表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~  作者: MARUMI
建国祭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/139

私の大切な人

数日後――


 建国祭を告げる鐘の音が、遠くでかすかに響いていた。


 祝祭の気配は、この迎賓館にまで満ちてきている。


 鏡の前で、サーシャが私の髪を丁寧に結い上げていく。

 淡い空色のドレスの裾が静かに揺れ、胸元には金色の小さな宝石が光っていた。


「……本当にお綺麗です、セラ様。まるで伝説の聖女みたいで」


「ふふ……褒めすぎよ」


「いえ、本心です!セラ様はもっと自信をお持ちください!

 今日は全帝国民がセラ様に夢中になりますよ!」


「……聖女への憧れを壊さないように努力するわ」


「もう~!セラ様ったら謙遜しすぎです!」


 サーシャは勢いよく頬を膨らませ、それからふと思い出したように声を弾ませた。


「そういえば!先日いらしたアルヴェイン公爵様は、もういらっしゃらないのですか?」


 そういえば、サーシャはキースが来た時にノアに会ったのだ。

 彼女に他意はないのだろうが、彼について話すのは、どうしてか胸がざわつく。


「分からないけれど……忙しい方だから」


 私の返事に、サーシャは素直に肩を落とした。


「そうなのですね!帝国の公爵様って、もっと恐ろしい感じかと思っていましたが……あの方はとても穏やかな方ですね!

 殿下より美しい人なんていないと思っていましたが……殿下が“白銀の月光”なら、公爵様は“淡金の星明かり”みたいです!」


(……言われてみれば、確かに)


 ハルとノアはどちらも“綺麗な人”とだけど、纏う空気はあまりに違う。


「サーシャ、本当によく見ているわね」


「当然です!私だって年頃の乙女ですから!」


 今年十八歳のサーシャは、いつ結婚の話が出てもおかしくない年頃だ。


「ふふ、いい人がいたら教えてね」


「もう!セラ様のお側にいると目が肥えてしまって困るんですよ!

 ちなみに……セラ様は殿下と公爵様、どちらがお好みなんですか?」


「っ……!」


 反射的に顔が熱くなる。

 そんな質問を私にできるのは、世界でサーシャだけだろう。


(どっちが……好き?)


 ハルは確かに美しくて綺麗でかっこいい。

 だけど、私が好きなのはあの不器用な優しさと、隣にいるとほっとできる安心感だ。


 それなら、ノアは……。

 彼の声を聞くだけで、胸の奥がふわりと浮く。

 落ち着かなくて、なのに温かくて……


「セラ様もそんな顔をされるんですね!」


「そんな顔?」


「恋する乙女の顔です!今、誰のことを考えていたのですか?」


 誰って…ハルとノアのことを考えていたけれど、そんなこと言えなかった。


 口ごもったその瞬間。


「――誰が“恋する乙女”だって?」


 低い声が部屋に響いた。


 振り向くと、ハルが少し不機嫌そうに立っている。


「あっ、殿下!乙女の恋話を盗み聞きなんて、最低です!」


「騒ぐな。不敬罪に問うぞ」


「できるものならどうぞ!セラ様が止めてくれますけど!」


「……セラは関係ない」


 2人のやり取りに、思わず吹き出してしまう。

 神殿で怯えて暮らしていた私たちは、もうどこにも居ない――

 そんな当たり前の幸せが、胸に広がった。


 悩みも上手くいかないこともたくさんある。だけど、今、笑い合える相手が居てくれる。それだけで、こんなにも温かい気持ちになれる。


「二人ともありがとう」


 私の言葉に二人が不思議そうにしたが、それでも笑い返してくれた。


「そろそろ行くぞ。キースが馬車で待っている」


「はい!」


 ハルが差し出した手を取る。

 その手はいつもと同じ温かさで、指が触れた瞬間、不安が少しだけ消えた。


 いよいよ建国祭だ。


 緊張するけれど、私の大切な人たちがそばにいてくれる。

 だからきっと、大丈夫。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ