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三年越しの再会は甘く切なく突然で  作者: 陽ノ下 咲


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13/13

13.女子会での一幕①(ミラ視点)

主な登場人物

ミラ・リース

十八歳。薄茶の髪と空のような青い瞳を持つ魔道具屋の娘。幼くして父を亡くし、最愛の母も十五歳で亡くし、今は一人で魔道具屋を切り盛りしている。芯の強い優しい性格。


カイル・ベイン

二十歳。黒髪短髪、鋭い金の瞳、鍛えられた体躯の勇者。一度魔王討伐に失敗し、幼児化と昏睡を経験し、その時にミラに命と心を救われ、恋に落ちた。不器用な性格だが、ミラを想う気持ちは誰よりも強い。


勇者パーティーメンバー

リサ:二十六歳。長い黒髪、黒い瞳の、大胆で茶目っ気のある弓使いの女性。髪は後ろで一つに縛っている。


メル:二十四歳。金髪ボブヘア、黄緑の瞳の、真面目で清楚な僧侶の女性。


アーロン:二十八歳。鳶色の髪、焦茶の瞳の、冗談好きで素直な剣士の男性。


ノア:二十五歳。青い髪、漆黒の瞳の、冷静で無口で、意外と仲間思いな魔導士の男性。魔王討伐後、カイルの進言により、エメラルド姫と婚約した。


 棚に並ぶ薬草やポーションの瓶が、午後の光を受けてほのかに輝いていた。ガラス越しに差し込む陽の光が、空気の中を漂う細かな塵をきらきらと照らしている。

 静かで穏やかな時間けれど、胸の中だけは、どうしても静まらなかった。


 この前カイルと二人で出かけた時、私は彼が好きだということを、はっきりと自覚した。


 その瞬間から、世界が少し違って見えるようになった。見慣れた道も、いつもの朝の空も、普段何気なく見ている物が全部、昨日までよりずっと綺麗に感じる。


 ……恋って、こんなにも人の心を変えるものなのね。


 そう思うと同時に、胸がきゅっと締めつけられるような、くすぐったいような不思議な気持ちが込み上げてくる。


 だけど今は、仕事中。


「集中しなきゃっ……!」


 両手で頬を軽く叩き、私は気を引き締めた。仕分け途中の薬草をまとめて棚に戻し、店先を整える。パチン、と木箱の留め具を閉めたその時。


 カラン、とドアベルが鳴った。


「いらっしゃいませ」


 笑顔を作って顔を上げる。そして、思わず目を瞬かせた。


「こんにちは、ミラちゃん!」

「ごきげんよう、ミラさん」


 そこに立っていたのは、見覚えのある二人の女性。カイルのパーティーメンバーの弓使いのリサさんと、僧侶のメルさんだった。カイルの仲間であり、以前晩餐会で一度だけご一緒したことのある二人が、店の玄関で小さく手を振っていた。


 晩餐会で会ったときは二人ともドレス姿だったが、今日のリサさんは、ノースリーブの黒いトップスに淡いベージュのジャケットを羽織り、スリットの入ったスカートを合わせたクールな装いだった。

 黒い瞳を輝かせ、長い黒髪を後ろでひとつに束ねた凛としたその姿は、大人の女性の魅力に満ちていて、思わず見とれてしまうほどだった。


 一方のメルさんは、金のボブヘアをふんわりと整え、淡いミントグリーンのロングワンピースに身を包んでいた。

 黄緑の瞳がやわらかく微笑み、彼女のまとう穏やかで優しい空気に、見ているだけで心がほぐれていくようだった。


 以前に見たドレス姿も本当に美しかったけれど、今日の二人の普段着も、それぞれの魅力が際立っていて、思わず、一瞬その場で立ち尽くしてしまった。

 ハッとして、気を取り直し、挨拶を返した。


「リサさん、メルさん!お久しぶりです。いらっしゃいませ」

「うん、久しぶり!」


 リサさんが明るい笑顔で嬉しそうに言う。

 陽気な声に空気がふっと明るくなる。一方で、メルさんは微笑みながら並ぶ瓶を丁寧に見ている。


「どのポーションも、色がとても澄んでいますね。素材の扱いが丁寧なのが分かります。本当に、良いお店ですね」


「わ……ありがとうございます!そう言ってもらえると、本当に嬉しいです」


 胸の奥がじんわりと温かくなる。魔道具やポーションの品質を褒められることは、何よりも励みだった。


「今日はポーションの補充も目的ではあるんですけど……」


 メルさんがそう言いかけると、隣でリサさんがにやっと笑った。


「うん、それもあるけどね。実は、もうひとつ大事な用事があるの」

「大事な用事……ですか?」

「そう!」


 リサさんは勢いよく身を乗り出す。


「ミラちゃん、近々三人でご飯食べに行かない?美味しいご飯食べながら、色々お話ししようよ!」

「っ、嬉しいです……!」


 思わず目を見開いた。

 まさか自分が勇者パーティーの人たちと食事をする日が来るなんて、想像もしなかった。


「もちろん行きます!ぜひご一緒させてください!」

「やった!」


 リサさんが嬉しそうに手を叩き、メルさんも柔らかく微笑んだ。


「リサのおすすめのお店に行きましょう。あそこのお料理、とても美味しいんです」


 こうして、お二人と一緒に食事をすることが決まった。



 そして数日後の夕方。

 街の中心部にある石畳の路地を抜けると、暖かな灯りのともる小さなレストランが見えてきた。

 扉の上には葡萄の蔦が垂れ、木製の看板に手書きの文字が揺れている。

 中からは香ばしい料理の香りと、楽しそうな笑い声が流れていた。


「ここ、煮込み料理が最高なんだよ!」


 リサさんが得意げに言って、ドアを押し開ける。

 柔らかなランプの光がテーブルを包み、木の壁には花のリースが飾られている。

 心地よい空間に、緊張していた心がすっとほぐれていった。


 料理が運ばれてきて、一気にテーブルが賑やかになる。成人済みの二人は果実酒、私は白ブドウジュースのグラスをそれぞれ持ち、三人で乾杯をする。


 そして、最初に出た話題は、意外なものだった。


「ミラさん、実は私たち……あなたにお礼を言いたかったんです」


 メルさんが穏やかな声でそう言った。


「えっ……お礼、ですか?」

「ええ。カイルを、救ってくれてありがとうございました」

「……え?」


 手にしていたスプーンが止まった。隣でリサさんも、真剣な表情でうなずく。


「カイルからは簡単にしか聞いてないけど、あいつが魔王に魔力奪われて、もう駄目かもって時に助けてくれたのが、ミラちゃんなんでしょ?本当にありがとう。……あの時あなたがいなかったら、今の平和はなかった」

「そ、そんな……私なんて……」


 思わず首を振る。

 けれど二人のまっすぐな眼差しに、胸がじんわりと熱くなっていく。


「むしろあの時、救われていたのは私たち家族の方でした。カイルと一緒に過ごした数年間、……あの時間があったから、私も母も救われたんです」


そして、一拍置いて、二人をしっかりと見つめ、続ける。


「それに、今こうして世界が平和なのは、皆さんが魔王を倒してくださったおかげです。私だけじゃなくて、国中の人が本当に、心から感謝しています。本当にありがとうございました」


 そう言って頭を下げると、リサさんが少し驚いたように笑った。


「ありがとう。本当に、ミラちゃんはいい子だね……。……ほんと、カイルにこんな出来た可愛い彼女がいたなんて、びっくり」


  優しい声でそう言ってくれるリサさんに、私は驚いた。


「え、えっ!?か、彼女って……ち、違います!私、彼女じゃないです!」


 慌ててそう言う私に、リサさんとメルさんは同時に目を見開いた。


「え?違うの?」

「はい……。その……好きっていう気持ちは、つい最近やっと、はっきり気づいたんですけど……」


 初めて自分以外の誰かに思いを口にした。その嬉しさと恥ずかしさで頬が熱くなってきて、言葉の最後の方は、だんだん声が小さくなっていく。

 きっと今、私の頬は真っ赤になっている。


「「……え?」」


 聞いていた二人が、同時にぽかんと口を開けた。

 次の瞬間、リサさんが箸を置いて身を乗り出した。


「ちょ、ちょっと待って。それ、マジ……!?え、でもあいつのピアス、ミラちゃんの目の色だよね?晩餐会の時にあなたがつけてたイヤリングも、カイルの目の色だったし……。だからてっきり二人は付き合ってるのかと思ってたよ」

「え、ピアスの色……?」


 思わず手が止まる。

 メルさんが、少し驚いたように目を瞬かせた。


「もしかして……ミラさん、気づいていなかったんですか?」

「ピアスって……あの、青色の……?え……?」


 言われて初めて気がついた。

 カイルの耳元で光っている、小さな青い宝石の付いたピアス。

 カイルに凄く似合っていて、以前、本人に直接褒めた事もあった。その時、凄く幸せそうに微笑んでくれたのはまだ記憶に新しい。


 言われてみると、確かに私の瞳と同じ色だ。


 ーーえ……あれって、まさか。


 瞬間、全身に熱が広がった。

 頬がボッと熱くなり、胸の鼓動が早くなる。

 まるで心臓の音がテーブルに響きそうで、慌てて手を握りしめた。


「え、ええっ……! あれって、そういう……意味、だったんですか……?」

「やっぱり気づいてなかったんだね」


 リサさんがからかうように笑う。


「意外と束縛すごいんだね、カイルって。付き合っても無いのに自分のものアピールする奴だったんだ」

「でも、それもカイルらしいですよね。あの人、言葉よりも行動で示すところがありますから」


 メルさんも苦笑しながら、どこか楽しそうな声でそう言う。

 私はもう何も言えなかった。

 顔が燃えるように熱くて、胸の奥が恥ずかしさと、それ以上の嬉しさでいっぱいになる。

 カイルが、自分の瞳の色を身につけてくれていた。

 言葉だけではなく、全身で気持ちを伝えようとしてくれたのだと思うと、胸の奥がじんわりと温かく満たされていった。


「……もう……カイルってば……」


 思わず小さく呟くと、二人が優しく笑った。

 恥ずかしさを紛らわせようと、私はグラスに入ったジュースを一気に飲み干す。白ブドウの甘い香りが鼻先をくすぐった。




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