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三年越しの再会は甘く切なく突然で  作者: 陽ノ下 咲


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5.三年越しの君の姿は(カイル視点)

※五話は、四話の続きで、『1.その日、私は一人で生きる決意をした』『2.三年越しの再会に』の時間軸の、カイル視点を書いた話です。


ミラ・リース

十八歳。薄茶の髪と空のような青い瞳を持つ魔道具屋の娘。幼くして父を亡くし、最愛の母も十五歳で亡くし、今は一人で魔道具屋を切り盛りしている。芯の強い優しい性格。


カイル・ベイン

二十歳。黒髪短髪の勇者。鋭い金の瞳と鍛えられた体を持つ。一度魔王討伐に失敗し、幼児化と昏睡を経験し、その時にミラに命と心を救われ、恋に落ちた。不器用な性格だが、ミラを想う気持ちは誰よりも強い。


勇者パーティーメンバー

リサ:長い黒髪、黒い瞳の、大胆で茶目っ気のある弓使いの女性。髪は後ろで一つに縛っている。

メル:金髪ボブヘア、黄緑の瞳の、真面目で清楚な僧侶の女性。

アーロン:鳶色の髪、焦茶の瞳の、冗談好きで素直な剣士の男性。

ノア:青い髪、漆黒の瞳の、冷静で無口で、意外と仲間思いな魔導士の男性。


 魔王討伐を終えて国に戻る道すがら、俺は真っ先に、半ば祈るような気持ちで、調査員にミラのことを調べてもらっていた。

 生きている事はブローチで確認出来てはいたが、彼女が今どうしているのかをいち早く知りたかった。


 幸せに暮らせているのか、誰かと結婚してしまっていないか、彼女が今、どう言う状況にあるのか。

 生きて彼女の元に帰れるとなった今、それを知りたくて堪らなかった。


 正直、怖かった。あんなに素敵な彼女のことだ。きっと周りがほっておかない。

 けれど、もし彼女がもう誰かの妻になっていたら、笑顔を向ける相手が俺じゃなかったら、もう俺はどうすればいいのか分からなかった。


 報告を受け取った瞬間、胸の奥が一気に熱くなった。

 ミラはまだ独りで、あの小さな薬屋を継いでいるという。母親の遺した店を大切に守りながら、日々、人々を癒しているらしい。

 全身の血が沸き立つようだった。何を置いても一番に彼女のもとへ行きたかった。


 けれど、勇者としてまず果たすべき義務がある。俺は王城へ戻り、討伐の報告を済ませる必要があった。


 再び訪れた謁見の間。

 だが、そこに立って感じる気持ちは、以前とは何もかもが違っていた。


 勇者である俺を中心に、誰一人欠けることなく全員が並び、王の前に立つ。

 あのとき、もし一人でも倒れていたらーー、ミラの声を思い出せなかったら、ここには立てなかっただろう。


 「魔王、討伐完了いたしました」


 その報告をした瞬間、王も王妃も深く頷き、涙ぐんでくださった。

 そして王女、エメラルド姫が俺たちの方を見て、震える声で言った。


 「……ご無事で、本当に……良かったです」


 あの穏やかな姫が涙を流して喜んでくれる姿に、俺は胸が詰まった。

 けれど同時に、その涙は俺のものではないと知っていた。

 エメラルド姫の視線は、俺の隣に立つノアに向けられている。


 王からの報酬として、爵位の授与と勇者の称号、そして姫との婚姻の申し出があった。

 だが、俺は静かに首を振った。


 「陛下……そのお言葉は、俺ではなく、ノアこそがふさわしいと思います」


 ノアと姫の間にある想いを、俺は知っていた。

 俺がミラを想ってあの戦場を戦い抜いた様に、ノアもまた、姫を想い、命を賭して戦っていた。

 王も王妃も、驚いた後、優しく微笑まれた。

 そして、祝福の拍手が謁見の間に広がった。


 ノアの頬を伝った涙を見て、俺は心の底から思った。

 ……やっと、みんなが救われたんだ。

 今度こそ、本当に。


 その夜は大規模な凱旋パレードが行われた。

 街中に歓声が溢れ、人々が花を投げ、俺たちの名を叫んでくれた。

 けれど、あの喧騒の中で、俺の心はもう別の場所にあった。

 祭りの熱気も、名誉の言葉も、耳に入らなかった。

 俺の胸にあるのはただ一つ。あの小さな村の薬屋。


 天使の様な優しい空気を纏う、彼女のもとに帰りたい。それだけだった。


 宴の乾杯を任され、王城の大広間でグラスを掲げ終えた瞬間、俺はもう席を立っていた。

 心臓が暴れるみたいに高鳴って、足が自然にミラのいる場所を目指していた。


 夜風を切って駆け抜ける。

 見慣れた通りの先に、小さく灯る明かりが見えた。

 まだ店の灯が点いている。彼女はきっとまだ起きている。


 ドアノブを握る手が震えた。

 深呼吸して、静かに扉を開ける。


 「……久しぶりだな、ミラ」


 薬瓶の並ぶ棚の向こうで、ミラが振り返った。

 その瞬間、世界が音を失ったように感じた。

 三年越しに見る彼女は頬の線が少し大人びていて、以前よりも女性らしくなっていた。


 「……カイル?」


 震える声で俺の名を呼ぶ。

 鈴の様な可愛い声で、彼女が俺の名前を呼んでくれる。何年も、何百回も夢で聞いた声。やっと現実に戻ってきた。

 それだけでもう、泣きたいくらいに嬉しかった。


 懐かしい優しい薄茶色の髪、爽やかな青色の瞳は驚きで大きく見開かれている。

 彼女の白くて美しい肌を抱きしめたくなる衝動を必死でこらえた。


「……ミラ。やっと魔王を倒せたよ。君を……守れた」


 そう言って、驚く彼女を見つめながら、俺はふわりと微笑んだ。


 それから、俺たちはこれまでのことを話し合った。

 ミラが、俺のいなくなったことを悲しみ、苦しんでくれていたと聞かされた。

 申し訳なさと同時に、そんなふうに思ってくれていたことへの嬉しさで、胸がいっぱいになった。


「ミラ。あの日、君に命を救われて、俺は生きる意味をもらった。だから今度は、俺が君の生きる意味になりたい。お願いだ。君の世界を、俺に守らせて欲しい」


 これからは、もう絶対に離さない。

 ずっと一緒に居て、君をこの手で守って、大切にして、今まで出来なかった分、めちゃくちゃに甘やかしてやりたい……。


「カイル、それは卑怯だわ。……そんなふうに言われたら、もう怒れないじゃない……」


 彼女がそう言って優しく微笑んでくれて、俺は満ち足りた幸福感に包まれた。

 柔らかい灯りの下で、彼女が優しく笑う。その笑顔は、まるで世界が静かに祝福しているかのように、穏やかで慈愛に満ちていた。


 「あなたが私のこと、本当の家族……、姉弟みたいに思ってくれてたって分かって、本当に嬉しい。 私も、ずっとそうだったから……」


 ん……?今、姉弟って言ったか……?


 優しく笑う彼女の顔が、急に遠く感じた。

 あんなに近くにいたはずなのに、胸の奥が冷たく沈んでいく。


 それまでは嬉しくて、幸せで、ただ彼女の言葉に包まれていたのに。

 今、確かに何かがずれている、ーーそう感じた。


 姉弟への想い?……いや、全然違う。俺の想いはそんなものじゃない。


 俺は眉を寄せて、口を開きかけた。


 すると彼女が、俺が何か話す前に、何の悪気もなく、優しく慈しみを込めた微笑みを浮かべながら続けた。


 「そういえば、今日、常連のお客様から聞いたんだけど、あなた、エメラルド姫様と結婚するんですってね。本当におめでとう、カイル。……王城に入ったら、頻繁にはお店に来れないだろうけど、時々は遊びに来てくれたら嬉しいわ」


「はぁ……?」


 自分でも驚くほどに冷たい声が口から漏れた。

 何を言われたのか、一瞬理解できなかった。


 姫の相手は俺じゃ無いし、俺の相手も姫じゃ無い。


 いや、それよりも。そんな事よりももっと、俺にとって何よりも重要な、ミラ自身の気持ち。

 俺が他の誰かと結ばれることを、何の痛みもなく純粋に喜んでいる姿に、胸の奥が、きしむほど痛んだ。

 

 そんな俺の心情など知る由もなく、彼女の空気を読まない発言は続く。


 「あ、……さすがに無理よね。カイル、ゆくゆくは王様になるんだものね」


 その言葉に、また、胸がズキリと痛くなった。


 ……もしかして今まで俺は、彼女に、これっぽっちも男として見られてなかったのか?


 衝撃的な事実を告げられ、俺は前髪をぐしゃりとかき上げて、頭を抱えたい衝動に駆られた。


「……違う。姫の相手は俺じゃない」


 喉の奥から絞り出すような、低い声が漏れた。


 勝手に居なくなったのは、俺が確実に悪い。だからせめて、会ってからは、彼女に対して優しい顔を見せて、穏やかに振る舞おうーー。

 そんなふうに思っていた考えは、一瞬で吹き飛んだ。


 俺は大きくため息をひとつ吐き、視線を彼女に向ける。


 「……ああ、そうか……。君が、全く何もわかってないってことが、今、はっきり分かった」


 もう、これまでの『ゆるいやり方』では伝わらない。

 言葉も態度も、今の俺の想いを表現しきれていない。

 だから、俺は決めた。


「確実に悪いのは俺だし、君のペースに合わせてゆっくり攻めようと思っていたけど、もういい。……攻め方変える」


 言うと、俺は彼女を強く抱き寄せた。

 こんなことになるなんて、きっと考えてもいなかったであろう彼女の肩が、驚きに小さく震えた。

 元の姿でミラと対面するのはこれが初めてだが、抱きしめた瞬間、彼女の身体が自分の胸の中にすっぽりと収まり、その小ささと身体の柔らかさに、ドキリと心臓が跳ねた。

 彼女の華奢な身体は、これまで幾度となく想像してきたものよりもずっと柔らかくて、ふわりといい匂いがして、堪らない気持ちになる。

 彼女の顔が目の前にあり、彼女の唇に視線を奪われる。薄く桃色に染まっていて、息が詰まるほど綺麗だった。


 衝動に抗えず、俺はそっと彼女の顎に手を添えて、視線を合わせる。

 そして、どこまでも鈍感な彼女にもきちんと伝わるように、真っ直ぐに言葉を紡いだ。


 「ミラ、俺は君を姉弟のように思ったことなんて、一度もない……。俺は、君が好きだ。戦っている間も、死にかけた時も、頭に浮かんでいたのは、君の笑顔だけだった」


 息をつく暇もなく、続ける。


「俺の好きは、出会った頃から変わらない。……君の事を守りたいと思うと同時に、君の全てが欲しいと、これまでずっと、そう思い続けてきてた」


 思いを言い切った瞬間、もう我慢ができなくて、俺は自分の唇を彼女の唇に押し付けた。

 柔らかく甘い感触に、身体中の力が蕩ける。

 唇を離しても、心臓の鼓動は落ち着かず、俺の意識はすべて彼女に集中していた。


 「俺の“好き”は、こういう好きだ」


 頬を赤く染め上げて固まる彼女。

 もう引く理由なんてどこにもない。

 俺は再び、彼女の唇にゆっくりと触れる。今度は、長く、甘く。


 「んっ……」


 小さく漏れた吐息が、耳の奥をくすぐった。


 「ミラ……可愛い」


 そう囁くと、彼女の身体がびくりと震える。

 その仕草に煽られて、唇で頬をなぞり、耳に触れ、首筋へと降りていく。


 「カ、カイル……やっ……もっ、もう……やめて……」


 震える声。柔らかな手で胸を押すかすかな力。

 目元を少し潤ませて頬を染めながら小さく抵抗する姿が愛おしくて、もっと欲しい衝動に駆られる。

 けれど、さすがにこれ以上は彼女が限界だとも分かった。

 今ここで衝動に任せてやりすぎて嫌われたり、避けられるのは、絶対に嫌だ。

 何とか理性を総動員して、無理やり気持ちを抑え込んだ。


 名残惜しさを抱えながら、胸を押してきた彼女の細い手をそっと取る。

 そして、その指先に軽く唇を落とし、囁いた。


 「……ミラ、好きだ。俺は、ずっと君だけを愛してる」


 顔を真っ赤に染めた彼女の頬が、さらに深い色に変わる。


 「これから、時間をかけて分かってもらうつもりでいるから、覚悟しておいてくれ」


 涙目のまま見上げてくる彼女の耳元に唇を寄せて、甘く、熱を込めた声でそう囁いた。










見つけてくださり、お読みいただき、誠にありがとうございます!


時系列と年齢設定について、少しややこしくしてしまったので、ここで簡単に補足させて頂きます。


まず時系列ですが、勇者パーティーが一回目の魔王討伐の旅に出てから二回目の討伐で魔王を倒すまでにかかった期間は十年間で、ミラとカイルが出会ってから魔王を討伐し、再会するまでの期間は八年間です。


次に年齢設定についてですが、カイルは十五歳で魔王討伐に出て、十七歳の時に一度目の魔王との戦闘をしています。そこで負けてしまい、十七歳のまま魂年齢を止められて、身体は五歳くらいに戻されています。


ですので、ミラとカイルが出会った時、ミラは十歳、カイルは脳年齢が十七歳で、見た目の年齢は五歳程度です。


母死亡時点で、ミラ十五歳、カイルは八歳くらいの見た目になっています。


魔王の再討伐に出る時にはカイルは完全復活し、十七歳の身体に戻り、そこから魂年齢も動き出します。


魔王を無事に討伐し、再会時点で、ミラ十八歳、カイル二十歳です。


カイルはかなり歳下の女の子に惚れた事になりますが、もしも出会った時にカイルの年齢が本当に五歳だったとしても、逆に三十歳とかもっと上だったとしても、やっぱりミラの事を好きになっていたので、カイルの恋愛に、年齢は関係無いみたいです。


さて、この後は、本格的に、たった一人を溺愛したい勇者と、ずっと弟の様に思っていた魔道具屋の女の子の攻防戦を書いていきます。


以降のエピソードについては、書き上がり次第、随時投稿させて頂きます。

投稿時間については、朝7:00を予定しています。


引き続き、お読み頂けますと、とても嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします。


陽ノ下 咲

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