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私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~  作者: MARUMI
建国祭編

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共闘

 side ハル

 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆


 夜会が終わっても、皇宮はすぐには静まらなかった。


 大広間を出た回廊や控えの間では、小声の会話が幾重にも交差している。


「本当に生きていたとはな……」

「帝国もこれで安泰だな」

「今、この時期に皇女の帰還を公にするということは皇太子に任命するつもりか」


 どの声にも、驚きと警戒が混じっていた。

 祝意を装いながらも、各国はすでに次の一手を測っている。


 ――外交とは、そういうものだ。


 ハルは壁際に立ち、グラスを傾けながらその様子を眺めていた。

 エルダールの王太子として、今夜すべきことは終わった。

 いつもなら、リラックスして隣にいるエリシアと話していたけれど、今はもう遠い存在だ。


 視線の先には、いまだ人の輪が途切れないエリシアの姿があった。

 先日まで“セラ”として静かに佇んでいた彼女が、今は堂々と皇女として立っている。


 その姿を見て、胸の奥が、少しだけ痛んだ。


 誇らしい。

 だが同時に、寂しい。


「……見事な夜ですな、ハルシオン殿下」


 声をかけてきたのは、他国の王族だった。

 ハルは即座に微笑を貼り付ける。


「ええ」


「皇女の帰還。

 これは帝国にとって、大きな意味を持つでしょうな」


「同感です。――そして、我が国にとっても」


 その言葉に、相手は意味ありげに笑った。


 そう。

 エリシアがエルダールで生き延びた事実は、すでに“外交の材料”になりつつある。


 帝国はきっと、感謝と友好に何かを示すだろう。

 援助、同盟、あるいは……別の形で。


「殿下」


 従者が控えめに声をかけてくる。


「各国使節より、面会の打診が増えております。

 特に、北方連盟、そして帝国周辺の諸外国が……」


「だろうな。……順番に対処していく」


 そう言って軽く手を振ると、従者は安堵した顔をして下がった。


 ハルはグラスを置き、ふと視線を逸らした。


 その先に立っていたのは、ノアだった。


 相変わらず、柔らかな微笑を浮かべながらもその視線は獣のように鋭い。

 誰に対しても隙を見せず、皇女の少し後ろで控える姿は、完璧な“帝国の盾”だ。


 ――けれど。


(あいつ、少しも休んでない顔だな)


 分かるのは、同じ立場に立ったことがあるからだ。

 夜会の喧騒の中で、ノアだけが別の戦場に立っている。


 皇女を守るため。

 帝国を守るため。


 ハルは小さく息を吐いた。


(エリシアは……まだ気づいてない)


 だからこそ、胸がざわつく。

 彼女の隣に立つ資格を、誰が持つのか――そんな話ではない。


 壊れかけている人間を、彼女が、放っておけるはずがないからだ。


 いつか彼女もあの危うさに気付く。そしてその気持ちにも気付くだろう。

 その時、二人がどうなるのか……。

 そんなことを考えても仕方無い。


 もし、仮に公爵がエリシアを傷付けるような判断をするなら、その時は――遠慮なく奪いに行く。


 やがて、夜会の解散が告げられる。

 客人たちはそれぞれの思惑を胸に、皇宮を後にしていった。


 ハルは回廊を歩きながら、従者に静かに告げる。


「――予定通り、帰国は延期する。

 理由は、帝国との友好強化。

 形式はいくらでも整えられるな?」


「承知しました、殿下」


 この夜、帝国は皇女の帰還を宣言した。

 そして同時に、ハル自身も決めたのだ。


 ――この先に続く道を、

 彼女と、あの男と、共に進むことを。




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 作者のつぶやき


 いつもお読み下さりありがとうございます!

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 この話をもちまして、建国祭編は終わりです。

 次の話からは真相究明に向かう探訪編に入ります!

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