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俺と千香華はヤーマッカを呼び、これからの事を話し合った。その時にヤーマッカに詫びと礼を言ったのだが「詫びは何のことか存じ上げません。礼もそれには及びませぬ。私は執事として当然の事をしただけでございます」と返された。
俺はそれ以上何も言えなかったがヤーマッカ「そのお気持ちだけで嬉しゅうございます」と笑顔を見せて言った。
俺はここまで忠義を尽くされるほど、立派な者ではないのだがな。
「それで……どうしよっかー? 魔物は言葉が通じるけど、基本的には人を見れば襲うし、恨みを持っているから警戒されると思うよー?」
「ハイスラ殿もおっしゃってましたが、基本的に魔物同士でも種族が違えば話も聞いて貰えないと……場合によっては襲われるのが普通だそうです。あの森を飲み込むまでは苦労をなさったとか……」
うむぅ……中々前途多難のようだなぁ。同族同士で無いと警戒の対象で、場合によっては捕食もしくは排除対象になってしまうという事なのか?
「あっ! そういえばさー、昔マーロウが言っていた事を思い出したんだけどさ……寅都から外周部に向った先に、ケイが間違えられた魔物の“ワーウルフ”が生息してるって言ってたよねー?」
ああ! そんな事も言っていたなぁ……なるほど、そいつらなら俺の姿を見て少しは警戒を解いてくれるかもしれないな。
「俺の姿ならそいつらと話が出来るかも知れないって事だな」
千香華は鷹揚に頷いて俺の言葉に同意を示す。
「うんうん。少なくとも対話の取っ掛かりにはなるんじゃないかなー?」
ふむ……確かに千香華の言う通りかもしれないな。他に良い手段が見つからないし、そいつ等に会ってみる事にしよう。
取り敢えずの目的は決まった。通常は寅都アルカラまでは半年以上掛かるが、俺の足なら一月もあれば余裕で着ける筈だ。
◇
「ケイゴ様、チカゲ様……本当に行ってしまわれるのですね」
不安そうな声でそう尋ねるのはサイラスだった。
「ああ、この村はもう俺達が居なくてもやって行ける。現段階で教えられる技術も出来うる限り教えた。後はお前達の頑張り次第だ」
此処は湯幻郷にある黒神神社の境内だ。周囲には俺達が神と知っている森人と岩人しか居ない。皆目に涙を浮かべ俺達との別れを惜しんでいる。
今回の旅に同行するのは、千香華とヤーマッカそれにサライの三人だ。千香華とヤーマッカは当然として何故サライも一緒なのかと言うと、サライはもう何年も故郷であるゲーレンに帰って無い。これを機に一度里帰りを勧め今回同行する事になった。
ギルド出張所の責任者の仕事はどうするか悩んだが、どうせ月の半分アドルフが滞在しているのだ。特に問題は起きないだろう。アドルフはサライが帰って来るまで、湯幻郷に居座って温泉三昧する気で満々のようだけどな。
「じゃあ留守は任せたよー」
千香華は普段着にしていた浴衣から旅装に着替えているのだが、これまた着物に似た服装でヒラヒラしたまるで金魚の様な状態で、足元は脚半に下駄を履いている。これは移動がどうせ俺に乗っていく事を前提にしているのか? 「旅をするのに下駄はきつくないか?」と聞いたら「何言ってんのー? これは見た目だけだよ? 普段から毛皮に肉球だってばー」と言われた……そういえば千香華の本来の姿は人と同じ位の大きさの猫で、実体は変化せず【嘘と欺瞞の衣】で今の姿に見えているだけだったな。手触りも存在感も本物のようだから、たまに忘れそうになるわ。旅装としてどうなんだって事も、良く似合っているから別にいいか……。
千香華の周りは号泣する爺さんと少女が一杯だった。千香華は技巧の神として岩人に崇められていた事もあり「師匠!」「姐さん!」「チカゲ様!」と少し暑苦しい事になっている。
「ヤーマッカさんもお気をつけて……」
「ええ、あなた方もお体には、くれぐれもお気をつけてください」
実はヤーマッカは森人も岩人も関係なく結構人気があった。森人には仲間の恩人として慕われ。岩人にはその見識と審美眼が気に入られ一目置かれていた。皆心の底から別れを惜しんでいる。
ヤーマッカの格好は相変わらずの執事服だが、出会った頃にも持っていた大きなバックパックを背負っている。ヤーマッカもあの格好は服を着ているのではなく、ヤーマッカの一部だから言ってみれば全裸の様なものだ。
旅の仲間に二人も実質全裸が居るっていうのはどうなんだろうな……。
「では、アドルフさん後を宜しくお願い致します」
「なんじゃお前からそんな改まれて言われると調子が狂うのぅ……ワシは温泉三昧を楽しむだけじゃ。サライが戻ってくるまでというのが惜しいくらいじゃの。そうだ! 帰って来たらワシと配置を交換とかどうじゃ?」
「もう! アドルフ爺ちゃんは相変わらずだな! たまには真面目に出来ないのかよ! エイベルに告げ口するぞ?」
真面目に挨拶をするサライに軽口で返すアドルフ。この二人は何年経っても相変わらずだな……いや、サライは真面目に挨拶しようとしたから成長しているのか? 結局言い合いになっているからそうでもないのかもしれないが……。
サライは軽装の鎧にアドルフから譲られた青龍偃月刀を持っている。サライもオブサロリスに認められ自分のオブサロリスを腰に連れているので大きな荷物は持って無い。
サライは、今回の旅の同行者の中で唯一普通の人間という事になる。俺も千香華そしてヤーマッカも基本食事も必要が無ければ、排泄さえしない。着替えさえもする必要性が無く、睡眠もとらなくても生きていけるが……サライはそうはいかない。彼女の体調を考慮しながら進む必要があるだろう。
「そろそろ出発するぞ。サイラス、後を頼んだぞ」
俺がそう声を掛けるとサイラスは丁寧に頭を下げて言った。
「お任せください。皆様の留守は森人、岩人両種族で護ります。それと私は、この神社からケイゴ様とチカゲ様の為に祈りを捧げ、少しでも手助けになるように致します」
サイラスには俺達の神力と祈りの関係性を教えていた。だから「何があってもこの神社を護り、信仰を育てます」と言って神主になってくれた。その効果は、セトが薦めるだけあって絶大だった。
俺達が居なくなっても同じように祈り続けてくれるというのであれば本当にありがたい事だ。
「すまないな……感謝している」
「勿体無いお言葉でございます。私共はケイゴ様とチカゲ様に救われ、自由を手にしたのです。そしてこんなに素晴らしい居場所を与えて頂き、何不自由なく過ごせるのです。幾ら感謝の祈りを捧げても足りません」
笑顔で答えるサイラスに周りの皆が同意を示す。その顔は皆笑顔だった。
俺達は、大勢の者に見送られ湯幻郷を後にするのだった。




