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私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~  作者: MARUMI
建国祭編

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謝罪の理由

 迎賓館の宿舎に戻ると、胸の内にあることを伝えたい相手がいた。


 墓所へ行けたこと。

 皇太后から茶会に誘われたこと。

 ハルに全部、きちんと話したかった。


 私か彼の部屋へ向かおうと廊下を進み、角を曲がった、その瞬間。


 ――バンッ


 勢いよく飛び出してきた誰かとぶつかった。

 目を開くと、ぶつかった相手はリュシエルだった。


「あ……っ」


 彼女の髪は少し乱れ、きちんと結ばれていたはずのリボンがほどけかけている。

 ドレスの襟元も、どこか慌てて整えたようだった。


「ご、ごめんなさい!」


 その声は高く、どこか切羽詰まっていて。


 一瞬だけ、彼女の視線が私を射抜く。

 そこに浮かんだ感情を、私は読み取れなかった。


「大丈夫ですか?

 お部屋までお送りしますか?」


 思わず、そう口にしていた。


「結構です!」


 被せるように拒絶される。


 彼女はそれ以上何も言わず、足早に廊下を去っていった。


 残されたのは、静まり返った廊下。


 この奥には、ハルの部屋しかない。


 胸の奥で、何かが、音を立てて沈んだ。


 (もしかして……そういうこと?)

 

 ハルだってそういう年頃だ。

 確か若い男は狼だってサーシャも言っていたっけ。

 でも、いくら婚約者候補と言っても、出会って間もない女性と、そういう感じになるものなのだろうか。


 (私とはそういうのは無かったけど……)


 何となく今、彼の部屋を尋ねるのは違う気がして、私は踵を返し、何も言わないまま、その場を離れた。


 伝えたいことは、たくさんあったはずなのに。

 そのどれもが、今は無意味な気がした。



――――――――


 自室に戻ると、サーシャが笑顔で出迎えてくれた。


「セラ様!実は……下見だけのつもりだったのですが、セラ様にピッタリなネックレスを見つけてつい買ってしまって!」


 サーシャが差し出してくれたのはネックレスは華奢な金のチェーンで、それだけでも可愛らしいものだった。


「その!勝手に買ってすみません!

 ただ、セラ様に喜んで欲しくて!」


「ありがとう!とても嬉しい!

 いただいていいの?」


「はい!もちろん!」


 彼女の気持ちに心が安らぐ。

 虚無感でいっぱいだった胸に温かさが広がっていくのを感じた。


「早速付けてみていいかしら!」


 サーシャとノア、今の私を支えてくれる二人からの贈り物を見に纏うと、何だかそこに湯たんぽでもあるように……心が温まるのを感じた。


 その夜、私は机に向かい、一通の手紙をしたためた。


 ――墓所へ行けたこと。

 ――皇太后陛下から正式に茶会に招かれたこと。


 今の私たちの関係がどうであれ、

 やっぱり、ハルにちゃんと伝えたかった。


 それが今まで良くしてくれた彼へのケジメだと思った。


「こちらを、王太子殿下へお渡しください」


 翌朝、私は彼の従者にそう頼んだ。

 封をした手紙を受け取った彼は、一瞬だけ迷うような顔をしたが、やがて深くうなずいた。


 これでよかった。

 私は、私にできることをした。


 私は胸元の指輪にそっと触れる。

 そうする勇気をこの指輪から貰えた気がした。


 そうして部屋に戻ると、思いがけない誘いが届いた。


 リュシエルからの手紙だ。

 昨日のお詫びにお茶の席を設けたい、と。


 一瞬、胸がざわついたが、断る理由も見当たらなかった。


 その日の午後、案内されたのは、迎賓館の中でも特に静かで小さなサロンだった。

 窓辺には秋桜が生けられ、午後の光が柔らかく差し込んでいる。


「お時間をいただいて、ありがとうございます……」


 リュシエルはそう言って、控えめに微笑んだ。

 昨日の印象とは違い、今日はどこか気弱な小動物のようで、視線も伏せがちだ。


「いえ……こちらこそ」


 席に着き、紅茶が注がれる。


 しばらくは当たり障りのない会話が続いたあと、彼女は意を決したように口を開いた。


「……あの。突然こんなことをお聞きしてしまって、ごめんなさい」


 彼女は指先をきゅっと重ね、小さく息を吸う。

 その姿は、守ってあげたくなるような、か弱い姫そのものだった。


「セラ様とハルシオン殿下は、その……。

 どういう関係なのですか?」


 彼女の質問に一瞬、思考が止まった。


 まっすぐで、無垢な問い。


 きっと、昨日にハルとそのような関係になり、私に対して申し訳なく思ったのだろうか……。

 それとも、私を牽制する為なのか、私には計り知れなかった。


 だけど、今の私ができることは"否定"だろう。


「殿下とは、恋仲ではありませんよ」


 それは、嘘ではなかった。

 身分的にも、立場的にも、そうとしか言えなかった。


 その返事を聞いてリュシエルは、ほっとしたように微笑む。


「……よかった」


 そして、少しだけ身を乗り出した。


「実は……私、その……ハルシオン殿下のことが初めてお会いした日から好きで……」


 彼女の言葉に胸が、きゅっと縮む。


「殿下はとてもお優しくて……でも、きっと、セラ様を大切に思っていらっしゃるのだと思って……」


 その言葉に、私は何も返せなかった。


「もし……よろしければ、協力していただけませんか?」


「……協力、ですか?」


「はい。セラ様が殿下を想っていないと分かれば、殿下も、きっと……」


 その先は言葉にされなかった。

 けれど、十分すぎるほどに伝わる。


「……私にできることでしたら」


 気付けば、そう答えていた。

 というより、そう答えるしか無かった。


 その後の彼女は、気を許したのか、急に饒舌になった。

 この数日間での二人の逢引や、ハルの些細な優しさや言葉まで聞かされた。


 ――お似合いだ、と思ってしまった。


 私みたいに可愛げの無い女よりも、リュシエルのような可憐で守ってあげたくなるようなか弱い女性のほうが、一緒にいて癒されるだろう。

 

 私みたいな、悲壮感満載で過去が重くて、訳ありな女を選ぶ男の人なんて居ない。


 そう思うと、胸の奥が、ずきりと痛んだ。


 思わず、胸元に手を当てると、指先が衣服の下に忍ばせた指輪に触れる。


 触れた瞬間、ふっと、温もりが広がった気がした。


 冷えきっていた心に、静かに灯がともるように。


 ――大丈夫ですよ。


 ノアにそう、囁かれた気がした。


 私は深く息を吸い、視線を上げた。


 リュシエルは相変わらず、愛らしい微笑みを浮かべていた。

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― 新着の感想 ―
ずっと考え無しにリアクションだけしてるので、間違いの選択を繰り返してる。
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