表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~  作者: MARUMI
恋慕編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/188

彼女の隣

side ノア

⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆


 幽閉先の北の棟で皇帝陛下の姉であるサラが自死。

 第一発見者はエリシア皇女殿下。


 その報せが届いたのは、宮廷に着いてすぐのことだった。


 ノアはすぐに現場へと向かった。


 石造りの廊下は冷え、足音がやけに大きく響く。


 扉の前に立つと、近衛が敬礼した。


 部屋は静まり返っている。


 窓辺の椅子に、サラは座ったままだった。


 血の気ない穏やかな顔に、毒の小瓶。


 何があったかは一目で分かる。


 そして、そこから少し離れた位置に、エリシアが立っていた。


 背筋を伸ばし、表情を崩さず、まっすぐ前を見ている。


 泣いても、震えても、目を背けてもいない。

 何にも動じないその姿は完璧な皇女の姿だ。


 だが、親しくはないにしろ、関係性のある人の死を目の前にして、この冷静さ。


 以前の彼女なら、少しは動揺していたはずだ。


 何がここまで、彼女を強くしてしまったのか。

 ノアは心が痛むのを感じた。


「殿下」


 ノアが一礼すると、彼女はゆっくりと振り返った。


「アルヴェイン公爵、早朝からお疲れ様です。

 今朝、サラ様から手紙を受け取って訪ねた所、既に息を引き取られておりました」


 感情のこもっていない淡々とした口調。


「恐らく自害なされたのだと思いますが、何者かが毒物を持ち込んだはずです。

 警備体制の確認と、毒物の入手経路を洗ってください」


「はい」


 なんの異議もない完璧な命令に即答したが、視線は彼女の表情を探る。


「殿下にお怪我は」


「無いわ」


 その返事に以前のような気安さはない。


 いつからか彼女は、ノアに何も預けなくなってしまった。


 弱さも、迷いも。


「殿下に怪我がなくて良かったです」


 ノアの言葉に、彼女はほんの少しだけ目を細めた。

 まるで傷ついたような懐かしむようなそんな表情。


 けれど、それも一瞬で消える。


「私は大丈夫です。

 それよりもやるべき事を優先してください」


 感情よりも責務。

 当たり前の言葉だ。


 だけど、心配すらもさせて貰えない拒絶に、胸のどこかが冷える。


「承知しました」


「では、私は陛下の元に報告に行ってまいります」


「……無理はなさらぬよう」


 ノアの言葉に、彼女はわずかに微笑む。


「ありがとう。

 でも、無理はしていないわ」


 静かな声に、手を伸ばしても届かない高さの壁を感じる。


 エリシアは部屋の奥にいるカインに声をかけた。


 親族を亡くした彼を思いやるような表情。

 

 彼がこの場にいるということは、早朝から彼女と執務室に居て、共にこの場に来たのであろう。


 そこは、かつて自分がいた場所。


 見ていられなくて、視線を逸らす。


 彼女が遠い。


 同じ皇宮内で同じ事件を前にしているのに。

 何も共有されない。

 心配すらさせて貰えない。


 それが辛かった。


 数日前、皇太后の事件について、ドゥーカス家の処分が決まった後に、エリシアが皇帝に直談判し、カインを守ったと聞いた。


 子爵位への降格で済んだのは、皇女の保証があったからだと。


 かつて、自分を攻撃した家門に対しての施し。

 慈愛に満ちた彼女らしい行動だと思った。


 そこに嫉妬しているわけではない。


 ただ、同じ従者の立場だったカインは守られたのに、自分は何も聞かされず、相談も事前の言葉もなく、ある日突然、配置換えされた。


 彼女が皇位継承権を手放したのだから、アルヴェイン公爵家の者として、皇子につくのは当然のこと。


 頭では分かっている。

 だけど、心にモヤモヤとした黒い感情が渦巻いた。


(私は、彼女の何だったのか?)


 その問いが頭から離れなかった。


 仕方がないことなのは分かっている。

 だけど、たった一言、相談して欲しかった。

 せめて、彼女の口から直接聞きたかった。


 勝手に、そうしてもらえるだけの信頼関係が築けていると、そう思い込んでいた。


 ノアは拳を握る。


 感情を表情に出さないように耐えるのに必死だった。


 彼女を守りたいという思いは変わらないのに、自分がアルヴェイン公爵家の者である限り、彼女のそばにいられない。


(一体、どうするのが正しかったのだろう)


 現場検分を終え、廊下に出たとき、胸の奥に重いものが沈んだ。


 北の棟の窓からは、灰色の空が見える。


 季節は夏に向かっているのに、ここには冷たい風が吹いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ