プロローグ
久しぶりの連載です。初めましての方、久しぶりの方、アガギル・グレイン改めアルティです。
久しぶりに連載するとなってちょっと不安もありながら、わくわくしています。今までは二次創作というある意味道筋を定められていた物を連載していましたが、今回は一から全て作っていくので前作以上に頑張っていきたいと思います。
ジャンルはある意味似ていますが、前作とは打って変わってシリアスな展開になると思いますので、ご理解の方よろしくお願いします。
ではでは、どうぞ閲覧してください。
時季外れの雨で濡れたカムチャツキーの地面を、一人の女性が息を切らして走る。
その後ろには数人の黒服の男が、MP433を構えて追ってくる。彼らはFSBのエージェントでであり、必然的に女性は何かしらの機密情報を持った逃亡者であることが伺える。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
雨に濡れたアッシュブロンドを振り乱しながら走る女性、レミング・カミンスキーは息を切らしながらも狭い路地をジグザグに走って追っ手を撒こうとするが、さすがのエージェントも伊達に鍛えていない。体力に任せて速度を上げ、女性を捕まえようとする。
対して女性はすでに限界が近かった。今までずっと牽制射撃を加えられながら追われている。ずっと神経が張り詰めているので体力もいつもの数倍速い速度で無くなっていく。
だが、決して走るのをやめようとしない。苦労を重ねた末に手に入れた機密は軍人として人として許容していい物ではなかった。何とかしてでもどこか信頼できる場所に持って行かなければ……
何度路地を曲がったか分からないまま走っていると、不意に男達の怒声が響き渡る。雨音が邪魔ではっきりと聞き取れないが、どうやら追っ手はレミングを見失ったようだ。
少しの間だけ休憩できると判断したレミングは、物陰に隠れて携帯端末を取り出す。
「ハァ……ハァ……合流予定ポイントまであと少しか。この市場を抜ければなんとか……」
物陰から慎重に顔を出して眼前に広がる市場の配置を確認する。市場にはその日に揚がった魚などを置く台があるがほとんど腰より下の低い台しかなく、遮蔽が取れそうにない。迂回しようにもこれ以上時間をかければ、追っ手が増える可能性もある。
一直線に突っ切って、合流ポイントの近くまで来れば仲間が何とかしてくれる……そう信じ込んで、レミングは物陰から飛び出した。
「いたぞっ!?」
大通りを見渡していたエージェントがレミングを発見し、すぐさま牽制射撃を加える。それに臆せず、レミングは市場を突っ込んでいく。
後ろから銃弾が飛び交い、逸れた弾が周りの木箱を削る。その破片が飛んでくるが、意も介さずレミングは疾走する。
広い市場をようやく抜けようとした時、出口に三人の男がPP-2000を構えて待ち伏せしていた。手に持っているサブマシンガンはレミングをいとも簡単にズタボロにできる代物である。強行突破しようと速度を上げようとした時、足がもつれたのか体勢を崩して前のめりに転びそうになる。それを好機と捉えたエージェントの一人がサブマシンガンを背負って捕まえようと前に出る。
しかし、次の瞬間体勢を崩したかと思われたレミングは起き上がりの反動を利用して、男の顎に鋭いアッパーを打ち込んで倒してしまう。呆気にとられた他のエージェントはレミングが横を通りすぎてからようやく我に返り、サブマシンガンを撃とうとするが地面に転がった手榴弾を見て慌てて退避する。通り過ぎる際、レミングが手持ちで最後の手榴弾を置き土産に置いていったのだ。
何とか港口に出られたレミングはひたすら走り続ける。すでに持っている拳銃は弾切れ、手榴弾も先ほど使い切った。残るは自らの肉体のみ……だが、その肉体すらもうすぐ限界を迎えようとしている。精神は疲れ果て、体中が悲鳴を上げている。しかしレミングは合流予定ポイントで待っている仲間を信じて走り続ける。
後ろからは追っ手も増え、ある者は拳銃を撃ちながらレミングを追い、ある者は足を止めてサブマシンガンで牽制する。遮蔽物のない港口部で行われているこの逃走劇はレミングの確保で終わりを見せたかと思われたが、終末は劇的な展開を見せた。突然レミングの前方から弾丸がエージェント達に襲いかかってきたからだ。
「くっ、売国奴共め!?」
「こうなったら仕方がない! 殺してでも止めろ!」
横に広がる海からはいつの間にやってきたのか、小型の潜水艇が停泊しており、何人かがレミングを助けるために応戦している。火線を集中して、いよいよレミングを殺そうとしたが時すでに遅し……飛び込むかのようにレミングは潜水艇にジャンプし、中に収容された。すぐに潜水艇は潜行を開始し、この場を離れようとする。それをエージェント達は手持ちの火器で何とかしようとするが、潜水艇の装甲の前ではそんな物は豆鉄砲に過ぎなかった。
「ちっ……」
「気を落とすな。すぐに海軍に連絡して、対応に当たらせろ」
「了解です」
エージェントの中でリーダー格の男は、気落ちする部下をなだめながら冷静に指示を出していく。
ここから逃げるのであればアラスカか日本のどちらかに辿り着くだろう。そうなれば対応するのは極東方面軍だ。太平洋でアメリカ軍とやり合っている彼らであれば、小型潜水艇ぐらい簡単に撃墜できるだろう。
だが、もし撃墜できなかった場合、持って行かれた機密があまりにも損失が大きいため、下手すればここにいる全員の首が吹っ飛ぶ可能性がある。
「……明日の我らの勝利がこんな事で消えてたまるか」
雨が降りしきるカムチャッキーの街で、男が苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべて吐き捨てた。
この日、極東方面軍は所属不明の小型潜水艇を補足。機雷や対潜ミサイルで撃墜しようとするが失敗し、取り逃がす失態を犯した。なおこの所属不明の潜水艇は今現在どこにも漂着してない。
2030年……世界は戦争で追われていた。二十一世紀に入ってから立ち続けに起こった紛争をきっかけに、ロシアとアメリカの関係は修復不可能なほどに悪化していた。そして、2027年にアメリカ軍が演習中に誤って哨戒中だったロシア軍戦闘機に攻撃してしまったことを発端に、米露戦争……第三次世界大戦が勃発した。世界を巻き込んだ戦争は三年に渡り、各地で今も激しい戦闘が繰り広げられている。
そして、この物語は一人の軍人がある女性と出会うことによって始まった、苦悩と儚い希望を垣間見る未来の戦記である。