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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
1章 そして世界は動き出す
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幕間 1-5.5 ある冒険家の手記

 俺は冒険家、申人のシーン。

 これからの冒険の全てをこうやって残していこうと思う。

 最初に俺が冒険家を目指す事となった出来事を記しておこう。誰も信じなかったし、この先も信じてもらえないと思うが、今の俺があるのも全てはあの二人に出会った事が始まりだった。


 あれはまだ俺が幼い頃、好奇心旺盛だった俺は親の目を盗んで、村の近くにある森に入り込んでいた。そもそも、あの頃は村の外に出る事は大人ですらあまりなかった。

 俺はただ、森の先にある山には何があるんだろ? くらいの気持ちで向かったのだが、その道のりは厳しく子供だった俺は、森の途中で迷って出られなくなった。

 周囲は巨大なムカデや木の化け物がいた。俺は怖くなって薮に隠れて震えた。本当にあの時は心細くてチビリそうだったのを覚えている。

 どのくらい隠れていたか解らないが、突如目の前の薮からニュっと銀色の何かが出てきた。俺は悲鳴をあげそうになったが、何とか我慢することが出来た。

 その銀色は人の頭だった。銀色という変わった毛並みの……多分俺と同じ申人の男。男はニヤぁと悪そうな笑い顔をすると、謎の鳴き声をあげる。そして引きずり出された。怖い、怖すぎる。きっとこいつも化け物なんだそう思った。


 捕獲されてもう駄目だと思った時、更なる恐怖がやってきた。真っ黒で凶暴な顔をした……多分、戌獣人の男。しかもその男は戌獣人にしては大きすぎる。近所の戌獣人の大人は、あの頃の俺と同じくらいの大きさぐらいしかなかった。今思うと本当に戌獣人だったのか定かではない。だってたぶん今の俺よりも大きかったんだ。そんな戌獣人聞いた事が無い。

 その黒い方の男も謎の鳴き声を発する。銀色ときっと同じ鳴き声だ。見た目は違うけど同じ化け物なんだと絶望した。

 黒い方は俺を片手で摘み持ち上げた、食われる! そう思った。しかし、それは違った。食べる気はないみたいだった。黒い方は肩に俺を乗せて歩き出した。銀色としきりに鳴き声を上げながら……。


 暫く歩くと木の化け物が巨大ムカデを食べていた。しかし、黒い方が離れたところから蹴りを出すと、木の化け物は真ん中から二つに分かれて動かなくなった。

 俺は驚いた。何をしたのか解らなかったが凄い! そう思った。震えはただの恐怖から違うものに変わっていった。途中何度か木の化け物が居たがその度に、黒い方が真っ二つにする。それを驚かずに当たり前のように見ている銀色の方。初めは悪い顔に見えたが、凄く優しい顔をして笑う銀色の方と苦笑いする顔がなんだかおかしい黒い方。なんだろうこの二人は? 不思議には思ったが幼い俺には、凄い人達に見えた。そんな凄い人達と一緒に居る。震えは歓喜と憧れに変わっていった。


 森を抜け、見慣れた場所に出た。俺は安堵ともう着いてしまったのかと残念な気持ちで二人の顔を見た。黒い方が笑顔を見せる。怯えて震えていた自分を恥ずかしく思って顔を逸らしてしまった。

 村の入り口に着いた時、俺はふと思いついた。家に来てもらってご飯を一緒に食べて、泊まってもらおう。幼いながらにもう少しこの人達と居てみたいと思ったんだろうな。

 直ぐに走って母を連れて来よう。そう思って家に駆け出した。


 母を連れてくると、二人は困惑の表情をしていた。鳴き声が違うからつたわらないのかな? そう思った。でも村にいる他の種族の人でも通じるのに不思議だなって思っていた。

 何があったのか銀色の方がいきなり興奮し始めた。それを止めるように捕まえた黒い方が、身振りでここで待っていてくれと伝えてきた。何かの病気の発作なのかなと少し心配になった。

 暫く経って村の入り口の方で何かが光っているのに気付いてしまった。嫌な予感のした俺は村の入り口に走った。その途中で、おかしな感覚に包まれた気がした。何故か焦燥感に駆られた俺は声を上げた。


「おじちゃん! 戌獣人のおじちゃーん!」


 失礼かも知れなかったが、そう呼びかけるしかなかった。初めて言葉を発したのだし、名前も聞いていなかったのだから。

 そこには誰も居なかった。黒い方も、銀色の方も、影も形も無かった。

 村に戻って母に声を掛けられたが違和感を覚えた。皆は何故かなんとも思って居ないようだが、俺だけはあの時を境に言葉を使えるようになったと認識していた。その事を村の皆に伝えたが、「何を言ってるんだ? おかしな事をいう子だね」という反応だった。

 今思うと二人のあげていた鳴き声は、今俺達が使っている言葉と同じものだったのではないかと思う。


 理由は解らないけど俺だけが覚えている。もしかしたらあの二人が関係してるのか? あの出来事は、俺の中に強く残っている。

 黒い方の強さも、銀色の方の優しい笑顔もよく覚えている。彼らは俺の目標だ。世の中の不思議な場所を巡っていればいつか会えそうな気がしたのだ。


 その出来事から十年経ち、十六になった俺は、最初の冒険の目的地をあの山の頂上に決めた。

 その山は当時“世界一高い山”という認識で名前すらなかった。だがあの時から……正確に言うとあの時の少し前から、“高千穂”と言う名前の山になっていた(・・・・・)。しかも、世界一高い山では無くなっていた。

 これは明らかに“あの時と同じような事が起きていたのではないか”と俺は推測した。よくよく考えれば彼らは、あの山の方角から来たように思えた。彼らの足跡を辿るのに何か手がかりになるに違いないと思った。


 道中は思ったよりも楽だった。何せ彼らと一緒だった行程は未だに木の化け物(トレント)は繁殖していなかった。

 これはトレントに歩行能力が無く、片っ端から“黒い方”が薙ぎ払った為、この辺りに植生されなかったのだろう。奥地に行けば密集しているかもしれないが、態々そんなことする意味も無い。

 そして巨大ムカデダブルヘッドセンチピードも殆ど出なかった。

 その理由は俺が最近になって発見したのだが、トレントの死骸(残骸?)は蟲系魔物の忌避剤として作用するようだった。逆に生きている時のトレントは奴らにとっての誘引剤のようなものを分泌しており、それによって捕食しているようだ。

 つまり奥地にいるトレントに引き寄せられ、ここは避けられているという訳だ。この十年で下調べをした成果だが、俺は彼らに導かれていると感じ、決意を新たに先に進んだ。


 驚くべきは、彼らの移動速度の速さだった。黒い方の肩に乗って移動した時は、それ程の距離に感じなかった。しかし今、自分の足で歩くと身軽な申人の俺が苦労する程の道のりを、平然と短時間で村まで移動したのだ。本当に凄い二人だと再確認したのだった。


 そして苦労の末に到着する山頂、俺はそこの風景に心を奪われた。

 そこは周囲に遮る物の無い「世界を見渡せるのではないか?」と思われるほどの絶景が広がっていた。そして頂上には懇々と湧き出る不思議な泉があった。

 その泉は山の頂上にありながら、決して枯れることなく湧き続ける。しかも湧いてきているのは温水であった。

 あまりに疲れていた俺は、吸い寄せられるようにその泉に浸かった。すると不思議な事に全身の疲労が取れ、活力が湧いてくるような気がした。これは正しく神の御業ではないか? とするとあの二人は、神もしくはそれに近しい者だったのではないかと思えてきた。

 しかし、この泉は一人で堪能するのは勿体無さ過ぎる。トレント材で柵を作り、道を整備してこの場所への安全な経路を確保して、皆で分け合うべきではないか? と考えた。あの二人が神であるのならば、その方が喜ぶに違いないと何故だかそう思った。


 果たして最初の冒険は大成功に終わり、道も順調に整備されていっている。

 しかし、俺はその完成を待つことなく次の冒険に旅立つ事を決めた。まだまだ世界には不思議な事が待っており、その先にあの二人がいるような気がする。

 この手記を書き終わる頃、俺は次なる冒険に出ている事だろう。



   四百七十八年著 冒険家シーンの手記 一章“世界は俺を持っている”より



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