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私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~  作者: MARUMI
建国祭編

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パレード

 皇宮に続く大通りには旗が翻り、色とりどりの花弁が風に乗って舞っていた。


 空は高く、澄み渡る青。祭りの熱気に押されるように、風さえも陽気に吹いている。


 私とハルが乗る来賓馬車がゆっくりと動き出すと、大通りは待ちわびたように歓声に包まれた。


「すごい……」


 思わず息を呑んだ。

 道の両側には、果てが見えないほどの人。


 煌びやかな衣装を身にまとった貴族や富裕層、そして、家族連れ、子どもを肩車した父親、帝都の商人、地方から訪れた農民。


 誰もが手に小さな帝国旗を振りながら、笑顔で声を張り上げている。


「建国祭、おめでとうございますー!!」


「皇帝陛下ばんざーい!!」


「皇太后陛下ー!!」


 皇族の馬車が先に姿を現すと、熱狂はさらに増した。


 その光景を目にしながら、私は胸の奥が熱を持つのを感じていた。


(――ここは、私の“居るはずだった場所”)


 本来なら、私も皇族の列に並んでいたはず。

 帝位継承権の順位は低くても、皇女としてこの日を祝う役目を持っていたはず。


 民に手を振る皇太后の姿が揺らぐ。

 あの手は、幼い日の私の髪を何度も撫でてくれた手。


 でも、今の私は――エルダール王国の“セラ”。

 エリシアとしての居場所は、もうどこにもない。


 胸がきゅっと痛む。


 けれどその瞬間、ハルがそっと私の手の上に自分の手を重ねた。

 視線を向けると、彼はわずかに口角を上げ、小さく囁く。


「顔を上げろ。…見られているぞ」


 その言葉に、はっと我に返る。


 馬車の前方から、観客の視線が流れ込んでくるのが分かった。

 驚き、尊敬、好奇心。

 そして時折混じる、憧れを含んだ視線。


「見て、あの人……!」

「あ!あの本の!王子様と聖女様?」

「エルダール王国の人なんでしょう?すごく綺麗……」

「エルダールの王太子殿下だ!本当に美しい…!」


 本の影響からか、隣にいる美しい彼の影響か。

 私達に声をかけ、手を振ってくれる国民は思った以上に多かった。


 特に、身分関係なく女性からは熱い視線と歓声が届く。

 けれど当の本人は、彼女たちの視線など意にも介さない。ただ、静かに私の横で言葉ひとつなく寄り添っていた。

 ――まるで「ここにいる」と伝えるように。


 ぶっきらぼうで無愛想な人なのに、こうして人混みの中ではそっと庇うようにしてくれる。

 そのさりげない仕草が、胸を温かくする。


 パレードはゆっくり進む。

 音楽隊のファンファーレが華やかに響き、花弁が舞い、陽光が宝石のように馬車を照らしていた。


 馬車は大通りを抜け、凱旋門前へと向かう。

 その先では、“来賓客”が国民に紹介される広場がある。


 私は少しだけ深呼吸をした。


 私の顔を知らない帝国の民たちが、

 “聖女セラ”として私を歓迎してくれる。


 だけど、私は――

 本当は帝国の皇女だ。


 そんな複雑な胸のまま、私は微笑みを浮かべた。


 せめて今だけは、

 この国の未来を祈る“聖女”として、胸を張ろう。


――――――――――


 パレードの後、夕刻には祝宴が開かれていた。

 迎賓館の大広間は、昼とはまるで別の顔を見せている。


 天井から吊るされた無数の燭台が淡い金の光を落とし、磨き上げられた床にはその光が波紋のように揺れている。


 香の匂い、絹擦れの音、控えめな笑い声――

 すべてが整えられた、完璧な社交の空間。


 私はハルの隣で、グラスを手にその様子を眺めていた。


「……疲れたか?」


 小さく囁かれ、首を横に振る。


 パレードが終わって、息をつく間も無くこの祝宴の準備に入った。

 疲れていないかと聞かれれば嘘になる。

 だけど、それは皆同じ。


「大丈夫!」

 

 だが、体力的にでは無く気疲れはしていた。

 帝国貴族達の無数の視線が、はっきりと私を値踏みしているのが分かる。


 ――聖女セラ。

 エルダール王国の象徴となった者。

 だけど、帝国にとっては“ただの庶民”。


「あの美しいおふたりはエルダールの?」

「本の通りだわ」

「本当に……まるで挿絵のよう」

「でも、所詮は平民でしょう?」

「どんなに持て囃されても、生まれがねえ」


 聞こえないふりをする。


 私にだってプライドや自尊心がゼロな訳では無い。

 本当の私、エリシアは帝国貴族からそのような言葉を浴びる人間では無いだろう。


 だけど、今の評価はこれが全て。

 貴族社会では何よりも爵位や家柄、血統がものを言う。


 それが何だと言うのか。私には理解できない価値観だ。

 だけど、そんな身分の為に私は全てを奪われたのだ。


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