごめん』『他に好きになった人が出来たら身を引くから』『私に構っていてもケイにとって良い事無いよ』俺が長男であるという事も関係していたのかもしれない。

 当時まだ若かった俺は気の利いた事も言えずに、ただ千香華の頭を撫でるぐらいしか出来なかった。唯一言ってあげられた事といえば『そんな事は関係ない。俺は千香華と一緒に居たいんだ』という言葉だけだった。


 今思うとそんな事ぐらいしか言えなかった自分が情けなくなる。だがその言葉は俺が心から思ってたものだ……今でもそれは変わらない。しかし結婚の話になると千香華は『ケイを縛りたくない』『貴方には幸せになって欲しいから』と泣くのだ。俺は千香華と一緒なら幸せだし、例え自分の子供が出来なくても構わなかった。

 俺は千香華という人間が好きだったから、何があっても人生を一緒に歩みたいと思える唯一のひとだったから……。


 何時しか“結婚”という単語は二人の間で出る事は無くなった。一四年……いや神になってから百年以上経っているが、その間も俺の気持ちは変わることは無い。



 だが千香華は“子供を生めない”事で後ろめたい気持ちがあったのかもしれない……それを割り切れなんて俺には言う事が出来ない。

 千香華は心の何処かにその事が引っかかり続けていたのかもしれないな……。千香華は『この子にも私達にとっても一番良いと思う』と言っていた。そうだな……“俺達にとっても”か……。


 千香華の描いた絵に再び視線を落とす……そこには千香華の面影と俺の特徴を併せ持った子供が俺に向って笑顔を向けていた。



「解った。これで行こう! 名前は任せておけ……千香華が考えると大変な事になりそうだからな」


 俺はわざと千香華をからかう様に言う。


「ひどーい! 私だって名前くらい! 魔王だから……マオとか!」


「却下だ!」


「マーオウとか!」


「マーロウと被り気味じゃねぇか! 却下!」


 俺と千香華のやり取りを見てヤーマッカは、何処からか取り出したハンカチで目頭を押さえている。その表情は嬉しそうにも見える。……何処まで察しているんだ? ヤーマッカが有能すぎて怖い。





 俺は渾身の思いを込めて設定ノート(イデアノテ)に文字を書き込んだ。イデアノテの設定に関わる内容である限り、キャラクターであっても俺が書かなきゃいけない部分が出てくる。

 いや、これは魔王というキャラクターでは無い……俺達の“息子”なのだ。そう思いながら心を込めて書き記す。



『以下の人物をイデアノテ唯一の魔を統べる者として生み出す。



 名前:

 性別:男

 種族:魔王


 初期能力


 生命力:極小

 理 力:極小

 腕 力:極小

 脚 力:極小

 耐久力:極小

 持久力:極小

 敏捷性:極小

 瞬発力:極小

 器用度:極小

 知 力:極大

 精神力:極小


 初期技能


 ・魔物統治者【魔物に対して絶対的なカリスマを得る事が出来る可能性を持つ】

 ・成長速度強化(極大)【成長速度が早くなる。最大で通常の十倍】

 ・努力の才【努力すればどんな事でも身に付ける事が出来る】

 ・武術の才【武術に対する才能】

 ・理術の才【理術に対する才能】

 ・健康体【全ての状態異常に掛からない】

 ・名は体を現す【その時に望む存在となれる】

 ・天運【全ての幸運に恵まれる】

 ・不撓不屈【どんな困難にもくじけない】

 ・向上心【現状に満足せず常に上を目指す】



 上記の設定は下記の人物が服部千香華によって描かれた後に反映される』



 これでいい筈だ……書き終わってから何か不具合が無いか心配になってくる。

 全体的に成長に関する技能を付与する事にした。能力や技能は後で習得する事が可能であるからだ。ここで書かれている事はあくまでも技能だから性格等に影響する事は少ない筈だが……その傾向が出てしまうかもしれない。だがどうしても必要だと思ったからそのままにしてある。



「千香華……後はお前だ。頼んだぞ」


「うん。任せてよ!」


 千香華は張り切って答える。その表情は真剣ながらも嬉しそうだった。千香華が俺達の息子の姿を描く。描き込むペンは、色までも思い描いた色が出せるらしく、あっという間に色鮮やかな絵が描かれていった。

 程なくして千香華が声を上げる。


「……出来た!」


 その瞬間、俺が書いた文字と千香華が描いた絵が光に包まれた。




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