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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
5章 十三番目の王
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5-15



 ワーウルフのダーヴィヒは身振り手振りも交えながら仲間に語って聴かせている。ワーウルフ達はふむふむと頷きながら真剣に話を聴いているのだが、段々と熱の入るダーヴィヒの語りにつられて白熱してる気がする。遠巻きに見ていた非戦闘要員であろうワーウルフ達もいつの間にか一緒に盛り上がっている。

 最終的に話し終わる頃には拍手大喝采……こいつらの未来が心配になってくる。ダーヴィヒの話が一段落して拍手が鳴り止んだ時、全てのワーウルフ達が一斉に俺達を見て声を揃えて言った。


『疑ってしまって申し訳ないでござる!』


 おいおい……全員ござる口調かよ。男も女も……この場合は雄も雌もか? 子供も年寄りも……子供以外あんまり見分けが付かないが、全員“拙者”で“ござる”には少し驚いた。


 子供が「せっしゃもおぬしのように、つよくなるでござるー」と言っていたのは可愛いと少し思ってしまったが、雌のワーウルフが「拙者の子供を助けて頂いて感謝するでござる」と女の声で言ってきた時は、違和感が凄かった。


 ワーウルフ達は何かをボソボソと話し合い、再びダーヴィヒが前に出てきて俺達に言った。


「失礼を承知で頼みたい事があるのでござる! 拙者達が熊を討伐に出る間、此処を護って欲しいのでござる!」


 ……おいおい。先程は緊急事態だからまだ解るが、今度はそうじゃないだろう? 会ったばかりの俺達に頼むことじゃねぇだろ?


「お主達は人族にしては強いし、良いお人だと見込んで頼みたいのでござる!」


「断る!」


「何故でござる!」


 ダーヴィヒはまた断られるとは思っていなかったのか、目を大きく開き言う。


「俺達にはウォールグリズリーを駆逐する理由が解らないからな。先程までは、蜂から護るという事だったが、今度は駆逐の手伝いになるだろう? 理由も無しに片方に手を貸す事は出来ない」


「そうだねー、理由は聞きたいよね。何で君達はウォールグリズリーを討伐したいの?」


 俺の言葉を引き継ぎ千香華がワーウルフ達に質問する。


「あの熊どもは、突然我等の狩場を荒らし始めたのでござる! 数年前までは単独で見かける程度だったのでござるが、最近になって一族総出で攻めてきたのでござる!」


「それで?」


 千香華はそれがどうしたの? と言わんばかりの返事を返す。


「それで? とは?」


 まさかそんな反応が返ってくるとは思っていないワーウルフは、どういうことだ? と聞き返してくる。千香華はため息を吐いて答えた。


「被害は? 君達の誰かが殺された? 怪我をした? そいつらが来た事で飢える者が出てきた?」


 千香華は矢継ぎ早に質問を浴びせた。ワーウルフ達は、互いに顔を見合わせて何か相談している。そして一斉に此方に顔を向けると、揃って首を傾げた。


 え? マジかよ……特に被害無いの? こいつらの真剣な表情に騙された気がする。てっきり仲間が殺されたとか、攫われたとか、食べ物を食い荒らされて餓死者が出たとか、何かあるものだとばかり思っていた。


「えっと……狩場を荒らされたっていうのは?」


 俺が聞くとワーウルフの一匹が元気良く答えた。


「あの向こうに見える山とこの草原、そして山の麓の森が拙者達の狩場でござる」


 いや、得意気に答えられても……俺が聞いている事の答えになっていないだろ?


「そこの獲物が減ったのか? お前らが食べている物をウォールグリズリーが横取りしたとか……」


 再びワーウルフ達は首を傾げる。


「そういえばあの熊どもは、何を食べているのでござろうな?」



 要領を得ないので、もう一度詳しく聞く事にしたのだが……。

 結論! 実質被害無し! ただ先祖伝来の土地に勝手に入ってきたのが許せないとの事だが、その土地というのも色々怪しくて、ただ昔から狩りをしている場所という事だけだった。

 要するに『こっからここはボクの陣地だ! 入ってくるな!』っていうだけのガキの喧嘩レベルなようだった。


「しかし、我等とて黙ってみている訳にはいかないのでござる! もしも勢力圏が広がって追い出されたら堪らないのでござる!」


 まあ……一理あるわな。『気付いたら乗っ取られてました』じゃこいつらも困るだろう。


「ウォールグリズリーも言葉は通じるんだろう? 何故一族総出で移動してきたのか聞いたら良いのではないか?」


「他の種族の者に話が通じる訳がないでござる!」


 えっと……今話している俺達は他の種族なのだが? 俺が微妙な表情をするとダーヴィヒがハッとした表情をした。


「このお方達も他の種族でござる! 話をしているでござる! これが異種族間交流というものでござるな? 時代は変わったのでござるなぁ……」


 なんか色々と駄目だわこいつ等……。


「うん! 解った。私達がウォールグリズリーと話して来るから、少しだけ待っていて」


 千香華はこれ以上此処で話していても解決しないとみて、俺達で話をしてくる事を提案する。ワーウルフ達は口々に「頼んだでござる」とか「もし戻らぬ時は我等が仇を取るでござる」とか言って送り出してくれた。



 ワーウルフ達の性格が愚直過ぎてあまりにおかしいので、設定ノート(イデアノテ)を開いて調べてみると『サムライかぶれな性格だったら面白くない?』と千香華の字で小さく書いてあった。

 こんなの反映するなよな……確かに昔の日本人はこういった性格だったと記述してある物があったが、あれは侍じゃねぇだろ! 精々SAMURAIって感じだな。





 俺達はウォールグリズリー達が居る場所として、ワーウルフに教えられた森に到着していた。


「あのメガララ・ホーネットと戦っているのがウォールグリズリーだよね?」


 森の中がやけに騒がしかったので、千香華の能力で認識を阻害し隠れながら進むと、そこには巨大な蜂の巣があり、メガララ・ホーネットとウォールグリズリー達が戦闘を繰り広げていた。戦闘というのには語弊があるかもしれない……あれはウォールグリズリー達の蹂躙だ。


 ウォールグリズリーは四メートルから五メートル程の大きさだった。その名の通り、壁のように硬く大きい体をしている。その毛皮は岩のようにゴツゴツしていて毛皮と言うよりは“外殻”と呼ぶほうが正しいのかもしれない。岩のような外殻はメガララ・ホーネットの飛ばす毒も効かず、毒針自体も通す事は無いようだ。

 スクラムを組むように一塊になって前進するウォールグリズリー達は、敵対するメガララ・ホーネットから見ればまさに壁が迫って来るように感じるのかもしれない。

 爪の一振りでメガララ・ホーネットを叩き落し、巣に近付いていくウォールグリズリー達は互いに声を掛け合いながら、一歩、また一歩とメガララ・ホーネットの巣に接近して行く。


「あっ! 到達したみたいだよー?」


 超重量の物体が壁に衝突したような音をさせ、メガララ・ホーネットの巣にウォールグリズリーの一匹が体当たりした。この場合は“壁が衝突した”と言った方が良いのだろうか? まあどっちでも良いか……。

 ウォールグリズリーの体当たりを喰らったメガララ・ホーネットの巣は粉々に砕け散った。

 その後の光景はエグかった。体当たりしたウォールグリズリーは、巣の中に居た女王蜂らしき一回り大きな個体を引きずり出し、頭を喰い千切った。

 他のメガララ・ホーネットは統率を失い、次々にウォールグリズリー達に叩き落され喰われていく。巣の中から幼虫を摘み出し、旨そうに食べるウォールグリズリーもいっぱい居た。


 ……え? あれに話しかけるの?




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