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三年越しの再会は甘く切なく突然で  作者: 陽ノ下 咲


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20/21

後日談.関係が変わって

主な登場人物

ミラ・リース

十八歳。薄茶の髪と空のような青い瞳を持つ魔道具屋の娘。幼くして父を亡くし、最愛の母も十五歳で亡くし、今は一人で魔道具屋を切り盛りしている。芯の強い優しい性格。


カイル・ベイン

二十歳。黒髪短髪、鋭い金の瞳、鍛えられた体躯の勇者。一度魔王討伐に失敗し、幼児化と昏睡を経験し、その時にミラに命と心を救われ、恋に落ちた。不器用な性格だが、ミラを想う気持ちは誰よりも強い。



 カイルに気持ちを伝え、恋人同士になって少し経った頃。彼にに「屋敷に来てほしい」と言われた。


 思えばカイルの家を訪ねるのは今日が初めてで、そのせいか昨夜は妙に胸がそわそわして、なかなか寝付く事が出来なかった。

 家に招待された嬉しさと、どこか落ち着かない気持ちが入り混じって、ベッドの中で何度も姿勢を変えてしまった。



 そして今、私はカイルの伯爵邸の前で、胸の下で組んだ手をぎゅっと握りしめている。


 予想以上に大きくて豪華なお屋敷で、別の意味で緊張してしまっていた。

 門から玄関まで続く白い石畳は丁寧に磨かれ、両脇の花壇には季節の花が整然と植えられている。

 すべてがきちんと統制されていて、まるで私のような庶民とは世界が違う、と言われているみたいに感じて。いざこの格式の高さを前にすると、場違いな気がして胸がひやりと冷え、恐れ多さに思わず足がすくんだ。


「ミラ、大丈夫か……?なんか様子が……」


 気がつけば目の前にカイルが立っていた。

 黒髪を朝日が柔らかく照らし、金の瞳がまっすぐに少し心配そうな表情で私を見つめている。その目に射抜かれるだけで胸がきゅっと苦しくなった。


「だ、大丈夫よ。ただ、思っていたよりもずいぶん立派なお屋敷だから……ちょっと緊張してしまって……」


 私の言葉に、カイルは肩の力を抜いたように微笑んだ。


「緊張なんてしないでくれ。これからは……、いや、……なんでもない」


 カイルが少し頬を染めて言葉を濁す。何か言いにくいことでもあるのかと思ったその時、骨ばった彼の手が私の手に重ねられた。


 途端にドキッとして胸の鼓動が高鳴る。どうしていいか分からずにいると、 カイルがそっと手を引いて屋敷の中へと導いてくれた。

 その先に広がる光景に、私は息を呑んだ。


 玄関ホールは高い天井に大きなシャンデリアが輝き、まずその広さに圧倒された。 壁には、国王から贈られたという由緒ある装飾品が静かに飾られている。

 けれど、家具の配置はすっきりとしていて、色味も落ち着いている。どこか凛とした空気が漂っていて、無駄な装飾やぎらついた豪華さはない。


 ……なんだか、カイルみたい。


 そう思うと、なんだか気持ちがほっとして、自分でも少し笑ってしまった。


「ミラ?」

「ううん、なんでもないの。カイルらしくて素敵なお屋敷だなって思っただけよ」

「気に入ってくれたなら良かった」


 カイルはどこか嬉しそうにふわりと微笑むと、手を繋いだまま歩き出した。


「君に見て欲しい場所があるんだ」


 そう言ってまた私の手を取って歩き出す。その時、握り返した指先がほんの少し震えているのに気がついた。

 もしかして、こうして手を引いてくれている彼も、内心では緊張しているのかなと思うと、愛しさで胸がキュンとなった。


 廊下を抜け、階段を上り、屋敷の奥へと進む。やがて行き着いたのは、ひっそりと静まり返った二階の一室。


 カイルは扉を開け、私を中へと促した。


 ……かわいい部屋。


 白を基調にした優しい雰囲気で、木製の床は柔らかい色味をしている。丸みを帯びた家具が多く、窓辺には小さなレースのカーテン。壁に飾られたドライフラワーも、どこか懐かしい。


「カイル、ここの部屋、可愛くてとても落ち着くわね」


 素直にそう口にすると、カイルは視線を逸らして耳の先まで赤くして、少し緊張した表情で言った。


「……良かった。実はここ、君のために用意した部屋なんだ」

「……え?」

「隣は俺の部屋で……、あの壁についてるドアを開けると、この君の部屋と行き来できるようになってるんだ」


 そう言って壁についたドアを指差した。彼の言葉に頭が追いつかず、戸惑いの声を上げる。


 けれど、その一瞬の隙に、カイルが私の目の前で、片膝をついた。

 その動きがあまりにも滑らかで、美しくて、思わず息をのむ。


 続けて彼は、上着の内ポケットへとゆっくり手を伸ばし、そこからそっと小さな箱を取り出した。蓋が静かに開かれると同時に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


 箱の中には、細やかな細工が施された、上品なゴールドのリングが静かに収められていた。

 光を受けて、中央のイエローダイヤがやわらかく輝く。その色は、まるでカイルの瞳を思わせるような、優しく温かい色をしていた。


「ミラ」


 名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねて、言葉が喉に詰まった。


「俺と、……結婚してくれないか?」


 一瞬、息が、止まった。


 心臓が痛いほどに脈打って、喉の奥が熱くなる。なんて返せばいいのか分からず、ただカイルを見つめることしかできなかった。


「……ミラ?」


 答えにつまってしまった私に、何を思ったのか、不安げにこちらを見つめる金の瞳とかち合った。 

 その姿に、胸の奥から溢れ出すような愛しさが込みあげて、全身がじんと熱くなった。


 もう迷う理由なんてないと、はっきり思った。


「……ええ。喜んで」


 その瞬間、カイルの顔に浮かんだ笑みは今まで見たどんな表情よりも、優しくて、幸せそうで、蕩けるようだった。


「……嬉しい。本当に嬉しいよ。……ありがとう、ミラ」


 指輪をそっと薬指にはめられる。

 その手が震えていて、それがまた、凄く愛おしくてたまらなかった。


 次の瞬間、強く抱き寄せられた。

 胸に押しつけられる鼓動が速くて、彼の熱がそのまま伝わってくる。

 耳元でふっとかすめたカイルの息づかいと、いつもの落ち着いた、どこか懐かしい匂いに包まれて、安心すると同時に、全身が一気に熱くなる。

 触れられているところから、ドキドキが止まらずに広がっていく。


 そして、唇が触れた。優しく触れたキスは、すぐに深いものへと変わった。


「……ミラ、好きだ……」


 声が耳元に落ちるたび、体の奥まで甘い熱が広がっていく。


「ずっと君だけを愛してる」


 熱く囁かれ、もう一度触れた唇は、息が苦しくなるほど深くて、舌が触れ合うたびに全身が震えた。


「……カイル……私も、好きよ……」


 愛しくてたまらなくなって名前を囁くと、抑えきれない想いを含んだ、どこか切なく甘い声が彼の喉から零れた。

 息が混ざる。唇の間で甘い音が響く。体温が溶け合うみたいに、彼の熱が私の中に流れ込んでくる。


 どれくらいキスを重ねただろう。


 カイルの腕に抱え上げられ、足がふわりと浮いた。


「……ミラ。ベッドに行ってもいいか?」


 秘めた熱を、必死に抑えているような切なくて低い声。

 胸がきゅんと締めつけられた。


「……うん」


 私が頷くと、カイルは私を宝物に触れるような優しい手つきで抱いたまま、ベッドへ向かった。

 その一つひとつの仕草があまりに丁寧で、思わず胸の奥がふっと熱くなる。


 柔らかなシーツの上にそっと横たえられ、そのすぐ上から、カイルの影が私を包むように覆いかぶさった。

 息をのむほど近い距離で、彼の熱と視線が降り注ぐ。触れられる前から、胸の奥が激しく高鳴って、逃げ場のないほどに彼を意識してしまう。


 そっと唇が触れる。


「ミラ……」


 耳元で、低く熱を帯びた声で名前を呼ばれ、心臓が掴まれたみたいにキュッとなった。

 カイルの愛情に包まれるほど、幸せで胸が満たされる。だけどその分、自分の今の居場所がぼやけてしまうような不安もあった。

 魔道具屋で過ごしてきた日々や、お客さんたちとの関係。……これまでずっと大切にしてきたものまで、急に遠ざかってしまう気がして。

 

「……ねえ、カイル、お願いがあるの。言ってもいい?」


 そう聞くと、カイルが動きを止めて、顔を上げた。目を大きく開けて、少し驚いた様にこちらを見る。そしてその後、凄く嬉しそうな声を出した。


「もちろんだ。ミラからお願いしてもらえるなんて、凄く嬉しい。俺は、君の為なら、なんだってしたいから」

「ありがとう。……あのね、結婚した後も、魔道具屋の仕事は続けてもいいかしら……?」


 カイルは目を瞬かせたあと、すぐに穏やかに微笑んだ。


「ああ。君が続けたいのなら、もちろん構わない。誰がなんと言おうと、俺は反対しない」

「……ありがとう。良かった。常連さんもいるし、あそこは私にとって、とても大切な場所だから……」

「うん。……あそこは俺にとっても、大切な思い出の場所だ」


 ふわりと幸せそうな笑顔でそう言ってくれるカイルに、私も優しい気持ちが溢れる。


「ふふ……そうね」


 穏やかに微笑み合う。その後、カイルが急かす様に聞いてきた。


「……で、お願いは……?」

「え、今のがお願いだけど……?」


 途端に訝しげな顔になる。

 

「え?……今のは全然、お願いじゃないだろ。もっとないのか?俺はもっと君を甘やかしたい。もっといろいろ言ってくれていいんだ」

「ありがとう、カイル。でも、十分よ」


 本当に、もう充分過ぎるほど愛されている事を実感していて、これ以上はキャパオーバーになってしまう。そう思って伝えると、カイルは少し不服そうな顔になった。


「……まあ、これからいくらでも時間はあるからな。君がもっと望んでくれる様になるまで、焦らず待つさ」


 そう言ってふっと微笑む顔に、きゅっと胸が痛くなった。

 そして、視線が絡み、またキスが落ちてくる。触れた唇はとても甘くて、深くて、全身が痺れる様だった。


 カイルの手が頬をなぞり、髪を撫で、肩に触れる。そして、胸の奥まで届くような熱いキス。

 頭がぼんやりとしてきて、体がとろけるんじゃないかと思った。

 カイルの額が私の額に触れ、息が混ざり合う距離で、彼の目が私だけを映す。


「……かわいい」


 耳元で熱く囁かれ、唇が触れる。求められているのがはっきりと分かる、深くて、熱を帯びた口づけ。


「……ミラ」


 名前を呼ぶ声が、まるで何かを堪えているように震えていて、その響きが耳の奥で痺れる。


 カイルの指が優しく頬を撫で、唇を食む様に吸われる。ちゅ、ちゅ、と繰り返されると、お腹の奥から気持ち良さが迫り上がってきて、じわじわと全身が熱を帯びてくる。


 シーツの上で握った手が震えてしまうと、カイルはすぐにその手を包み込んでくれた。

 私の手を優しく握る大きな手の温もりに、胸がぎゅっと締めつけられて、身体に緊張が走った。

 すると、カイルが耳に唇を近づけて、優しい声で囁く。


「……怖い?」

「こ、怖くなんて……ないわ。ただ、その……緊張してるだけ……」


 正直すぎる告白に、自分でも頬が熱くなる。

 カイルが、ふわりと微笑んだ。ゆっくりと、優しく、胸の奥を溶かすみたいに。


「俺も……緊張してる。君が相手だと、どうしても……」


 その言葉の後、再びふっと視線を落とされ、額が私の額に触れた。

 くすぐったいほど近くて、息が混ざる距離。その距離が、たまらなく愛おしい。


「好きだ……ミラ……。堪らなく君が好きで……どうしようもない……」

「……私も……。好きよ、カイル……」


 言葉にした途端、カイルの指がびくりと震え、握った手にくっと力がこもった。


 次の瞬間、彼はその手を胸の前へと導き、まるで祈るみたいに優しい口づけを落とした。

 長い黒髪が揺れ、その一瞬があまりに優しくて、胸の奥がきゅっと疼いた。


「……信じられないくらい、幸せなんだ。今、君と、こうしていられることが」

「カイル……」


 彼はゆっくり顔を上げ、私の頬に手を伸ばし、そっと目尻指に触れ、目を細めた。


「……涙」

「え?」


 触れられた指先に目尻を優しく拭われて、涙が溢れていることに気がついた。


「あ……ごめんなさい。なんだか……幸せすぎて」

「謝ることじゃない。……君にそんな顔をさせられて、俺は……嬉しい」


 低くて甘い声。次の瞬間、そっとキスを落とされた。瞼に、頬に、鼻筋に。


 どれも丁寧で、慈しむみたいで、胸がぎゅうっと締め付けられる。


 キスを続けながら、カイルが指先で私の髪をそっと梳いた。そのまま、耳の後ろ、首筋、肩へと下がっていく。

 彼の指先が肌に触れるたび、ビクリと小さく体が震えた。その途端、カイルが動きを止める。


「……ごめん、夢中になってた。……嫌だったか?」

「ち、違うの……ただ、その……恥ずかしくて……」


 恥ずかしさから、顔を手で覆いかけた瞬間、カイルに手をそっと取りのぞかれた。


「……隠さないでほしい。……君の顔、全部見たいから」


 その言葉だけで、体の芯が溶けるみたいに熱くなる。

 カイルが身をかがめ、また濃い口づけを落としてきた。舌が触れ合い、息が絡まり、甘い音が洩れる。


 胸の前で握った手を包み込まれ、指先同士が絡まり、そのままベッドに押しつけられ、身体が密着する。


「……好きだ。ミラ……。愛してる」

「……私もよ、カイル。……愛してるわ」


 熱く囁き合ってお互いの体温を感じたまま、私は彼の熱に身を委ねた。



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