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厨二病か脳筋か。それが問題だ  作者: 椰子ふみの


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転生しました

「なぜ、できない。マクシミリアン。まさか、手を抜いているわけじゃないだろうな」


 父に叱られるのは初めてだった。人に厳しい父だが、いつでも、僕には優しかった。何をしても、「さすが、我が息子」と褒められた。


「ザーク、きちんと教えたのか?」


 怒り狂う父の言葉にも魔術師ザークは怯まなかった。ザークは王宮魔術師のエリート、立場は父より上だと思っているせいか、傲慢な態度を崩さない。


「私が手を抜いたとおっしゃるのなら、正式に抗議させていただきます。単にマクシミリアン殿に才能が無いだけです」

「マクシミリアン! もう一度、やってみろ」


 父に怒鳴られ、僕は深呼吸した。

 母も見ているから気負いすぎたのかもしれない。

 普通、貴族は八歳で初めての魔法を習う。幼いうちに習うとコントロールできないことがあり、危険なためだ。

 しかし、フィッシャー家では幼少期から英才教育を行うのが当たり前だった。父も五歳で軽々と火を操ったという。だから、その血を受け継いだ僕も簡単にできるはずだ。

 体に流れる魔力を意識する。魔力量は多いとザーク先生に言われている。前へ手を伸ばす。炎よ、生まれろ!

 そう願っても、何も起きない。

 嘘だ。僕は由緒あるフィッシャー家の嫡男。できないはずがない。

 炎よ。


「炎よ」


 必死に願っていたせいか、思わず、漏れてしまった言葉。その言葉と共に指先に小さな炎が生まれた。


「父様、できました!」


 喜んで報告した僕の体は次の瞬間、吹っ飛んでいた。父に蹴られたからだった。


「と、父様」


 僕を見下ろす父の目は冷たかった。


「詠唱だと。我が侯爵家からこのような能無しが生まれるとは。ああ、情けない。おまけにそんなちっぽけな炎しか生み出せないとは。恥ずかしい」


 そう、この世界では魔法は無詠唱が当たり前。呪文を唱えるような無駄なことをするのは底辺の魔術師だ。

 僕がそんな底辺だなんて。嘘だ。嘘に決まっている。

 父の冷たい目から逃れるように母を見た。母は両手を握りしめ、ブルブルと震えながら、首を振った。


「お前は誰? 私のマクシミリアンをどこにやったの。わかりましたわ。妖精の仕業ね。誰か、お願い。取り替えられた私の子を取り戻して」

「母様、僕は本物のマクシミリアンです。母様」


 呼んでも、母は首を振るだけだ。取り乱した様子なのにその目は冷静なのに気づいた。わざと嘘を言っている。

 能無しの息子はいらないが、息子を捨てた母にはなりたくない。だから、本物の息子じゃないということにしようとしている。


「妖精の仕業か、魔物の仕業か。マクシミリアンを奪った罪は許せん」


 父が剣を抜いた。

 ああ、僕を闇に葬るつもりだ。ただ、魔法に呪文を使っただけで。仕方ない。期待に応えられない僕が悪いのだ。それにしても、普通、無詠唱で魔法を使うのって、チートな主人公だけで、普通はみんな呪文を唱えるんじゃないのか。

 ん、チート?


「うっ」


 頭の中に膨大な情報が流れ込み膨れ上がる。日本で生まれ育った小林雅夫の人生の記憶。それは最後、ブラック企業で残業中に途絶えている。

 ああ、俺はあの時に死んで生まれ変わったのか。

 昔、厨二病だったせいか、かっこいい呪文に憧れていたのに無詠唱が当たり前の世界に生まれ変わるなんて、ついてない。

 しかも、実の父に殺されるなんて。モブだな。

 そう思ったのに。

 キーン。父の剣が跳ね飛んでいく。


「自分の息子に何をする」


 僕の前で剣を構えているのは叔母、父の妹のアレクサンドラ・ベリタス伯爵夫人だった。

 伯爵夫人と言っても、辺境騎士団の一員のため、父が田舎者、乱暴者と馬鹿にしている女性だ。王都に寄った帰りに父に挨拶に来ていたが、僕が初めての魔法を使うということで見学していた。


「魔法もまともに使えない子など、私の子ではない」


 父が言い切った。


「そう言って、切り捨てようとするなど、許されるとお思いか」


 ザーク先生が俺に向かって手をかざすと、あっという間に痛みが消えていく。おお、治癒魔法だ。


 「わかった。許されることならいいんだな」


 ザーク先生の手前、まずいと思ったのか、父は闇に葬る線は諦めたらしい。その代わりに宣言した。


「マクシミリアン、今すぐ、この屋敷から出て行け」


 そう言えば、プライドの高いマクシミリアンは自殺するとでも思っているのだろうか。


「兄上!」


 ベリタス伯爵夫人が声を上げるが、父はそれを無視して、屋敷の使用人たちに声をかけた。


「この子どもをつまみ出せ」


 使用人たちは俺を猫可愛がりしていた父の突然の変化についていけず、顔を見合わせた。その間にベリタス伯爵夫人は俺の前にしゃがみ込み、手を差し出した。


「追い出されたら困るだろう。私と一緒に来ないか」

「ははは、いいぞ。田舎で使い倒すなり、何なり、好きにすればいい」


 父が笑った。俺がベリタス伯爵夫人についていくわけがないと思っている。

 前世の記憶が戻るまでは馬鹿にしていた相手だ。ただ、戻った今ならわかる。ベリタス伯爵夫人には非がない。おかしいのは自分の親の方だ。


「よろしくお願いします」


 俺はベリタス伯爵夫人の手を握った。


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