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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
5章 十三番目の王
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5-17


 何事だ! と思ったが殺気も感じないし、ヤーマッカが微笑みを浮かべているので黙ってみていたのだが、ワーウルフ達はウォールグリズリーの所まで辿り着く直前に、滑り込むように正座して頭を下げた。


『申し訳無いでござる!』


 綺麗に揃って決まったスライディング土下座に俺は唖然とし、千香華は爆笑していた。

 スライディング土下座って初めて見たが、あんなに綺麗に揃って決められるものなのか?

 俺よりも唖然としていたのはウォールグリズリー達だった。ポカーンとした顔で一体何事なのか解っていないようだった。


「そんな事情があったとは露知らず、追い出そうとした事、我等一同心からお詫び申し上げるでござる!」


 ワーウルフの一匹がウォールグリズリーに更に言った。多分ダーヴィヒだと思う……ワーウルフ達はあまり見分けが付かないが、匂いがダーヴィヒだったから合っていると思う。


「おぉ? そんなに謝られてもオラ達も困るだ……蜂さ食えればええと思っていただ。そんなオラ達を疎ましく思わせてしまったんなら謝るのは此方もだ。すまなかっただ!」


 ウォールグリズリー達は、短い足を器用に折り曲げ正座して頭を下げ始めた。大方、ワーウルフ達の頭の下げ方を見て真似したのだと思うのだけど、相手に合わせる事が出来るならウォールグリズリーは理知的な種族という事ではないだろうか? ただの食いしん坊だと思っていたよ……すまん。


 しかし何故ワーウルフ達は、いきなり謝ってきたのだろうか? あれだけ嫌って追い出そうとしていたから、話し合いは難航すると思っていたんだけどな……。

 互いに頭を下げあって謝り続けるワーウルフとウォールグリズリー達を、呆気に取られて見ているとヤーマッカが理由を説明してくれた。


「ケイゴ様、チカゲ様。実はですね……」


 ヤーマッカがワーウルフ達にウォールグリズリーがこの集落に来ると伝えた時、初めはワーウルフ達も流石に反感を示したようだった。『そんな勝手は許さないでござる!』『我等の土地をそのまま乗っ取るつもりに違いないでござる!』と騒がしかったそうなのだが、ウォールグリズリー達が望む事を伝えた時に反応はガラリと変わったそうだ。

 ウォールグリズリー達の望む事……それは“まだ外殻の柔らかい子供たちに手を出さないで欲しい”という事と“メガララ・ホーネットが主食なので巣を攻撃している時に邪魔しないで欲しい”ただそれだけだった。

 元々仲間意識が強く家族思いなワーウルフ達は“子供に手を出さないで欲しい”という事を伝えた時に態度が一気に軟化したそうだ。仲間を思い子供を庇いたいという気持ちに共感を得たらしい。

 ウォールグリズリー達はワーウルフに比べて体も大きく、ワーウルフ達から見てどれが子供かなんて解る訳が無かったのだろう。「もしかしたら……」と心当たりのある者が居て罪悪感に苛まれるなんて事もあったようだ。


 更にヤーマッカは、ウォールグリズリー達がメガララ・ホーネットを狩るという話のメリットをワーウルフ達に説明したそうだ。

 それだけではなく、ウォールグリズリーを追い出した場合のデメリットも交えた。ウォールグリズリー達がメガララ・ホーネットを狩らなければ、ワーウルフ達の獲物である他の魔物も餌にされ減ってしまう可能性があるだけではなく、この集落にも危険が及び兼ねない。この間のような事が頻繁に起こる可能性があると……。


 思っていた以上に理解が早いワーウルフ達は、自分達で『熊達が居なければ我等は既に滅んでいたかもしれない』『逆に世話になっているではないか』という結論に辿り着いた。ヤーマッカは「我等は如何するべきでござろうか?」と相談を受けたそうだ。

 それに対してヤーマッカが「悪かったと思うのならば、謝れば良いのではないですか?」と言った結果があのフライング土下座だったらしい。

 俺達が到着するまでに皆が揃うように毎日土下座の練習をしたそうだ……確かにあの一連の流れは練習しなきゃ出来ないだろうが……何か色々と間違っているような気がするのは俺だけか?





 両種族の代表者同士で話し合った結果……ワーウルフとウォールグリズリー達は、この集落を広げて共に生きる事になったようだ。

 丁度俺達が火炎竜巻で焼き払ってしまった場所があるので、そこを利用して集落の規模を拡大して体の大きなウォールグリズリー達が住める場所を作る計画になった。


 何故そんな話になったかというと、千香華が言った「利害関係が一致したんなら協力すればいいじゃない?」が発端となった。

 要するにウォールグリズリーがメガララ・ホーネットの巣を狩りにいっている間は、他の魔物からワーウルフ達が両種族の子供を護り育てる。ワーウルフ達はメガララ・ホーネットの脅威から護られ、自分達の狩りも安全に行える。

 ワーウルフ達はメガララ・ホーネットが飛ぶ速度よりも早く移動が出来るそうで、狩りの最中に巣等を見つけた場合逃げて報告を行う事が可能だ。即ち足が遅くて広範囲では探せないウォールグリズリーの斥候役も果たせる。どちらにも損は無い……「だったら同じ場所に住めば万事オッケー問題ないー」とは千香華の台詞だった。



 話し合いが終わり、ウォールグリズリーが一族を迎えに行くという段階になり、俺達はそれを機に此処を離れる事に決めた。

 今回この二種類の魔物と話をして色々な事が解った。ワーウルフは、ギルドの情報通り仲間を傷付けられなければ人族を襲うことも無い。それどころか人族を食べようという意識すら無かったようだ。

 ウォールグリズリーは、子供が狙われない限り人族が居ても何もしない。ただ空腹が限界に来た時と返り討ちにした時は食べた事があるらしい。

 どの種族を食べたかは聞かなかったが、あまり美味くはないし腹を下したそうで、好んで襲おうとは思っていないらしく、それよりもその人族が持っていたジャグ(ジャガイモのような食べ物)の方が美味しかったようで空腹の時でもそっちを貰えれば人族は食べないとの事だ。


 この二種類の魔物は人族とも話が出来るなら仲良くしてみたいとも言っていた。まだその段階ではないが、何時か人族と魔物達が双方認め合う事が出来るかもしれない。


 他に解った事といえば、話せる魔物と話せない魔物の違いだ。元々発声器官がある魔物は言葉が扱え、発声器官が無い魔物……例えば蟲系や植物系、非生物系の魔物は言葉が扱えない。ハイスラだけは例外のようだがな。


 しかし言葉を扱える事と“対話”出来るかどうかというのは別問題なようだ。

 例えばオーク種は、本能が勝りすぎて『同じ魔物同士でも絶対に会話が成り立たない』とワーウルフは言う。雌を問答無用で襲われるそうで見かければ狩って食べるそうだ。

 植物系でも例外も存在するみたいで、発声器官を有し理知的に話せる種族もいるが、擬似的な発声器官で他者を騙して襲って食べる種族もいるらしい。

 前途多難だな……。



 兎に角それぞれの種族と話をしてみなければ何も解らない。だから俺達は行かねばならないとワーウルフとウォールグリズリーに伝えると慌てて引き止められた。


「待ってくだされ! 我等を纏める者として……我等の主になって頂けないでござるか?」


「オラ達のような魔物には、おめぇ達のような者が必要だぁ。種族の垣根を越えて取り纏めて欲しいだよ!」


「言葉が通じるのならば対話すればいいだろう? 何故そうしない」


 俺は若干突き放し気味に言う。


「それが出来れば苦労しないでござる。今回の件で拙者達魔物は、そこに辿り着かないと解ったでござる。此方がその気でも、相手を話の聞ける状態に出来ないでござる」


「おめぇさん達はただの人族じゃないと本能で解っているだ。圧倒的な実力を持っている事も、初めから解っていただ……すんなりと話が出来る他種族なんぞ、そう居ないだろうと思う……」


 必死に縋りつくように頼むワーウルフとウォールグリズリーに、俺はなるべく優しい声色で言った。




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